平成182006)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

18−共研−6007

専門分類

7

研究課題名

自発報告データベースを用いたシグナル検出方法の検討

重点テーマ

生物統計学の深化と展開

フリガナ

代表者氏名

サトウ トシヤ

佐藤 俊哉

ローマ字

Sato, Toshiya

所属機関

京都大学

所属部局

大学院医学研究科

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

50千円

旅 費

50千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 多くの規制当局では、製造販売後に市場で使用されている医薬品の有害事象の報告を集めることが行なわれている。近年、計算機の発展により、これらの報告をデータベース化し、そのデータベースから医薬品と有害事象との間の関連を調べ、強い関連があるものを検出するシグナル検出という方法が実用されるようになってきた。シグナル検出では多くの方法が提案されているが、基本的にはある時点で集まっている報告について、対象としている医薬品か否か、対象としている有害事象か否かの2×2分割表を構成し、関連の指標を計算するということが行われる。そして、指標の値が特定の基準値を超えたときにシグナルであるとみなされる。シグナル検出の方法の性能評価を行なう際には、ある時点での感度や特異度が調べられる。しかし、現実にこれらは、経時的に指標を計算することになるので、本来はこのことを考慮した検討が必要であるはずである。このような問題に対して品質管理の分野では古くからsequential probability ratio test (SPRT)が利用されてきた。本研究では、有害事象の検出という点からSPRTのレビューを行い、自発報告データベースのシグナル検出を行なう際のSPRTの利用可能性について検討を行なった。
 SPRTは、特定の時点で尤度比統計量が上限を超えれば帰無仮説を、下限を下回れば対立仮設を棄却するように構成される。そして、上限と下限は第1種、第2種の過誤確率によって定められる。しかし、シグナル検出の状況では対立仮説を受け入れることには興味がないので、上限だけが問題になる。このような問題に対応するために、下限を超えた場合に判定を行なわずResetting SPRTという方法が開発されている。この場合には、もはや上限を決めるものは過誤確率というよりも単なるパラメータとなる。この値をどのように決めるかは検討が必要となる。また、尤度比検定統計量は帰無仮説に対応するパラメータを設定する必要がある。これには、2つのやり方が適用可能であると考えられる。1つは、従来のシグナル検出で用いられるように対象となる薬剤以外の情報と対象となる有害事象以外の情報を用いるというものである。もう1つは、有害事象ごとにパラメータを決めるというやり方である。前者は、従来のシグナル検出で用いられる方法と似たもの帰着することになる。後者は、対象となるすべての有害事象について帰無仮設に対応するパラメータの値を設定しなくてはならないものの、このことは有害事象の種類によって異なる情報を組み込むことができるということになるので、有害事象の性質と重要性を考慮することが可能となるという点で、従来のシグナル検出に比べ利点がある。さらに、後者の設定は、他の薬剤の情報を用いなくてもよいので、企業のように自社のデータのみが集まるところで用いることもできることも利点となるであろう。また、交絡の調整も考慮することができる方法が提案されており、これも想定している状況で利用することが可能である。
以上より、有害事象データベースにSPRTを適用することは可能であり、ある種の利点があるが、一方で上限パラメータの設定の決定、有害事象の性質を考慮した情報が必要となることがわかった。この状況を想定した場合のSPRTの性能評価は今後の課題である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・大森崇(2007)重篤な有害事象を速く検出するためのシグナル検出法の検討、日本統計学会誌、第36巻、195-204.
・大森崇(2006)、Sequential Probability Ratio Testを用いたシグナル検出法、Kyoto Biostatistics Seminar 2006年4月11日発表資料.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

大森 崇

京都大学

柳本 武美

統計数理研究所