平成182006)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

18−共研−1027

専門分類

3

研究課題名

金融高頻度データを用いた日次ボラティリティ予測

フリガナ

代表者氏名

モリムネ キミオ

森棟 公夫

ローマ字

Kimio Morimune

所属機関

京都大学

所属部局

大学院経済学研究科

職  名

教授

所在地

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研究目的と成果(経過)の概要

金融時系列のボラティリティ(収益率の条件付き分散)に関する分析は,理論的にも実証的にも特に高い関心を集めている。理由は明らかであって,株式などの金融資産の収益率予測はほとんど不可能であることが知られているが,ボラティリティは収益率に比べれば予測が可能であると考えられるからである。
ボラティリティを推定するために考案された様々なモデルには,ボラティリティが観測不可能な数量であるという本質的な問題が含まれている。条件付き分散モデルはARCH,GARCH,確率的ボラティリティ, EWMAなど現在では枚挙にいとまがない。しかし,これらのモデルによっても,収益率の系列を標準化しても尖度(Kurtosis)が大きくなるといった金融時系列特有の性質を表現できるわけではない。また,収益率を2乗した系列に関して自己相関関数を求めると,値は小さいがなかなか減少していかないという特色を示すが,このような性質を十分に表現できるわけでもない。
金融資産の条件付き分散を予測するための方法の一つとして提案されたのが,実現ボラティリティ(Realized Volatility)である。これは,実現条件付き分散,Realized Conditional Variance,とか実現分散と言われることもある。この推定法は,非常に高頻度のデータが有れば,このデータから求まる標本分散によって,任意の区間の条件付き分散が正確に推定できるというMertonが証明した性質を使っている。実際,収益率データでは,固定区間に含まれる収益率の標本分散ではなく,収益率の2乗和が,条件付き分散の推定量となる。そして,理論的には,固定区間内に含まれる観測個数が無限大に増加するならば,収益率の2乗和は条件付き分散に確率収束する。このような理論的に優れた簡単な性質,さらには全ての取引を電子的に記録するというティックデータの出現により,実現ボラティリティの研究は短期間で大きく広まった。
我々の研究では,外国為替の収益率(対数外国為替の差分)の一日当たりボラティリティは,5分足データから求まる2乗和によって最も正確に推定できることを示した。5分足データは24時間で観測値が288個あるが,この2乗和が,5分より高頻度や低頻度の日中ティックデータを全て使うより,正確な推定値をもたらすのである。この研究結果を信じれば,5分足データを使うことにより,極端に頻度の低い取引,bid-ask bounce, 価格の離散性,非同期取引などのよく知られた原因から生じるミクロ構造ノイズを避ける一方で,精度の高い推定に必要な十分な数の観測個数を確保することができる。
研究の一環として,実現ボラティリティに関する研究の最近の発展を展望した。推定法は非常に簡単であるので,ティックデータが広く使える環境になれば,ボラティリティ予測は全て実現ボラティリティによって行われるようになろう。ただし,ティックデータが含むノイズの影響はティックの本質とも言え,容易に避けられる問題ではない事も分かった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1. “レンジ及び日中データを使用した為替レートのボラティリティー予測”, 現代ファイナンス(日本ファイナンス学会誌),中窪文男, pp.21-47, 2006年3月

2. “裾の厚い分布を持つ長期記憶過程”, 日本統計学会誌,末石直也, p.213-232, 2006年3月

3. “A modified GARCH model with spells of shocks”, Asia Pacific Financial Markets, Liu, Qingfeng,(12) p.29-44, 2006

4. “Volatility Models”, The Japanese Econmic Review, (58) p.1-23, 2007

5. “実現ボラティリティ”, 現代経済学の潮流, (58) p.1-32, 2007 forthcoming

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

金谷 太郎

京都大学

川崎 能典

統計数理研究所