平成272015)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

27−共研−2038

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

大規模統合化信用リスクデータベースの活用とシステム化モデル

フリガナ

代表者氏名

ヤマシタ サトシ

山下 智志

ローマ字

Yamashita Satoshi

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

61千円

研究参加者数

10 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

金融リスクには市場リスク、信用リスク、オペレーショナルリスクがあり、銀行をはじめとする金融機関の最も大きなリスク要因は信用リスクである。信用リスクの計量化方法には確率論を元にした構造モデルと、経済均衡を元にした誘導モデル、実績データをもとにした統計モデルが存在する。現在、金融機関のリスク管理では、統計モデルによる信用リスク算出が主流であり、実績データの蓄積と有効な統計モデルの構築が進められている。
本共同研究は、信用リスクに関するデータベース構築の方法論と、統計モデル構築の方法論を構築するものであり、以下の論点を対象とした。

1. 債権回収率の統合データベースの運営管理と信用リスクモデルのシステム実装
従来の信用リスク推計はデフォルト確率の推計に特化したものが一般的である。しかし貸手の損失はデフォルト後にどの程度債権を回収するかに依存する。地方銀行5行の協力を得て、実績回収率データを入手することにより、信用リスク全体の計量化=期待損失推定を行った。

2. 大規模信用リスクデータベースのクレンジング技術の開発
中小企業の財務データベースは欠損値や異常値が多く、分析を行うときにはその処理作業が膨大である。それが統計モデルの発展を妨げている。本研究では欠損値異常値の前処理を合理的に行い、財務データ特有のデータベース標準化方法を確立した。

3.賃貸不動産に関する融資リスクの計量化
賃貸不動産貸し出しは銀行の信用リスクのおよそ10%から20%を占めており、重要なリスクファクターであるにもかかわらず、リスク計量化について合意されたモデルがない。本研究ではWebより採取したビッグデータと、不動産鑑定士による現時サーベイデータを元に、不動産の収益性評価と不動産貸し出しのリスク評価を行った。


これらのテーマは相互に関係しており、それぞれで得た知見を有機的に組み合わすことによってさらに高度で実務的に有用なアウトプットを創出した。その成果は、著作、学会、研究集会などの学界にとどまらず、産業界や行政に対して積極的にアピールを行った。

課題1 債権回収率の統合データベースの構築と推計モデルの開発
1. 共通の研究課題をもっている研究者の意見交換の機会提供
2. ミニ集会を通しての面識・人的ネットワークの構築(12月に実施)
3. 学会誌への投稿など、成果の公表
4. 地方銀行から回収率データベースの供与を受けた。大手地銀5行

課題2 信用リスクデータベースの標準化
1. 共通の研究課題をもっている研究者の意見交換の機会提供
2. 共同信用データベース(CRD協会等)の借用と利用
3. 財務データ補間方法論の確立
4. 異常値の判定と補正方法の確立
5. 研究者用分析データベースの作成と公開
6. 学会誌特集号への投稿など、成果の公表

課題3 賃貸不動産に関する融資リスクの計量化
1. Webからの賃貸不動産データベースの整備
2. 鑑定士によるサーベイデータのデータベース化
3. 賃貸不動産収益シミュレーション
4. 賃貸不動産貸し出しリスクシミュレーションツールの開発
5. 年次報告書の作成
6. 学会発表など成果の公表

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文
山下智志, 一藤裕, 鈴木雅人, 大島容大 (2015) Webビッグデータとサーベイデータの統合による賃貸住宅価値評価システムの構築, 土木計画学研究, No.52, pp219-227
Yamashita S., Yoshiba T., Analytical Solutions for Expected Loss and Standard Deviation of Loss with an Additional Loan, Asia-Pacific Financial Markets, 22(2), pp.113-132, DOI: 10.1007/s10690-014-9196-5
学会発表
山下智志, 一藤裕 (2015) Webビッグデータとサーベイデータの統合による賃貸住宅価値評価システムの構築, 統計関連学会連合大会(一般講演).
山下智志, 宮本道子, 安藤雅和 (2015) 欠測を考慮したロバストな一般化線形モデルを用いた信用リスクの予測について?中小企業大規模財務データベースにおける考察?, 統計関連学会連合大会(一般講演).
山下智志, 岡本基 (2015) 「国際ミクロ統計データベース」の利用方法について, 統計関連学会連合大会(一般講演).
山下智志, 田上悠太 (2015) 地方銀行の営業基盤外貸出の信用リスク分析, 統計関連学会連合大会(一般講演).
山下智志 (2015) リスク管理のための信用リスクモデルと与信データベース :信用リスク計量化についての近年の状況(1), CRD信用リスク管理セミナー(招待講演).
山下智志 (2015) リスク管理のための信用リスクモデルと与信データベース :信用リスク計量化についての近年の状況(2), 西日本CRD信用リスク管理セミナー(招待講演).
山下智志 (2016) デフォルト・倒産予測モデルから進化した中小企業信用リスク計量化モデル, OLIS‐慶應義塾大学保険フォーラム(招待講演).
山下智志, 一藤裕, 鈴木雅人, 大島容大 (2015) Webビッグデータとサーベイデータの統合による賃貸住宅価値評価システムの構築, 土木計画学研究発表会(一般講演).
山下智志, 一藤裕, 鈴木雅人, 大島容大 (2015) Webデータとサーベイデータを用いたアパート収益予測とアパートローンリスク, 第4回リスク解析戦略研究センター金融シンポジウム(招待講演).
山下智志, 一藤裕, 鈴木雅人, 大島容大 (2015) Web情報とサーベイデータの統合による賃貸住宅価値評価とアパートローンリスク評価, 第8回国際ワークショップ 「社会イノベーションを誘発する情報・システム」(招待講演).

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

1)リスク研究ネットワーク年次総会,3.15,東京,80人 (運営代表)
2)リスク解析戦略研究センター・リスク研究ネットワーク設立10周年記念シンポジウム, 3.15,東京,120人(運営代表)
3)公的ミクロ研究コンソーシアム設立記念シンポジウム, 3.30,東京,190人,(運営代表)
4)第4回金融シンポジウム「ファイナンスリスクのモデリングと制御4」,12.8-12.9,東京,85人,(運営代表)

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

安藤 雅和

千葉工業大学

大野 忠士

筑波大学

川崎 能典

統計数理研究所

津田 博史

同志社大学

西山 陽一

早稲田大学

逸見 昌之

統計数理研究所

三浦 良造

一橋大学(2012年3月まで) 統計数理研究所統計思考院外来研究員

宮本 道子

秋田県立大学

吉羽 要直

統計数理研究所