昭和631988)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

63−共研−18

専門分類

2

研究課題名

スーパーコンピュータによる地震波トモグラフィー

フリガナ

代表者氏名

フカオ ヨシオ

深尾 良夫

ローマ字

所属機関

名古屋大学

所属部局

理学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

4 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

地震波を用いた地球内部3次元構造の研究は,近年データ量の増加と計算機能力の向上が相まって,益々高分解能な解析結果が期待できるようになってきた。我々は地球規模の地震波走時トモグラフィーにおける特殊性を考慮した計算手法を既に開発し,一応の結果を得ることができた。しかし,地震学的にはさらに高い分解能が必要であり,また信頼のおける解を得るためにはまだまだ研究すべき点が多く残されている。本研究の目的は将来的に問題の規模が更に巨大化することを考慮して,スーパーコンピュータの能力を最大限に活用した地震波トモグラフィー手法を確立することにある。


近年,地球内部の3次元不均質構造に関する研究は高精度デジタル地震計と高速計算機の発展によって著しい進展を見せている。我々は前年度までの共同研究で全マントルP波トモグラフィーのアルゴリズムを開発した。ISCにより編集された20年間にわたる走時データに,この手法を適用して一応の成果を得た。(共研リポート9)しかし,同研究では計算機能力の制限から,空間的分解能が水平方向で5.6°であり,これは沈み込み帯等の微細構造を明らかにする目的には必ずしも十分ではなかった。また20年分のデータのうち,かなりの部分を利用することができなかった。
本研究は次のステップとして,近年注目をあびているスーパーコンピュータを用いて計算時間を削減することにより,より多くりデータの利用と,より多くの未知パラメタの推定を試たものである。スーパーコンピュータ向きのアルゴリズム改良には名古屋大学大型計算機センターのFACOMVP200を用いた。
同機には自動ベクトル化FORTRANコンパイラが装備されており,コーディングを変更せずともある程度の高速化が期待されたが,実際にはベクトル化率が低く,さらに悪いことに付属のスカラープロセッサが低速なため,小さな問題では逆に遅くなってしまった。
そこで最も計算時間のかかる部分の1つであるCG法による逆投影の部分に,強制ベクトル化号の再コーディングを行なったところ,大きな問題に関しては約2倍程度の速度向上がみられた。一般に言われているような数倍〜数十倍の向上は得られなかったが,その原因は,CG法で非ゼロ要素のみを記憶するためのリストベクトル処理にあることがわかった。従って少くともVP200と,現在のコンパイラを用いる限りにおいては,速度向上は2倍が限度と見てよい。
しかしながら,実体波トモグラフィーでは,未知パラメタ数を8倍に増加させても計算量は2倍で済むため,この2倍の速度向上は地球物理学的には大きな意味をもつと言える。従って本研究は一応の成果があったものと解釈される。
今後,他のメーカーマシンの利用も含めて,更なる高速化手法の開発が望まれる。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Inoue,H.,Fukao,Y.,Tanabe,K.,Ogata,Y.,(1989)
Whole mantle P−wave travel time tomography,Phys.Earth Planet.Inter.,(in press)


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

我々の開発したプログラムでは,モデルパラメタ数が数万,パスの数が数十万程度までの問題を辛うじて解くことが可能である。しかし,実際の手持ちのデータはその10倍程度はあり,更に年々蓄積されて増える一方である。他方,数万個のモデルパラメタで得られる分解能は水平方向では高々数100km程度であり,地球内部の微細構造を表現するためには,まだまだ不足している。このような問題を克服するために,まず現在の解法をスーパーコンピュータ向きにチューンアップすることから着手する。それでも期待される分解能は十分とはいえず,更に,全体を部分部分に分割して解くなどの手法を新たに開発する必要がある。また,解の信頼性の評価,及び解を安定化するためのスムースネスパラメタの決定は解を求めること以上に計算機能力を必要とする。小規模な問題ではほぼ解決済みのこれらの手法を大規模な問題に適用するためには新たな研究が必要である。
これらの問題を解決してゆくためには地震学としての問題の理解,大規模数値計算における特殊性の理解,統計的手法の理解の3点が基本的に重要である。従って本研究を統計数理研究所と共同で行う必要がある。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

井上 公

建築研究所

尾形 良彦

統計数理研究所

田辺 國士

統計数理研究所