平成232011)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

23−共研−4201

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

癌死亡リスクの視覚化に関する研究

重点テーマ

癌統計データ解析

フリガナ

代表者氏名

カモ ケンイチ

加茂 憲一

ローマ字

Kamo Ken-ichi

所属機関

札幌医科大学

所属部局

医療人育成センター

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

88千円

研究参加者数

4 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

 本研究は「癌死亡リスクの視覚化に関する研究」と名うち,時間に依存して変化する癌リスクの挙動を,統計モデルを用いて視覚化することを目的とする.癌に対して,時間に関連する要因がリスクファクターとなっていることは明らかである.例えば,年齢に従い癌リスクは増大する.このような変動を資格化することにより,癌の特性を端的に捉えやすくなることが期待される.なぜなら人間は視覚認識能力に長けているからである.本研究においては,時間に関連する変数を基底とする平面上に,癌リスクの高低を地図のように表現することによる視覚化を試みる.
 一般的に,癌リスクに影響を与えている時間要因としては,上記の年齢に加え,時代と出生コホートが考えられる.時代効果としては,大気汚染の時代を経たグループは共通のリスクを背負うといった例が考えられ,出生コホート効果としては肝臓癌にみられるような昭和一桁生まれ世代の肝炎ウイルスといった例が考えられる.しかし,この3つの変数には線形従属な関係があり,通常の回帰モデルの範疇では議論できない.この問題に対して様々な制約を設けることによる解決を試みるのが年齢・時代・コホートモデル(APCモデル)である.一つの解決策として,変数を2つに設定した上で交互作用項を用いて残りの要因を表現するという交互作用モデルも考えられる.あるいは,本研究の目的である癌リスクの視覚化のアウトプットが地図のような形状であることが期待されるため,地理解析で用いられる地理的加重一般化線形モデル(GWモデル)についても考察する.
 実際に日本における肝臓癌について解析を行い,手法に対する妥当性の評価を行った.肝臓癌については,特に男性において,昭和一桁生まれ世代が高リスクであることが指摘されている.その原因としては,肝炎ウイルスの持続感染が考えられる.この例を用いて,リスクを表現する基底を年齢と時代と設定し,実際に前述の出生コホート効果が再現できるかを検証した.APCモデル,交互作用モデル,GWモデル全てにおいて,出生コホート効果が再現できた.精密さに関しては,GWモデルが最も緻密なリスクの高低が再現できた.逆に,交互作用モデルに関しては,最も滑らかな結果であったが,こちらでも出生コホート効果は視認された.
リスクの高低を地図のように表現することに関しては全てのモデルで成功した.このことにより癌リスクの特性を視認することは達成されるが,解析結果の2次利用という点に着目すると,最もシンプルなモデルが取り扱いやすい.例えば,パラメトリックモデルである交互作用モデルを用いると,様々な検定が可能となる.肝臓癌に関して,性別をダミー変数としで組み込み,性差の存在性に関する検定を行うと有意であった.従って,肝臓癌の挙動については性差が存在すると結論付けられる.実際に前述の出生コホート効果に着目すると,男性の方がより顕著である.更には,性差が存在することが分かったが,その効果が一様かどうかについても検定を行い有意な結果が得られた.このように,他モデルに比べてパフォーマンスの見劣りしないよりシンプルなモデルを用いれば,様々な2次利用が可能であり,推奨されるところである.今後は外挿による将来予測や,リスクの信頼区間の構築などが研究テーマとなるであろう.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文発表】
加茂憲一, 冨田哲治, 佐藤健一, 年齢-時代平面上における癌死亡リスクの視覚化, 統計数理, 59(2), 217-238, 2011.

【学会発表】
[1] 加茂憲一, 冨田哲治, 佐藤健一, 交互作用モデルに基づく年齢・時代・コホート効果の検証, 日本疫学会, 札幌, 2011.
[2] 水野正一, 雑賀公美子, 加茂憲一, 最近の動向を加味したAge Cohort解析の提案, 日本疫学会, 札幌, 2011.
[3] 加茂憲一, 佐藤健一, 冨田哲治, 回帰モデルを用いた癌死亡リスクの視覚化, 統計関連学会連合大会, 福岡, 2011.
[4] 加茂憲一, 佐藤健一, 冨田哲治, 年齢と時代を座標とする癌リスクの視覚化, 日本公衆衛生学会, 秋田, 2011.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催していません.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

佐藤 健一

広島大学

冨田 哲治

県立広島大学