平成252013)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

25−共研−2023

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

3

研究課題名

密度管理図を用いた林床植生に関する数理モデリング

フリガナ

代表者氏名

ヨシモト アツシ

吉本 敦

ローマ字

Yoshimoto Atsushi

所属機関

統計数理研究所

所属部局

数理・推論研究系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

55千円

研究参加者数

6 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 木材価格の低迷など森林資源を取り巻く経済環境の悪化により人工林の管理そのものの放棄が問題視されている。管理放棄は木の成長のみならず、林床植生にも大きな影響を与え、仮に林床植生が減少すると水源エリアの広葉樹林と針葉樹人工林の土壌保全が困難になり、その結果、上質の水の供給が減少することが危惧される。本研究では林床植生を増加させるために受光伐や間伐が行われた水源林整備地の50か所136プロット(神奈川県)で、開空度と草本層の植被率及び現存量の関係、種組成を解析し、間伐の影響と林床植生の関係を明らかにした。また、昨今シカの生息による植生への影響が強く、シカ生息密度の影響も考慮するため、シカ対策が施された柵内外での比較分析も行った。これらの結果を既存の成長モデルである密度管理図に取り組むことにより、間伐制御による林床植生動態を描写できる密度管理図を検討し、水質の制御を可能にする林分管理水源モデルへの拡張を検討する。水文過程モデルの構築も沖縄での試験地データを利用して試みた。
まず神奈川県において田村氏が中心となり林床植生に関する調査を行った。
1)開光度:地面から高さ 1m の位置で魚眼レンズを用いて全天空写真を撮影し開空度を算出
2)植生:階層を高木層、亜高木層、低木層、草本層に区分し各階層で全体の植被率と各出現種の種名、被度・鮮度を推定
3)被度: 6 階級(1%以下,1% ~ 10%,10% ~ 25%,25% ~ 50%、50% ~ 75%,75% ~ 100%)で記録(なお、階層は現地の状況に応じて区分)
4)現存量調査:試験区の斜面上部と中部、下部の 3 箇所に 50cm X 50cm の刈り取り枠を設置して、その枠の地上高1. 5m までに含まれる植物を刈り取り、後に乾重量を測定
人工林では、シカの生息密度の高い丹沢の柵外と柵内、シカの生息密度の低い箱根・小仏の3 カテゴリー間で収集したデータを元に多変量解析分析を行った結果、植被率と現存量、種数、多様性指数H'は同程度で、シカの不嗜好性種の相対優占度は丹沢の柵外で高かった。丹沢の柵内と柵外を比較すると、柵内では植被率や現存量、種数が柵外よりも上回る傾向があったが、有意な差は認められなかった。広葉樹林では、丹沢の柵外と柵内、箱根・小仏の3 カテゴロー聞で植被率と現存量に差があり、いずれも丹沢の柵外で少なかった。 また、柵外では不嗜好性種の相対優占度も高かった。これらの結果から、丹沢の人工林と広葉樹林はともにシカの採食影響を受けていることが分かった 。すなわち、丹沢の人工林では間伐の実行が、不嗜好性種の増加をもたらし、土壌保全効果を発揮するものの、質的な改善を図るには間伐とともに柵設定のようなシカ対策が必要であると考えられる。仮に、間伐効果を描写できる密度管理図に間伐効果のアウトプットして、開光度を間伐量の関数として導入し、林床植生を開光度及びシカ対策の有無の関数としてモデルに組み込むことにより、間伐の影響として林床植生を描写でき、林分の水源モデルの構築が可能になることが分かった。今回はデータ解析に基づく密度管理図パラメータの再推定まで行うことができなかったが、次の段階で行って行く予定である。なお、広葉樹林では、施業に優先してシカ対策の実施が望まれる。
上記分析と同時に、水源涵養の要素である水文過程についての理解を深めるため、Kinematic Wave式を組み込んだシミュレーションモデルを用いて降雨流出の関係を、沖縄試験地にて評価した。1998年に観測された、さまざまな降雨イベントについてシミュレーションモデルを適用し、流出のダイナミクスを再現した結果、雨量が極端に少ない降雨イベントを除いては、実測値に近いシミュレーション結果を得ることができた。また、シミュレーションモデルのパラメータについても、研究対象地の環境状態をもっともよく反映する値を明らかにした。
今後は、密度管理図に林床植生の要素を加え、その水質度のようなインデックスの構築により、間伐ー水質の関係を捉え、次に水文過程モデルとの連結により、林分水源涵養モデルへの拡張を行って行く予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/605275.pdf

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

赤石 亮

無職

内山 佳美

神奈川県自然環境保全センター

加茂 憲一

札幌医科大学

木島 真志

琉球大学

田村 淳

神奈川県自然環境保全センター