平成232011)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

23−共研−1020

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

子どもの体力向上に関わる運動生活習慣要因:縦断的データを用いた量反応関係の解明

フリガナ

代表者氏名

スズキ コウヤ

鈴木 宏哉

ローマ字

Koya Suzuki

所属機関

東北学院大学

所属部局

教養学部人間科学科

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

(研究の背景)
 子どもの体力は1985年頃をピークにそれ以降2000年頃まで一貫して低下傾向にあり,2000年以降は横ばいかやや上昇傾向にあるものの,ピーク時の体力水準には到達していない.体力低下の要因に関する定量的研究はこれまでいくつか実施されてきたが,横断データによる成果が中心で,学校現場での長期的追跡が困難であることから縦断的な検証が行なわれていない.もちろん,体力向上に必要な刺激(トレーニング)について準実験的な手続きによって検証する研究はあるが,社会生活の中で生きる子どもに対して実効性のある体力向上の取組を仕掛けるためには,ある刺激がどの程度体力向上に効果的かを明らかにするだけではなく,生活習慣全般を考慮して総合的に体力向上に対する影響を検証する必要がある.そのとき,子どもに対する横断的な社会生活調査では因果関係を検証することはできないため,縦断的な追跡調査が必要となる.そして,因果関係の検証に加えて,どんな取り組みがどの程度の体力向上につながるのかといった量反応関係の検証は体力向上の取組を実施する側にとって重要な情報となる.子どもの縦断データを扱う場合には,発育発達のレベルが子どもによって異なるため個別の発育発達を考慮した分析が必要である.測定値の縦断的変化をモデリングする手法にLatent Growth model(LGM:潜在成長モデル)がある.LGMでは集団の縦断的変化に曲線(直線を含む)をあてはめた上で,その縦断的変化(変化の傾き)に影響する要因を検討することができる.更に,要因と変化の傾きに対する量反応関係を示すことができる.
(研究の目的)
 本研究では,追跡調査による縦断的データに対してLGMを適用し,子どもの体力向上に影響する運動生活習慣及び学校での取組を明らかにすることを第1の目的とし,第2に子どもの体力向上に影響する要因と子どもの体力向上の間の量反応関係を明らかにすることを目的とした.
(方法)
 対象者は日本人中学生279名(男子145名,女子128名)であり,入学から卒業までの3年間追跡した.データは3時点収集した(年に1回の3年間継続).調査項目は,体力と生活習慣に関する項目であった.体力の測定には文部科学省新体力テストを用いた(握力,上体起こし,長座体前屈,反復横とび,20mシャトルラン,50m走,立ち幅とび,ハンドボール投げ).各項目は総合評価するために,10点満点の得点換算値へ変換した.各得点は加算し,体力合計点を求めた.生活習慣については,運動部・スポーツクラブ所属状況(2値),運動・スポーツ実施状況(4件法),1日の運動実施時間(体育の授業を除く)(4件法),朝食摂取状況(3件法),睡眠時間(3件法),1日のテレビ視聴時間(テレビゲームを含む)(4件法)から構成された.生活習慣の年次変化と体力の年次変化の関連性を検討するためにカイ2乗検定と潜在成長モデルを用いた.潜在成長モデルでは体力合計点の年次変化をモデリングし,生活習慣項目(入学時と卒業時の差)を説明変数として導入したモデルを構築した.
(結果及び結論)
 カイ2乗検定の結果,有意差が認められた関連性は,1)朝食摂取状況の悪化と体力合計点の低下,2)テレビ視聴時間の減少と体力合計点の向上であった.生活習慣項目を説明変数とした潜在成長モデルは良好なモデル適合度を示した(e.g., CFI = 1.000, RMSEA = 0.000).説明変数のうち,体力合計点の年次変化の傾きに対して有意なパス係数を示したのは朝食摂取状況の変化のみであり,朝食摂取状況が1単位分改善することで体力合計点の年次変化が1.13倍(標準誤差=0.55)に増加することが明らかとなった.以上のことから,テレビ視聴時間の変化や朝食摂取状況の変化が体力の向上に影響することが明らかとなり,潜在成長モデルを導入することで,体力の向上に影響する要因と体力向上との量反応関係を示すことが可能であることが確認された.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Suzuki, K et al.(2011) Associations between change of physical fitness and change of lifestyle habits in Japanese adolescents: An examination of the dose-response relationship. 16th annual congress of the European College of Sport Science, poster presentation.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催せず.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

尾崎 幸謙

統計数理研究所

前田 忠彦

統計数理研究所