平成282016)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

28−共研−1009

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

「鶴岡市における言語調査」データの共同利用と統計解析

フリガナ

代表者氏名

マエダ タダヒコ

前田 忠彦

ローマ字

Maeda Tadahiko

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【本研究の目的】
(以下「研究目的」の記述は応募時のものを援用しているが,別項で述べる通り「研究経過」はそこでの構想と様相が異なるものとなった。)

 本研究は,統計数理研究所と国立国語研究所の共同による長期的な調査研究「鶴岡市における言語調査」のデータを研究者コミュニティーに向けて公開し,成果を上げていくための母体とするためための課題である。
 「鶴岡市における言語調査」は社会言語学的な量的調査研究であり,1950年に第1回の調査を国立国語研究所と統計数理研究所が協力して実施して以来,両機関が共同プロジェクトとして,約20年に1回の間隔で第2回が1971年度,第3回が1991年度と続けられ,2011年度に第4回の共同調査が行われた。「鶴岡市における共通語化」がテーマとなっており,調査デザインとしてはランダム・サンプリング調査とパネル調査を組み合わせたものとなっている。この種の調査デザインで継続されている調査としては,おそらく世界でも最も長期にわたるもので,言語調査の分野では国際的にも高く評価される内容を持っている。ランダム・サンプリング調査により,地域社会における共通語化の進行を推定し,他方パネル調査では個人内での共通語化の過程を分析することが目的となっている。
 2011年度の第4回調査は,統計数理研究所がランダム・サンプリング調査(有効サンプルサイズは466)を,国立国語研究所がパネル調査(有効サンプルサイズは333)を担当して進められた。また次の年度中には補完調査として,一部の不備などを再調査した。またその後も,プロジェクトとしては発展的な内容の調査を含めた調査研究を継続している。
 そうしたプロジェクト全体の文脈下で,調査データに関しては,平成26(2014)年度までに,録音の聞き取りとコーディングなどをほぼ終え,基本的な集計も済んで,研究者コミュニティーへの公開の準備を進め,同年度中から調査そのものに参加したプロジェクト・メンバーを中心とする研究者(国立国語研究所内の研究者を含む)に提供開始し,メンバーの共同利用が始まった。平成27年度もプロジェクト内部のメンバーが共同利用登録を通じて利用を申請している。
 このデータの貴重さに鑑みて,平成28年度以降には,プロジェクト・メンバーに限定されない研究者コミュニティーに公開し,共同利用を図っていくことを予定している。
 本研究は,インフォーマント(調査対象の個人)の匿名性の確保に十分配慮しつつ,平成26(2014)年度,平成27(2015)年度のの研究に続けて,プロジェクトの事務局的な役割を担ってきたメンバーが中心となって研究組織を構成し,利用者側の使いやすさも備えた共同利用型データの公開のあり方を検討しつつ,分析と成果公表を続けることを目指している。
 本研究を母体とし,データの共同利用を希望する研究者には,本人の希望に応じ,
a)本課題への研究分担者として事後参加する,
b)共同利用登録で,本研究課題と緊密に協力しながら研究を進める,
のどちらかの形で、研究を進めることを想定している。
 なお,データの共同利用の準備だけではなく,当然参加メンバーが独自の研究関心に基づいた分析を進めることとし,それぞれに分析目標を定めた統計的な解析を行う。

【研究の経過】
 平成28年度中は,本課題のメンバーによるデータの更なる公開に向けての準備,あるいは成果発表を充分行うことができなかった。要因はいくつかある。
 一つの要因としては,こうした公開活動で主体的役割を果たすべきNOE型の組織である調査科学研究センターが廃止され,情報・システム研究機構の下に新たに置かれたデータサイエンス共同利用基盤施設(DS基盤施設)社会データ構造化センターの中の社会調査関連事業の下で発展的に活動を移管することを予定することになった点を挙げることができる(実際には平成29年1月31日限りで,調査科学研究センターが廃止)。
 二つめの要因としては、プロジェクトメンバー外の一般研究者にとっても使いやすい電子的なデータファイルの整備がまだ充分行えていない現状があった点がある。例えば第4回ランダムサンプリング調査についても言語調査のデータに必要である対象者の(言語面での)生育歴に関する変数の整備が十分でなく,情報の補完が必要となった。。
 こうした中にあっても,国立国語研究所側は早期のデータ公開を希望しているという事情もあり,両研究所間で,あらためてデータの共同利用に関する覚書を平成29年4月までに交わすこととなった。この結果として国立国語研究所側では,別項に記すホームページ上で,先行してデータの公開を進める下地は整えられ,実際に同研究所内の研究者有志により準備が進められた,というのが平成29年4月現在の状況である。
 統計数理研究所側としては,上部組織である情報・システム研究機構内のDS基盤施設社会データ構造化センター内であらためてこうした貴重な調査データの公開を図っていく枠組みを整備することを目指すことととした。この際の基本的なポリシーは,目的の項に述べた点と大きく変わることはないが,一般研究者が利用を申請する際の枠組を統計数理研究所の本共同利用研究内とするか,DS基盤施設内で新たに設定される予定の共同利用研究の枠組の中での活用を図るか,等の方策を定める必要がある。

【研究の経過:今後の調査プロジェクトの方向性の検討】
 直接本課題の中心的な検討課題とはしてこなかった点であるが,本課題名による申請も3年目となったことから,今後の「鶴岡市における言語調査」のプロジェクトのあり方も合わせて検討することが妥当と考え,将来計画に資する研究テーマの探索的検討を活動に付け加えることとした。このために,研究分担者(津田智史)も追加した。具体的には語彙・文法項目と呼ばれる側面の新展開を図るべく,今後の鶴岡調査で取り上げるための調査項目に関わる検討を進めた。本共同利用研究の枠外の予算を利用したものであるが,こうした新規調査項目の妥当性を検討するための小規模な予備調査も鶴岡市民10名弱を対象として,平成29年2月中に実施した。

【今後の予定】
 こうした成果を踏まえつつ,本研究課題は平成28年度で一区切りとし,平成29年度の仮題申請はひとまず見送った。今後のプロジェクトのあり方については新たに組織を組み,本研究課題を拡大した共同利用研究課題としての新規申請とするか,別の(科研やDS基盤施設の共同利用研究等)枠組みでの発展を目指すか,検討を行っているところである。
 

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

〇平成28年度中は,本研究課題としては特段の成果(論文,学会発表)等を行うことはできなかった。

〇「鶴岡市における言語調査」の一般的な情報としては,国立国語研究所の下記のページを挙げることができる。
 http://www2.ninjal.ac.jp/longitudinal/tsuruoka.html
 国立国語研究所からのデータ公開も本ページから行われる予定となっている。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

〇メンバー全員が集まる対面研究会は特に開催していない。個々の研究メンバーと代表者の間の研究打合せは適宜行った。

〇本研究課題の枠組みとは別予算を利用して,平成29年2月17日-19日の日程で,鶴岡市において小規模な調査を実施した。ここには共同利用研究メンバー3名の他に,5名の若手研究者(院生)が参加した。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

阿部 貴人

専修大学

津田 智史

宮城教育大学

中村 隆

統計数理研究所

横山 詔一

国立国語研究所

米田 正人

国立国語研究所