平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2080

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

1

研究課題名

幾何学的アプローチによる推定関数とTsallis統計の研究

フリガナ

代表者氏名

ヘンミ マサユキ

逸見 昌之

ローマ字

Henmi Masayuki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

33千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

統計的推論の構造や性質を (微分) 幾何学的な立場から論ずる情報幾何学は、1980年代の甘利・長岡による記念碑的な仕事以来、統計学以外の情報関連科学や世界中の研究者に影響を及ぼしながら徐々に進展してきているが、近年、また新たな展開を見せてきている。1つは、黒瀬・松添による「捩れを許す統計多様体」に関する仕事である。彼らの研究の主な動機は、量子推定論における密度行列族の幾何構造として自然に現れる、捩れのある双対アファイン接続を備えた多様体の性質を解明することであるが、このような構造
は、通常の統計的推論の基礎となる確率分布族にも、(データとパラメータの関数である) 推定関数を通じて自然に導入されることが、最近、本研究の代表者と分担者の共同研究によって示された。しかしながら、確率分布族におけるこの「捩れを許す統計多様体」の構造は、情報幾何学でこれまで議論されてきた幾何構造(Fisher計量とアルファ接続) とは異なるものであり、その統計的な意味や役割は、あまりよく分かっていない。本研究の目的の1つは、統計学でよく用いられるいくつかの具体的な推定関数について調べることを通じて、推定関数による統計的推論に対する、その新たな幾何構造の意味や役割を明らかにすることである。特に、「捩れを許す統計多様体」の構造は、推定関数が (パラメータに関して) 可積分でないときに現れるが、例えば、一般化線型モデルにおける疑似スコア関数が疑似尤度を持たない場合が、その典型例である。そのような場合の統計的問題の1つとして、推定関数が多重根を持つときに、どれを推定量として選択するかという問題があるが、この問題との関連も考察する。また、「捩れを許す統計多様体」の (数学としての) 一般論も、まだ発展途上にあるが、本研究を通してその発展にも刺激を与えることで、統計学と数学との間でお互いに有益な交流となることも目指している。

一方、近年の複雑系科学の発展から、ベキ型分布に従う現象が数多く発見され、これを最大化エントロピー原理で説明するために、統計物理学を中心とする分野で導入されたTsallisエントロピーという概念が注目を集めている。これに関しても、最近、本研究の分担者らによって、情報幾何学の観点から新たな知見が得られている。例えば、Tsallisエントロピーに基づく「Tsallis統計」では、エスコート確率と呼ばれる新しい概念が重要な役割を果たすが、これがもとの確率分布の射影変換によって得られることが示され、さらにそれに基づいて、「Tsallis統計」では幾何学的に自然な基準 (双対平坦性) から決まる統計多様体の構造が、これまでに考えられていた統計学的に自然な基準 (確率測度変換に関する幾何構造の不変性) から決まる統計多様体の構造 (Fisher計量とアルファ接続) と異なることが示された。このように、幾何学的観点からは一定の成果が得られているが、「Tsallis統計」に関する研究は統計物理学を動機としたものが多く、統計学的な研究は不十分である。そこで、本研究では、幾何学的な議論との関連を踏まえながら、「Tsallis統計」の議論に現れるさまざまな概念の統計的意味や役割を解明することを今1つの目的とする。

本年度は、推定関数(捩れを許す統計多様体)の幾何学とTsallis統計の幾何学に関して、次項に示すような成果が得られている。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[論文発表]

1. S. Amari, A. Ohara, H. Matsuzoe (2012)
Geometry of Deformed Exponential Families: Invariant, Dually-Flat and
Conformal Geometry, Physica A. 391, 4308-4319.

2. A. Ohara, H. Matsuzoe, S. Amari (2012)
Conformal geometry of escort probability and its applications,
Modern Physics Letters B, 26 Issue 10 No. 1250063.

3. H. Matsuzoe (2012)
Construction of geometric divergence on q-exponential family,
Mathematics of Distances and Applications, 96-100.

[研究集会等での発表]

1.2012年度日本数学会秋季総合分科会 2012年9月 九州大学
 「疑似統計多様体とアファイン分布の幾何学」(松添・黒瀬・逸見)

2.研究集会・確率論と幾何学 2012年10月
  大学コンソーシアムやまがたゆうキャンパス・ステーション
 「Statistical manifolds admitting torsion and pre-contrast functions」(松添)

3.平成24 年度数理解析研究所研究集会
  量子論における統計的推論の理論と応用 2012年10月 京都大学
 「捩れを許す統計多様体とアファイン分布の幾何学」(松添・黒瀬)

4.The 8th World Congress in Probability and Statistics, July 2012,
Istanbul (Turkey)
「Statistical Manifolds admitting torsion and pre-contrast functions」
(Matsuzoe and Henmi)

5.Conference on Pure and Applied Differential Geometry, August 2012,
Katholieke Universiteit Leuven, Belgium
 「Quasi-statistical manifolds and geometry of affine distributions」
(Matsuzoe)



研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会等は開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

松添 博

名古屋工業大学