平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2026

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

ESPコーパスの教育的応用:アカデミックスキル向上を目指して

フリガナ

代表者氏名

フジエダ ミホ

藤枝 美穂

ローマ字

Fujieda Miho

所属機関

大阪医科大学

所属部局

医学部

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

135千円

研究参加者数

8 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

1.入門期のESP教育に相応しい指導語彙・語句抽出とテスト項目の構築
1)科学技術コーパスの低学年時用の学習語彙の分析のため,英語圏の理科教科書コーパスを拡充した.生物,物理,化学,それぞれWeb上の著作権フリーの教科書からデータを収集し,これまでのコーパスに追加を行った.結果的に生物は約43万語,物理は56万語,化学は38万語のコーパスが構築され,これを分析対象として語彙分析を行った.それぞれのコーパスの頻度上位語には理系の基礎とするべき語が含まれ,Scientific AmericanやNatureとは異なる傾向の語が含まれることが明らかとなった.この結果から,これらの高校教科書コーパスの頻出語を,専門論文から抽出した学習語彙とは別に,大学の初年次の学習語彙とすることが適切であることが示唆された.(小山・藤枝・中野)

2)英語運用能力が初中級レベルの理系大学生が,英語で卒業論文を執筆する際に使用する,動詞+名詞の共起の特徴をさぐることを目的に,28万語程度の卒業論文コーパスを作成した.理系大学生は一部の共起表現を過使用する傾向が見られたが,授業や教科書などで触れる機会の多いと思われる名詞はそれに当たらず,自然なインプットから暗示的に共起する動詞を身につけた可能性が示唆された.(金子)

3)先行研究で構築した医療患者教育向け英文コーパスから抽出した語句を利用し,リスニング項目を含めたESP語彙テストの開発に着手した.パイロットテストを実施し,古典的項目分析およびラッシュモデルを用いた項目分析を行った.それに基づき,項目を改訂した.(藤枝)

2. 科学技術英文作成支援システムの改良と再評価実験
現在開発中の非英語母語話者向け技術英文書作成援用Webアプリケーションに対し,昨年度に引き続き某大学の講義中に行った実験について,その実験結果といくつかの統計的分析を含む中間報告を行った.実験は計36名の被験者に対して行われ,以下の3種類のタスクが与えられた: 1)与えられた技術日本文を英訳する,2)与えられた技術日英文のペアに対し,その英文を日本語文に合わせて校正する,3)コーパス内英文を日本語訳したものを与え,それに対応する元のコーパス内英文を探し当てる.実験では大量のデータを分析用に保存するため,被験者の行動履歴が時系列で効率よく閲覧できるようなWeb上のツールも開発を行った.(宮崎)

3.科学技術語彙・語句CATの 改良と妥当性の検証
2011年度から小山と木村を中心として科学技術語彙・語句のCATシステムの開発に着手し小規模CATを作成してきた.2014年度も科学技術コーパス分析から得た語彙・語句をターゲットとして新たなテスト項目を作成し,ラッシュモテデルによる項目分析に基づいたCATを実施した.これにより一定の結果を得たが出題 方式と項目の難易度に問題があったため2015度は,英語圏の理科系高校教科書コーパスの分析によって項目バンクの改良を図った.これによってCATが受験者の能力により適合したものとなり妥当性も向上した.本年度は,受験者が目標正答確率を選ぶ多段階CATを用意し,受験者が「難しい問題が出ても問題数が少ないテスト」よりも「問題数が多くても易しい問題が出るテスト」を選ぶ傾向になることを確認した.(木村,小山)

4.教育的応用を見据えた基礎研究
1)校正前後の英文の構文構造の変化(構文変化)を捉えるための基本的な枠組みを与えた.構文変化に関する情報は,英作文の構文的な校正例の提示や,類似文検索に構文変化上の同値性などを考慮した新しい観点を与えることができる.(田中)

2)信頼区間推定に Wilson score interval を利用した応用についての報告を行った.Wilson score interval は分布が 0 や 1 に近い場合でも正規近似の信頼区間と比べ正確で,exact法と比べても容易でかつ平均的に正しいことがこれまでの研究で分かっている.応用ではSQL 上で計算を実装し計算結果などを報告した.(中野)

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文発表】
天野翼・宮崎佳典・田中省作・長谷川由美「コーパスを用いた技術英文書作成援用ツールの開発とその評価(その2)」 『統計数理研究所共同研究リポート382』pp. 41-52 (2017).

藤枝美穂「医療系学生向けESP語彙テスト開発:リスニング項目の検討」『統計数理研究所共同研究リポート382』 pp. 77-88 (2017)

金子恵美子「理系大学生の英語卒業論文における動詞+名詞共起の調査」『統計数理研究所共同研究リポート382』 pp. 1-15 (2017)

木村哲夫「受験者が目標正答確率を選ぶ多段階コンピュータ適応型テスト」『統計数理研究所共同研究リポート382』 pp. 17-27 (2017)

木村哲夫・大西昭夫・永岡慶三「RaschモデルによるMoodle小規模CATの改良」『JSET32講演論文集』 pp.795-796 (2016)

小山由紀江「米国高校教科書の再分析:科学技術英語の学習語彙リスト作成を視野に」『統計数理研究所共同研究リポート382』 pp. 61-75 (2017)

中野智文「Wilson score interval を 使った信頼区間の応用」『統計数理研究所共同研究リポート382』 pp. 53-59 (2017)

田中省作・宮崎佳典・徳見道夫「構文変化検出のための校正英文対データベースの設計と試作」『統計数理研究所共同研究リポート382』pp. 29-30 (2017)


【学会発表】
藤枝美穂「医療系ESP語彙テストの開発:リスニング項目の検討」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

Y. Hasegawa, Y. Miyazaki, T. Amano, A Web Application to Support Technical Writing for Non-native (EFL) English speakers, HALT2017 (accepted)

Kimura, T. Manipulation of target probability of computer adaptive tests. PROMS 2016. Xian, China (2016)

木村哲夫「受験者が目標正答確率を選ぶ多段階コンピュータ適応型テスト」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

Kimura, T. & Koyama, Y. Psychological aspects of computer adaptive testing: Loss of learning self-efficacy and motivation. Individuals in Contexts - Psychology of Language Learning 2. University of Jyvaskyla, Finland (2016)

小山由紀江 「ESPコーパスの分析からダイナミックアセスメントへ」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

宮崎佳典「コーパスを用いた技術英文書作成援用ツールを用いた実験とその評価」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

中野智文「Wilson score interval を 使った信頼区間の応用」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

田中省作「構文構造の変化情報(構文変化)が付与された校正英文対データベースの試作」言語研究と統計2017,統計数理研究所(2017年3月)

【ホームページ】
技術英文書作成援用ツール
http://mya-lab1.cs.inf.shizuoka.ac.jp /~tozawa/ewss/web/index.php

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

統計数理研究所言語系共同研究グループ 2016年度夏季合同研究発表会
日時:2016年8月29日(月) 10:00 〜 30日(火) 14:20
会場:神戸大学六甲台第1キャンパス プレゼンテーションホール(神戸市灘区六甲台町1-1)
オーガナイザー:石川慎一郎(神戸大学)
指導講話: 前田忠彦(統計数理研究所)
参加人数:29名(発表者数)

「言語研究と統計2016」(セミナーシリーズVol.12)
統計数理研究所言語系共同研究グループ合同発表会
日時:2016年3月27日(月) 10:30 〜 28日(火) 14:45
会場:統計数理研究所(東京都立川市緑町10-3)
オーガナイザー:藤枝美穂(大阪医科大学)
指導講話: 前田忠彦(統計数理研究所)
参加者人数:86名(事前登録数)

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

金子 恵美子

会津大学

木村 哲夫

新潟青陵大学

小山 由紀江

早稲田大学

田中 省作

立命館大学

中野 智文

株式会社VOYAGE GROUP

前田 忠彦

統計数理研究所

宮崎 佳典

静岡大学