平成282016)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

28−共研−4404

分野分類

統計数理研究所内分野分類

f

主要研究分野分類

2

研究課題名

研究コミュニティ分析に基づく研究戦略立案ツールキットの構築

重点テーマ

学術文献データ分析の新たな統計科学的アプローチ

フリガナ

代表者氏名

ナガイ ヤスヒロ

永井 靖浩

ローマ字

Nagai Yasuhiro

所属機関

京都大学

所属部局

学術情報メディアセンター

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

84千円

研究参加者数

5 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究の目的は、研究者がかかわる研究コミュニティ(研究分野)を特定し、上記の問題を解決する道具立てを得ることである。具体的には、次の目標を掲げている。

1. ある研究者について、その研究者が関わる研究領域を表す論文集合を特定する手法を開発する。さらに、その領域を研究する研究者について、多面的な観点に基づく評価指標を可能なかぎり検討する。
2. 2つの研究機関または国・地域間における共著論文について、既存のコラボレーションの実例としての評価指標を検討する。さらに、3つ、4つの研究機関のコラボレーションの可能性を予測するための方法論について検討する。
3. 学際研究に関する指標のありかたを調査し、本学のケースについて適用する。
4. 世界の大学ランキング上位大学における論文投稿傾向および引用傾向を、1で調べた研究コミュニティ別に調査する。

本課題の実働のかなりを占めていた今井(8月末日をもって岐阜大学に異動)と河本は、京都大学学術研究支援室における特定専門業務職員(URA)という非研究職である。この関係上、本課題の内実は具体的な研究とは異なり、学内における組織ミッションの達成のために遂行するという性質を帯びていた。このため、本課題の成果は論文やいわゆる学会発表とは異なり、方法論やデータベースの整備、ノウハウの蓄積、関連する職能系集会での発表、および具体的な学内の施策提言の形をとっている。

今年度の活動および成果を以下に挙げる。

1. 統計数理研究所の本多氏・所員の皆様の助力を得、国際会議 DSIR におけるスペシャルセッション[1] を開催した。
2. 「研究戦略立案ツールキット」の一部として、収集データをリレーショナルデータベースに実装した。さらに、京都大学学術研究支援室において本ツールキットを運用し、学内の論文発信状況に関するワークフローを整理した。
3. 学内向けの研究活動指標を構築した。この指標は実際に京都大学の予算申請資料の一部に組み込まれた。具体的には、文科省の運営費交付金の重点支援部分に関する評価対象の一部となった。

このほか、本課題における取り組みの一部をRA協議会第2回年次大会 [2] や NCURA 2016 [3] といった リサーチアドミニストレーション関係者のための国内外における大会で発表している。

1. DSIRスペシャルセッション
このスペシャルセッションは統計数理研究所URA本多氏と今井および藤枝(京大学術研究支援室)の共同で開催された。合計3グループからの発表と、発表者および今井、DSIR program chair の森准教授(東工大)を交えたパネル討論を行った。同時開催の大学情報・機関調査研究集会 MJIR (Meeting on Japanese Institutional Research) の参加者も得られ、およそ 50名程度の参加者があった。発表のうち Pitambar准教授(北大)は北大における軽量書誌学的分析、Schwartz氏 (Harvard大Provost) は、IR方法論の発展に関するモデルの提示および具体的な仕事の進め方に関するものであった。Schwartz氏の招聘に関しては統計数理研究所にお願いした。

2. 研究戦略ツールキット
かねてから京大学術研究支援室にて蓄積していたデータを論文・研究者・機関・資金の観点でリレーショナルデータベースの形で整備した。特に、論文データと学内人事データベース(過去十数年)の結合により、各部局の論文アウトプットの連続的な追跡を可能にした。ツールキットの運用効率化のため、学術研究支援室の人員5名にSQLを用いた分析手法をレクチャーした結果、3名程度が実際にこのツールキットを使った分析を部分的に行えるようになった。

具体的な分析としては、次のものがある。(1) 論文の被引用数の推移を部局別・職階別・任期の有無別に算出し、任期の有無が研究パフォーマンスに及ぼす影響を調査する足がかりを得た。 (2) 科研の申請細目と論文の分野の対応付けにより教員の専門分野を推定し、京大の各部局における分野構成比を算出し、3000人超におよぶ学内研究者の把握の一助となるようにした。このほか、運営費交付金(研究費)の配分額と高レベル論文数のプロットなど、仮説の立案のために必要な様々な分析を試すことができた。

3. 学内向けの研究活動指標
学内向けの研究評価指標として、国際共同研究指標と、異分野共同研究指標を学内で提案した。このうち後者は我々が独自にデータを収集・集計した。異分野共同研究指標は、論文著者の分野を過去n年の論文のうち最も論文数が多い分野と定め、異なる分野どうしの共著を異分野共著論文と定義したものである。これを部局毎の整数カウント法で算出し、資金配分の参考値として提供する。これらの指標は、Web of Science や Scopus を用いて部局が独自に再計算可能なようにできており、再現性が高いため、多数のステークホルダーからなる大学の意思決定機構上、了解が得られやすいものと考えている。

実働のかなりを占めていた今井が8月末で本グループの根拠地である京都大学を離任した関係上、目標を十分に達成できたとは言い難いが、上記のとおり実務的な観点で得られたものが多くあったのではないかと考えている。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[1] Keigo Imai, Ayako Fujieda and Keisuke Honda. Special Session 1: Delineating Institutional Performance of a Research University towards Future Institutional Design, 5th International Conference on Data Science and Institutional Research (DSIR 2016), Kumamoto, Japan, 12th Jul., 2016. http://www.iaiai.org/conference/aai2016/aai-2016-ss-list/dsir-special-sessions/

[2] 本多 啓介, 廣森 聡仁, 昆 健志, 河本 大知.「統数研H.28共同利用重点型研究 学術文献データ分析の新たな統計科学的アプローチ」中間報告, RA協議会第2回年次大会, Fukui, Japan, 1st Sep., 2016. http://www.rman.jp/meetings2016/15.html

[3] Daichi Kohmoto, Asa Nakano and Yoshimi Osawa. Anatomy of 'Ecosystems' for enhancing research university management via research-related metrics and cross-organizational design, NCURA 58th Annual Meeting (Education sessions), Washington DC, USA, 8th Aug., 2016.

[4] 文部科学省, 平成29年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果について: 各大学の評価結果(詳細), Jan., 2017. http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/01/1381033.htm

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

今井 敬吾

岐阜大学

河本 大知

京都大学

古村 隆明

京都大学