本研究の目的は,小学校,中学校,高等学校の新学習指導要領に対応した新しい統計教育の評価方法を確立することである.本年度は,これまで調査研究した海外等の各種試験問題を参考に
1.中学校「資料の活用」に対応した問題
2.高等学校 数学1「データの分析」に対応した問題
3.高等学校 数学B「確率分布と統計的推測」に対応した問題
を,開発することを目標に研究を進めてきた.
1.中学校「資料の活用」に対応した問題
中学校「資料の活用」に対応した問題の開発については,イギリス中等教育終了試験GCSE,統計検定4級,高等学校入試問題等を参考に,評価の在り方を検討した.ペーパー試験において,計算のみならず思考力を問う問題の重要性が確認できた.H24年度高校入試(数学)では,個人の記録データを度数分布表にまとめる問題や,ヒストグラムを比較する問題など,考えさせる問題を含めて多数の統計関連の問題が出題されたことがわかった.
また,中学校の授業の事例として,筑波大学付属中学校の中本先生の授業の内容及び,評価方法をご紹介いただき参考に研究をすすめた.これにより,中学校においてもプロジェクト型授業が効果的に行われ,その評価についても,生徒に評価基準を検討させ,生徒間の相互評価を行うなどの取り組みが大変効果的に行われていることがわかった.筑波大学付属中学校では,3年生の総合的な学習の時間し,数学的な問題解決にとどまることなくQC手法を用いて自分たちの身近な問題を統計的に解決することを目標とした授業が行われている.QC的問題解決とQC手法の説明後,QC的問題解決法の実践する授業である.授業の評価は,
(1)問題設定は適切か
(2)QC的問題解決の筋道に従って解決がなされているか
(3)データの収集・分析の仕方は適切か
(4)オリジナリティーがあるか
以上の観点で生徒自ら点数化(0から5点)し,生徒同士が相互評価するなど,問題解決型授業が実践されている.
2.高等学校 数学1「データの分析」に対応した問題
高等学校 数学1「データの分析」に対応した問題に対応した問題の開発については,AP Statistics,統計検定3級,イギリスGCSE試験の問題を参考に入試試験問題等の検討を行った.単純な計算や選択式の問題だけではなく,思考力を問う問題の出題の重要性を確認できた.また,問題解決型の統計教育を実施するうえでは,従来のペーパー試験のみでは対応しきれない.そこで,本研究ではイギリスのコースワークの評価方法およびIBのプロジェクト型授業の評価方法を参考に,独自の評価基準及び評価シートを開発した.
評価項目
(1)全体的なデザインと戦略
(2)統計的な内容
(3)正確性
(4)議論とプレゼンテーション
たとえば,統計的な内容については以下の6段階で評価する.
0点:統計的内容を活用できなかった.中心の位置(平均値,中央値,最頻値),ばらつきの程度(範囲,四分位数,標準偏差,分散)などの記述的要約もできなかった.
3点:平均,中央値,範囲,四分位数,標準偏差,分散など公式通り計算することはできたが,表面的な理解にとどまり公式を反復的に使っただけだった.棒グラフ,ヒストグラムなど分布を示すグラフ,構成比率を示す円グラフなどを用いてデータを視覚化することが試みられた.
5点:平均,中央値,範囲,四分位数,標準偏差,分散など,中心,散らばりを示す指標を計算し,データに合わせて使い分けることができた.適切に分布を比較するためのグラフ(棒グラフ,ヒストグラム)を作成できた.2変量の関係についても分析したが,不適切な箇所もありうまく適用されたとは限らない.
7点:必要となる統計的概念と方法を考え、これらを活用する力を示した.中心,散らばりを示す指標,度数を適切に計算し,分布を示すグラフ(ヒストグラム,パレート図)と合わせて適切に活用し,正しい解釈を示した.2変量の関係についても分析を深め,相関係数をもとめその関係を適切に問題解決に活かした.
9点:必要となる統計的概念と方法を考え,広範囲にわたる統計の内容を適切に使った.回帰式,予測に触れるなど若干のカリキュラムを超えた内容も使った.統計的な説明は簡潔であった.
10点:広範囲な統計の内容が問題解決に活用され,それ以上のものも適用された.一般には適用されない手法にも試みた.オリジナリティが見られた.
3.高等学校 数学B「確率分布と統計的推測」に対応した問題
高等学校数学B に対応した問題に関しては,高等学校の教科書および,AP Statisticsの問題等を参考に研究を進めた.また,米国では2014年より数学の全米統一カリキュラムが始まる.今後の日本で数学Bの扱いについて調査し,継続して検討を進めることが必要.
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