平成232011)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

23−共研−4202

分野分類

統計数理研究所内分野分類

i

主要研究分野分類

1

研究課題名

広島原爆被爆者におけるがん死亡リスク地図の推定

重点テーマ

癌統計データ解析

フリガナ

代表者氏名

トンダ テツジ

冨田 哲治

ローマ字

Tonda Tetsuji

所属機関

県立広島大学

所属部局

経営情報学部

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

145千円

研究参加者数

5 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究目的】
 放射線被曝はがん等の罹患・死亡のリスクを高める要因であり,その影響を定量的に評価することは重要な課題である.放射線被爆の罹患・死亡リスクへの影響評価は,個々のうけた放射線曝露量を測定し,測定された被爆線量に基づき統計解析を用いて用量反応関係を評価するのが一般的である.個々の被曝線量の測定が困難な場合は,曝露をうけた状況や性別・年齢といった情報に基づく推定値を代わりに用いる.例えば,原爆被爆者が原爆被爆からうけた放射線曝露量は,
“放射線の影響は爆心からの距離とともに同心円状に減少する”という仮定のもとで,爆心からの距離と被爆当時の遮蔽状況から推定された“直接的な”被曝線量が用いられた.直接的な被爆とは,原子爆弾炸裂時に放出された放射線から直接的うける曝露のことを指す.一方,残留放射線や黒い雨(原子爆弾炸裂後に降ったとされる放射性物質を含んだ黒色の雨)等からの2次的な被爆を,ここでは“間接的な”被爆と呼ぶことにする.
 原爆被爆者の被爆による影響に関しては,放射線影響研究所のコホート調査(LSS)が世界的に知られている.ただし,LSSで解析対象となっている被爆者は,直接被爆者のみに限定されており,用量反応関係を評価したのは直接的な被爆についてのみで,残留放射線や黒い雨などの間接的な被爆の影響については,調査や研究の対象になっていない.一方,間接的な被爆の影響を評価した調査として,白血球数や染色体異常率に基づく生物学的な線量推定に基づく残留放射線に被爆したと推定される症例など,間接被爆の影響が疑われる事例が報告されている.しかし,間接的な被曝線量は推定することが困難であることから,被曝線量に基づく従来の従来法では間接被爆の影響を解析することができなかった.そのため,原爆被爆者における間接被爆のがん罹患・死亡リスクへの影響は無いものとして無視され続けてきた.もし,間接被爆の影響が無視できない程度あるならば,これまでの解析結果は実状に即していない可能性がある.
 本研究では,間接被爆の影響がどの程度あったかを検証するために,被曝線量の代わりに原爆被爆者の被爆時所在地の情報を用いて,被爆時所在地毎にリスクの定量的評価を行うためのリスク評価法を開発し,リスクの地理分布が視覚的に理解しやすいリスク地図を作成することを目指す.また,統計学的な観点から,間接被爆のがん等の罹患・死亡リスクへの影響の有無の検証も行う.

【研究成果】
 申請者らは,被曝線量に基づく従来のリスク評価法に代わる新しい評価法として,被爆時所在地の位置情報を利用し,地点毎にがん等による罹患・死亡のリスクを評価する方法を確立し,広島原爆被爆者コホートデータに適用することで,新しいリスク評価法の有効性を確認した.推定されたリスク地図は,同心円状ではなく北西方向に歪んだ円形非対称性が認められた.北西地域の死亡リスクが高い原因の候補として,黒い雨,残留放射線および内部被爆などによる間接被爆の影響が疑われる.今後,黒い雨の降雨範囲などの調査報告や,残留放射線の影響が疑われる事例報告など,他の調査結果を参照しつつ検討を続けていく必要がある.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文発表】
冨田哲治, 佐藤健一, 大谷敬子, 佐藤裕哉, 丸山博文, 川上秀史, 田代聡, 星正治, 大瀧慈:広島原爆被爆者コホート1970〜2010年におけるリスク地図の推定, 広島医学, 2011. (掲載予定)

【学会発表】
[1] Tonda, Satoh, Otani, Satoh, Maruyama, Kawakami, Tashiro, Hoshi, Ohtaki: Investigation on circular asymmetry of geographical distribution of mortality risk in Hiroshima atomic bomb survivors, 17th Hiroshima International Symposium, Hiroshima, 2012.
[2] 冨田・佐藤・加茂: 背景要因を考慮したリスク地図の作成方法, 第70回公衆衛生学会総会, 秋田, 2011.
[3] Tonda, Satoh, Otani, Satoh, Maruyama, Kawakami, Tashiro, Hoshi, Ohtaki: Statistical analysis for spatial survival data and its application to cohort study of Hiroshima atomic bomb survivors, World Congress of Epidemiology 2011, Edinburgh (Scotland), 2011.
[4] 冨田・佐藤・大谷・佐藤・丸山・川上・田代・星・大瀧: 広島原爆被爆者コホート1970〜2010年におけるリスク地図の推定, 第52回原子爆弾後障害研究会, 広島, 2011.
[5] 冨田・佐藤・大谷・大瀧: 変化係数曲面を用いた広島原爆被爆者におけるリスク地図の推測, 応用統計学会, 大阪, 2011.


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催していません。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

大瀧 慈

広島大学

大谷 敬子

広島大学

佐藤 健一

広島大学