平成292017)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

29−共研−4214

分野分類

統計数理研究所内分野分類

j

主要研究分野分類

7

研究課題名

学際的研究におけるコミュニティ活動と波及効果の考察

重点テーマ

学術文献データ分析の新たな統計科学的アプローチ

フリガナ

代表者氏名

キタムラ ヒロシ

北村 浩

ローマ字

Kitamura Hiroshi

所属機関

摂南大学

所属部局

経営学部

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

68千円

研究参加者数

2 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

 学際的研究の波及効果と研究コミュニティによる『集合知』の生成プロセスの間の因果関係の可視化を解明し、その評価指標を考察すること、特に、異なる領域の科学を統合する『集合知』の可視化・モデル化を試み、学際的研究におけるコミュニティ活動と波及効果の考察を支援する手段を構築してきた。研究の実績(Performance)における研究の成果(Product)として、意図した結果(Outcome)、実活動の結果(Output)、副次的な波及効果(Impact)等を測定するために、研究者の研究に係る行動の履歴情報について、研究者および共創する関係者の活動プロセス(成果発表までのProceedingsやワークショップ記録)のデータ抽出を図り、そのモデル化の解明を試みた。異なる領域における思考が融合する学際的研究の評価については、伝統的な手法のオルトメトリックスによる論文中心の定量的な影響度の評価にもとづいた波及効果を測定するのではなく、学術的活動において関与するワークショップやSNS利活用に対する研究者の参画活動を多様性に考察する活動プロセスの内訳、関係する研究メンバーやその相互依存性を明らかにして、学際的研究の波及効果と研究コミュニティの間の因果関係を示唆する知見がいかに得られるのに着目した。
 学際的研究の波及効果に係る研究コミュニティの影響力の可視化を図るために、研究者の活動プロセスデータ(成果発表までのProceedingsやワークショップ記録等)の中身を明らかにして、そのデータ収集・分析をいかに効果的に行うのかを進めてきた。研究の調査対象コミュニティは、経済学等の社会科学系の研究、学際的研究を推進するグループとして、同志社大学創造経済研究センター(センター長:河島伸子経済学部教授)、関西大学経済実験センター(センター長:小川一仁社会学部教授)の両機関と、デザイン工学系で社会実装を研究するグルーとして、大阪工業大学のロボティクス&デザインセンター(センター長:本田幸夫工学部教授)の『デザイン思考』研究メンバーを対象にした。その所属(当該機関の所属、外部機関の所属)の研究者の業績、研究メンバー、業績に至る活動プロセスデータ(成果発表までのProceedingsやワークショップ記録)の収集を試みた。研究の方法論として、対面のヒアリング調査を主とするソシオメトリックス(Sociometrics)、Proceedings等の学術情報の探索を主とするオルトメトリックス(Altmetrics = alternative metrics)を組み合わせるが、特に、研究メンバー間の記録が明示的に残るコミュニティ活動に係るSNSでの情報の受発信を研究者の行動記録の中心として進めた。
 本研究は、学際的研究の活動プロセスと波及効果の関係を解明すること、コミュニティ調査により、学際的研究に係るコミュニティの『集合知』のモデル化を図ることを目指したが、進捗途上に、次の問題が明らかになった。研究業績の大半は開示データとして社会的に共有されていくが、業績の生成に至る活プロセスを示す研究者個人に係るデータは、研究者や研究機関にとって必ずしも開示可能でなく、個別のケースにおいても開示可否の判断が分かれ、かつ研究対象になり得るか否かについても様々な見解が存在するため、開示には一定の合意形成を得る手続きとしての対策が必要になる。今回の調査対象コミュニティは、単一機関に所属する研究者ではなく、複数の機関の研究者から成る集団であるため、活動プロセス開示の条件整備の合意形成が調査の進捗に際して期待されることになり、その対応を優先する状況が必要となった。研究者の活動プロセスは、その公私の活動の個別の行動から成り、学会や学術的コミュニティに係る活動の場合は、その5W1Hの情報と研究者個人や共創活動を進める研究メンバーの間の関係に関する可視化を示すことが可能な活動プロセスデータ(成果発表までのProceedingsやワークショップ記録)は、業績の生成に効果的な役割を果たすことが見込めるため、そのデータ収集に一定の意味づけが可能だと考えられる。その際、プロセスデータに伴って得られる研究に係る個人情報の取り扱いには十分考慮し、個人情報の法令に抵触しないことが必要なため、その解決を支援する具体的な方針と手続きについて、調査対象コミュニテイの関係者と合意形成を図ることが、実施に際して重要になる。
 研究者が運営または参画を行うコミュニティ、その学術的活動に係る情報の開示については、開示を依頼する側および開示の依頼を受けて実施する側それぞれに一定の基準や手続きが必ずしもある訳ではなく、研究者や研究機関の個別の判断を要する。本研究で取り組んだ調査では、この基準を指針化を図り、相応の基準や手続きに則って、関係者と合意形成を図ることが求められた。本研究の計画は単年度での完結が見通せないと考えられたため、研究者の活動プロセスの開示の条件を詰めることを先行させることで、研究者の活動プロセスの行動履歴の情報開示の指針を立案することに意義を見出すことができ、関連する活動を進めることにした。調査対象コミュニティの運営機関との間で、研究に係る個人のライフログ(行動履歴)を開示するための手続きを示すことを第一に、研究ライフログの所有者(研究代表者と研究メンバー)、利用者(産官学等の一般の研究ステークホルダー)の合意形成を図る妥当な策を検討し、所有と利用に係る合意形成を課題とする内容を論文で発信するよう進めた。この課題に向けて、関連する法令の周辺情報を調査したところ、2017年5月30日「改正個人情報保護法」が施行された状況が判明した。研究者個人や共創活動を進める研究メンバーの個人情報であるか否かの識別が難しいとされるグレーゾーンの個人に係る情報(通称:パーソナルデータ)の取り扱いにおいて、ライフログが他の情報と照合して特定の個人を識別することが可能であれば、活動プロセスで個人情報を直接扱わなくとも特定の個人を導き出すことが可能な状況に対して、相応の対策を考えるべきということを確認した。
 個人に係る情報の開示の手続きに懸念については、研究に係る個人の行動履歴として、いつどこでだれがだれと何のために何をどのように行動しているのか(タイムスタンプ、位置情報、個人とそのステークホルダーから成る人間系の構造、目的、行動)、といった情報を研究対象とすることを起点に、他の情報との照合で個人情報の識別に結び付くリスクの発生、研究活動プロセスに参画する個人に係る情報への考慮、開示・非開示のための条件の設定などの考察について、関係者の間で一定の理解を図ることが必要になるため、一定のガイドラインを今後示し合意形成を図ることができれば、研究の推進において意義が大きいと判断し、計画を軌道修正し進めることにした。実務上のライフログは、単独の情報の場合、直接的に個人情報でないものものの、他の情報と照合して特定の個人を識別する場合が生じる懸念を伴う属性を有すると考えられ、グレーゾーンの個人に係る情報(パーソナルデータ)として、個人情報に近い(あくまで法令対象外)のものに位置づけられる。研究者や研究機関の開示・非開示の意思とは関係なく、個人情報になり得るライフログのデータについて、安全管理措置をいかに講じるのか、その指針を明らかにすること、研究者個人や共創活動を進める研究メンバーのようなライフログオーナーに向けたオプトインのような手続きとして事前に周知することが、本研究の進捗上の課題になった。
 本研究では、研究コミュニティ活動として、学会やそのワーキンググループでの公式・非公式での活動、私的な勉強会等の集合する場での発言、ネットコミュニティのような研究に係る情報の受発信の内容について、研究者本人、参画メンバーと関係づけを図ると、情報の受発信の内容について、コミュニティの運営Web、メンバー間のディスカッションを支援するSNSを二次的な情報源として、関係の可視化を試みる計画であった。例えば、研究発表を行う場合、対面型の口頭発表やそれに対する見解・指摘等に係るコミュニケーション行動について、公式の議事録や個人メモでメンバー間の受け応えを一次情報とて、さらに、Web/SNSの履歴情報を研究者のライフログとして位置づけ二次情報の役割を定めて、コミュニティのディスカッションを補完する情報の質量を充実させること、特に、SNS発信・受信に係る情報をメンバー個人といかに関係づけさせるかの狙いがあったため、特に、SNSから考察するためのデータ収集を試みた。本研究の進捗は単年度で、完結できない見通しとなった。個人に係る情報開示の指針化・手続きの合意を経て、研究対象コミュニティの調査、コミュニティ活動に係るSNSでの情報の受発信を研究者の行動記録のデータ化、学際的研究に係るコミュニティの『集合知』のモデル化・可視化を行って、学際的研究の活動プロセスと波及効果の関係を解明する計画は、今後の個人研究に引き継がれる。この計画の軌道修正に基づいて、研究対象コミュニティの属する機関に向けて、研究に係る個人のライフログ(行動履歴)を開示するための手続きを提案することを第一に考え、研究ライフログの所有者(研究者と研究メンバー)、利用者(産官学等の一般の研究ステークホルダー)の合意形成を図る妥当な策を検討し、その内容を後述の論文にまとめ発表を行った。サービス学会の2018年度サービス学会 第6回 国内大会(開催日:2018年3月10日)での論文発表、学会に主要セッションにおけるディスカッション用システム「MeeToo」での参画する研究者間の応答記録に係るデータ収集までの活動を行った。本研究は単年度の実施のため、以降の活動について、新年度からの個人研究の中で進める。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

以下の通り。

[1] 影山広泰(牛島総合法律事務所), 個人情報の取扱いに関する実務FAQ 改正法対応を契機として 改正個人情報保護法最終チェック,LexisNexis, Business Law Journal, No.112, 2017年7月.

[2] 石川智也, 改正法の全体像〜「個人情報」・「匿名加工情報」の新概念 改正個人情報保護法の実務ポイント, 第94回 西村あさひ法律事務所 リーガルフォーラム, TKPガーデンシティ大阪梅田, 2017年2月13日.

[3] 個人情報保護委員会事務局, 個人情報保護法の基本, https://www.ppc.go.jp/files/pdf/28_setsumeikai_siryou.pdf.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究に係る個人のライフログ(行動履歴)を開示するための手続きを今後提案することに向けて、研究ライフログの所有者(研究者と研究メンバー)、利用者(産官学等の一般の研究ステークホルダー)の合意形成を図る妥当な策を検討し、以下において、論文発表を行った。発表課題は、パーソナルデータの管理リスクについて、研究関連活動も含むIoT関連サービス事業を広範に対象としているが、パーソナルデータに係る所有と利用の手続き・ルールの指針化についての共通する見解の発信、参加者とのディスカッシンを行った。

1.研究コミュニティ 2018年度サービス学会(Society for Serviceology) 第6回 国内大会
2.日時 2018年3月10日(土)15:00〜16:30
3.場所 明治大学 駿河台キャンパス 1165教室
4.セッション ビッグデータ活用(座長:渋田一夫氏)
5.発表課題 パーソナルデータの管理リスクの可視化を指向するIoTサービス事業の考察
[4-4-03]
6.参照URL
http://ja.serviceology.org/events/domestic2018/program180302.pdf
https://confit.atlas.jp/guide/event/sfs06/subject/4-4-03/advanced
http://ja.serviceology.org/events/domestic2018/meetoo/1165/11651.pdf
7.参加人数 約30名


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関