平成302018)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

30−共研−1010

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

7

研究課題名

個別株の連動類似性に基づいた株式相場の転換点予測モデルの構築

フリガナ

代表者氏名

ハムロ ユキノブ

羽室 行信

ローマ字

Hamuro Yukinobu

所属機関

関西学院大学

所属部局

経営戦略研究科

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

株価騰落の規模と頻度の関係はベキ乗則に従うことが分かっており、株価予測は地震予測と同様に非常に困 難(もしくは不可能)と考えられている。しかしながら、株価の変動は、地震の発生と異なり、人間(トレーダー)の意思決定の結果として起こるものである。そしてトレーダーの判断材料となるようなデータ(日足4本値データをはじめ、tickデータ、ニュース記事、企業業績データ、Twitterデータなどが今日比較的容易に入手可能となっており、ある程度の予測可能性はあると考える。そこで本研究では、これら多様なデータの関係性をグラフ構造で表現し、大域的なグラフ構造の時系列変化を捉えることで、大規模な騰落(相転移)が起こる前の臨界状態をモデル化することを目的としている。
そこで、本年度は、以下に示すA),B)2つのモデル構築を試みた。また両研究のためのツール開発も昨年度より継続して行った。
A) 取引関係ネットワークに基づく情報伝播の遅れに焦点を当てた収益率予測モデル
本年度は、1) データの前処理とデータベース構築、2) 世界規模の取引関係モデルの構築、の2点について研究を進めてきた。
1) データの前処理とデータベース構築
世界規模の株価データベースは、Factset社より提供されたデータベースを用いた。当初は、データベースをそのままの形で利用可能であると考えていたが、結果としてはデータクリーニングに膨大な時間を要してしまった。具体的には、株価調整、中でもdividend(配当および分社)に伴う価格調整に同社の不具合もあり、その発見と修正に時間を要した。
2) 世界規模の取引関係モデルの構築
ある銘柄の株価が突然上昇(もしくは下落)した時、取引関係にある銘柄も遅れて上昇/下落する事象についてモデル化を行った。今回のモデル化では、隣接する取引関係のみに焦点を絞ってのモデル化であったが、将来的には、株価の上昇/下落が取引関係ネットワーク上をどのように伝播したときに、相転移、すなわち市場全体の大幅な下落が起こるかのモデル化につなげることを目的としたものである。1)の作業の遅れにより、年度末にようやくモデル構築が終了し、現在は学会論文を執筆中である。

B) TICKデータによる銘柄間類似度ネットワークを用いた収益率予測モデル
本年度は、1) データの前処理とデータベース構築、3) 銘柄の共変動関係グラフの構築、4) 転換点予測モデルの構築、の4点について研究を進めてきた。
1) データの前処理とデータベース構築
利用したデータベースは日本市場における1分足のTICKデータである。オリジナルデータから四本値一分足データを生成するプログラムを構築した。
2) 銘柄の共変動関係グラフの構築
板情報の利用の前に銘柄別の一分足データからの特徴量抽出を試みた。具体的には、昨年度までに日次データで実施したネットワーク密度の特徴量抽出を試みた。ネットワークは、過去10分間の価格変動の類似性に着目し、ある閾値を超えた銘柄感に枝を張ることで類似度ネットワークを構成した。
3) 転換点予測モデルの構築
年度末に、2)の作業が終了したところであり、転換点予測モデルの構築については、現在鋭意進めているところである。

C) ツール開発
これまでに開発を進めてきた大規模データ処理システムであるNYSOLをPython上で実行できるように実装した。MPI通信を用いた分散処理もPython上から実行することを可能とした。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

中元政一,羽室行信, "NYSOL: Pythonにおける大規模データ前処理支援ツール", 情報処理学会 FIT2018, 福岡工業大学, 2018/9/20.
羽室行信,宇野毅明,中元政一,中原孝信,丸橋弘明, "Take: Pythonにおけるデータマイニング支援ツール", 情報処理学会 FIT2018, 福岡工業大学, 2018/9/20.
岡田克彦,羽室行信, "AIで探る株式市場のreturn predictability" ,行動経済学10周年記念論文集, forthcoming.
中原孝信, 丸橋弘明, 羽室行信, 宇野毅明, "グラフ研磨を利用した顧客クラスタリングによる多様性を考慮した特徴抽出", オペレーションズ・リサーチ, 2月号(2019年)Vol.64 No.2, pp.102-109, 2019.
岡田克彦, "ビッグ・データとAIによる行動ファイナンス研究の新たな展開" Nextcom No.38 pp.8-18, 2018.
岡田克彦, "AI技術の金融市場における応用について" 月刊資本市場 pp.16-25, 2018.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

随時、ネットカンファレンスを開催することで研究を進めたため、研究会は実施していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岡田 克彦

関西学院大学

後藤 隼人

東京工業大学

中野 純司

統計数理研究所

中原 孝信

専修大学

中元 政一

関西学院大学

藤澤 克樹

九州大学

本多 啓介

統計数理研究所

丸橋 弘明

関西学院大学