平成302018)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

30−共研−2005

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

クローナル植物のデモグラフィ解析方法の確立と応用

フリガナ

代表者氏名

アラキ キワコ

荒木 希和子

ローマ字

Araki S. Kiwako

所属機関

立命館大学

所属部局

生命科学部生物工学科

職  名

講師

配分経費

研究費

40千円

旅 費

81千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

クローナル植物は種子繁殖とともにクローン成長 (栄養繁殖) によっても新たな株 (ラメット) の生産を行う。ゆえにクローナル植物個体群は、クローン (ジェネット) がクローン成長によって繰り返し新たなラメットを個体群中に加入することで維持されている。本研究では、クローナル植物におけるラメットの連結情報からジェネットのクローン成長についての推移行列モデル構築し、クローナル植物におけるクローン成長のデモグラフィを解析する手法を確立することにより、ジェネットと個体群の動態を定量的に評価することを目的としている。
北海道を中心に自生し、地下茎 (地下匍匐枝) でクローナル成長を行う多年生草本植物スズラン (Convallaria keiskei) を対象に、野外集団にてトランセクトを設置し、その挙動を調査してきた。全てのラメットの遺伝子型を特定した上で、2005年から2007年にかけて、地上部の動態を経年追跡調査した。2007年から2009年にかけて、これらのラメットの地下茎を掘り起こし、地下茎によるラメット間の連結を調査した。そして、地上部と地下部のデータを統合的に解析し、ラメットとジェネットでの二つの繁殖 (種子繁殖とクローン成長) デモグラフィを明らかにした(Araki & Ohara 2008;Fukui & Araki 2014;福井 & 荒木2017;島谷2017)。
次に掘り起こしたクローン断片の情報を用いて、ラメット間ペアを選択し、子ラメットと連結している親ラメットのクローン成長した年 (子ラメットを生産した年)、ジェネット、サイズ、成長ステージを集約した。これをもとに、ジェネット、サイズ、成長ステージごとにクローン成長率を推定した。そして、クローン成長率がこれらのカテゴリごとに異なるかを検証したところ、全てにおいて違いがあったため、ジェネットごとに、サイズとステージにもとづいたクラス分けを行い、個体群における推移行列 (population matrix model) を元にジェネットごとのクローン成長 (繁殖) 動態を示す推移行列を構築した (荒木ほか 2016a, b)。これを元に前年度 (2017年度) はこれらのクラス分けをどの程度統合できるかを検証した。また同一ジェネット内においても場所による差異があるかについても調べた。その結果、一枚葉ステージのラメットはジェネット当たりの数が少なく、サイズ間での推移に統一性が無い (サイズに関わらずどのクラスにも推移する) 傾向があり、一つのクラスに統合することが可能だと考えられた。また、ジェネット内の場所ごとで比較したところ、ジェネットによっては空間的な違いが見られることが明らかとなった (島谷 & 荒木 2018)。
本年度 (2018年度) はクローン成長に対する推移行列の精度を高めるため、観察データの検証と各ステージの寄与について検証した。その結果、クローン断片の先端ではない二枚葉によるクローン成長が低頻度ながらもジェネットの動態に寄与が大きいことが確認された。この成長はクローン断片の伸長において、分岐を生じさせるため、ジェネットの拡大に大きな影響を与えると考えられる。実際にジェネットの空間分布をシミュレーションしたところ、分岐率によって分布パターンが大きく異なることが確認された。そのため、分岐率を正確に推定する必要があり、観察データの見直しを行い、地上部の観察年と連結情報から分岐を生じる可能性のあるラメットの選抜を行った。クローン成長の推移行列モデルより、スズランのジェネットではクローン断片の先端ラメットで優先的にクローン成長が行われるものの、それ以外のラメットからの二次的なクローン成長もジェネットの拡大にはかなりの寄与があることが明らかになりつつある。
今後は推移行列モデルを完成させ、この種の生活史過程を要約し、これらを論文としてまとめて公表する予定である。また、完成した推移行列モデルを他のクローナル植物にも適用し、その汎用性を検証する。さらに、微環境を考慮したジェネットの空間的広がりを再現させる方法を構築し、環境との分布についての解析を試みていきたい。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Araki K & Ohara M (2008) Reproductive demography of ramets and gents in a rhizomatous clonal plant Convallaria keiskei. Journal of Plant Research 121:147-154.
Fukui S, Araki KS. (2014) Spatial niche facilitates clonal reproduction in seed plants under temporal disturbance. PLoS ONE 9 (12), e116111.
島谷健一郎 (2017) 現場主義統計学のすすめ: 野外調査のデータ解析 (統計スポットライト・シリーズ).近代科学社
福井眞・荒木希和子 (2017) クローン植物の繁殖戦略と遺伝構造-固着性生活をおくる上での空間不均一性への適応-.日本生態学会誌67: 147-159
荒木希和子・島谷健一郎・大原雅 (2016a) クローン成長の推移行列モデル-地下茎伸長のダイナミクス-.第63回日本生態学会,仙台
荒木希和子・島谷健一郎・大原雅 (2016b) 地下茎伸長のダイナミクス-クローン成長の推移行列モデルの構築-.第48回種生物学シンポジウム,小樽
島谷健一郎・荒木希和子 (2018) 多年生草本の地上部‐地下部データを用いる動態モデル.科研費シンポジウム「生命・自然科学における複雑現象解明のための統計的アプローチ(研究代表者:青嶋誠, 開催責任者:松井秀俊)」,彦根

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

大原 雅

北海道大学

島谷 健一郎

統計数理研究所