昭和601985)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

60−共研−41

専門分類

7

研究課題名

危険の競合下における寿命予測

フリガナ

代表者氏名

ノダ カズオ

野田 一雄

ローマ字

所属機関

明星大学

所属部局

理工学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

5 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

寿命の予測には,「危険の競合」すなわち主要因によって惹起される死亡ないし寿命短縮が他の要因によって影響される現象を把握することが鍵となる。本研究では,この現象の背後にある構造を解明することによって,「危険の競合」の影響がある場合とない場合との両者について寿命の予測を行い,それらの関連を明らかにすると共に,これを寿命短縮への寄与率,生存曲線の補正法,年齢訂正死亡率の決定等の問題へ応用する。


本年度は,課題の研究の出発点として,構造モデルの設定とこれに基づくシミュレーションを工夫した。
放射線をあびせられたマウスは,ある期間後にがんを発生し,これによって死亡にいたる。ところが観測されるデータは,この主たる死亡原因(危険)の他に競合する種々の死亡原因(危険)をもつために,競合する死因によって観測が打切られるものを多く含む。このような性格をもつデータから,がんのみを死因とするマウスの生存曲線を有効に推定する方法がまずもって望まれている。これに関連して,Kaplan−Meiyerの方法等ノンパラメトリックな推定法が幾つか知られている。しかし,これらの比較をはじめ,推定法の有効性は論じられていない。
1.われわれは,上のような状況を考慮して,複数の危険の競合がある場合に,競合する危険が除かれ主たる危険のみが影響をおよぼすときの個体の生存分布および競合する危険が単独に影響をおよぼすときの個体の生存分布のそれぞれに構造モデルを設定することを考えた。これによって,ノンパラメトリックな方法では明瞭にならないメカニズム,すなわち潜在的に想定されるところの危険が単独に作用する場合の生存分布から現実の観測値を生じさせる顕在的な生存曲線を知見するプロセスを明らかにすることができた。さらに,Kaplan−Meiyerの方法をはじめ既成の研究では,危険の個体の生存への影響は相互に独立であることが仮定されているが,現実にはこれらの影響は相互に依存関係があることが想定される。われわれは,この独立性の仮定を外し,危険の影響が相関をもつ場合の構造モデルを設定した。現在,モデルの裏付けを得るために,観測データのチェックを行っている。
2.また,最初の段階の研究として,上記のメカニズムを視覚的に明らかにするために,主たる危険およびこれに競合する危険が単独に影響するときのモデルとして,具体的にWeibull分布,正規分布,一様分布等を置き,これらの分布をもつ乱数を発生させることによって,顕在的な生存曲線がどのような形態をとるかを知ることのできるシミュレーションを行った。すなわち,各分布から1個あたり発生させられた乱数の組において,その最小値は「観測値」としての意義をもつ。かくして,競合する危険がすべて影響を与える場合の個体の生存曲線として意義をもつ曲線が,この「観測値」によって生成される。現在,データをチェックすることによって,いかなる危険にいかなる分布を対応させるべきかということを考えている。また,シミュレーションによる上記の「観測値」を基にして,生存曲線のノンパラメトリックな推定法の代表的なものを比較検討することも考慮中である。
3.共同研究における研究員相互の交流としては,課題設定を中心として各研究員の問題意識を確認しあい,基礎とする観測データの検討をもって出発点とした。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

これまで,寿命予測とりわけ生存曲線の推定には,曲線そのものに対してはKaplan−Meiyerの方法等ノンパラメトリックな方法が,また,対象のタイプ別寄与の推定には比例ハザードモデル等のパラメトリックな方法が用いられてきた。このような折衷的な方法がとられているのは,「危険の競合」の構造を分析する視角が欠如しているからである。本研究では,競合する危険によって発生する死亡の時間分布のモデルを設定し,この競合が寿命短縮へ影響する構造を解明することを通じて,化学物質や放射線の発がん性試験の統計解析をも含め生物・医学界の未開発である一分野に光を当てることを試みる。このような分野への適用を効果的に実現するために,専門の研究者との共同研究が不可欠である。
研究期間は3ケ年とするが,初年度においては,モデルの設定と,これによるシミュレーションにより上記構造の実態分析を行う。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加藤 寛夫

国立水俣病研究センター

佐藤 文昭

北海道大学

田ノ岡 宏

国立がんセンター

村上 征勝

統計数理研究所