平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2002

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

精神疾患における治療前後の前頭前野血液量変化測定

フリガナ

代表者氏名

キクチ センイチロウ

菊地 千一郎

ローマ字

Kikuchi Senichiro

所属機関

自治医科大学

所属部局

精神医学講座

職  名

講師

配分経費

研究費

40千円

旅 費

10千円

研究参加者数

5 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

平成24年は、予定数を大幅に上回る精神疾患を持つ患者64名を対象としてNIRS検査を行った。これはマスコミで先進医療「光トポグラフィーを用いたうつ状態の鑑別診断補助」が紹介され、問い合わせと検査希望者が大変増加したためである。検査希望が大変多かったため、本研究は先進医療検査と併用して行われた。対象からは検査の意義、利点、などを説明し書面による同意を得て行った。まずはうつ状態の指標としてハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D17)を行った。次にNIRS検査を施行した。
通常先進医療のための検査に用いる認知課題は「語流暢課題」(VFT)である。先進医療における語流暢課題は通常の研究で行われるブロックデザインではない。この検査は、対照課題30秒、刺激課題60秒、対照課題70秒の組合せで構成されている。まず、30秒間「あ・い・う・え・お」をくりかえしゆっくり発音する。次に20秒を3セット、計60秒間、語頭提示による語流暢課題を施行する。たとえば検査開始0秒で「す」、開始20秒で「ま」、開始40秒で「え」とひらがな一文字を音声にて提示する。被検者はそのひらがなで始まる単語をできるだけ多く発声する。最後に「あ・い・う・え・お」をくりかえしゆっくり発音して終了する。60秒間の課題中に変動した酸化ヘモグロビン波形の積分値を脳活動量の指標とする。
私たちはVFTと比較対照するため、「後だし負けじゃんけん課題」(drRPS)も併せて検査デザインを似せて施行した。リハーサルで被検者のもっとも短い提示間隔を測定してから検査を行う。すなわちdrRPSでは最初の対照課題30秒はコンピューターの提示した「勝ち」次の刺激課題60秒は「負け」最後の対照課題70秒は「勝ち」である。
問診とVFTとdrRPSを行うことにより各被験者から得られた変数は、
(1)HAM-D17 大きいほどうつが重い
(2)VFT中の前頭部関心領域の酸化ヘモグロビン波形積分値(VFT前頭部積分値) 大きいほど活動が大きい
(3)VFT中の左Broca野酸化ヘモグロビン波形積分値(VFT左Broca野積分値) 大きいほど活動が大きい
(4)VFT中の右Broca野酸化ヘモグロビン波形積分値(VFT右Broca野積分値) 大きいほど活動が大きい
(5)drRPS中の前頭部関心領域の酸化ヘモグロビン波形積分値(drRPS前頭部積分値) 大きいほど活動が大きい
(6)drRPS中の左Broca野酸化ヘモグロビン波形積分値(drRPS左Broca野積分値) 大きいほど活動が大きい
(7)drRPS中の右Broca野酸化ヘモグロビン波形積分値(drRPS右Broca野積分値) 大きいほど活動が大きい
(8)VFT生成単語数 大きいほど成績がよい
(9)drRPS提示時間間隔 大きいほど成績が悪い
である。64例にNIRS検査を行ったが3名はHAM-D17を取り損ねたのでHAM-D17を含んだ検討は61例である。
これらの相関係数を求めた。相関係数はCohen. Psychological Bulletin, 1992にならい、0.1以上を弱い相関、0.3を以上を中程度の相関、0.5以上を強い相関とした。
その結果
HAM-D17とVFT前頭部積分値の相関係数は-0.179
HAM-D17とdrRPS前頭部積分値の相関係数は-0.192
VFT生成単語数とVFT左Broca野積分値の相関係数は0.070
VFT生成単語数とVFT右Broca野積分値の相関係数は0.104
drRPS提示時間間隔とdrRPS左Broca野積分値の相関係数は-0.236
drRPS提示時間間隔とdrRPS右Broca野積分値の相関係数は-0.244
HAM-D17とVFT左Broca野積分値の相関係数は-0.073
HAM-D17とVFT右Broca野積分値の相関係数は-0.118
HAM-D17とdrRPS左Broca野積分値の相関係数は-0.128
HAM-D17とdrRPS右Broca野積分値の相関係数は-0.344であった。
これによるとHAM-D17とdrRPS右Broca野積分値の相関係数が唯一中程度の負の相関を示した。つまり、うつの症状が重いほどdrRPSの右Broca野の活動が低下する傾向が中程度に認められたことになる。
本研究からdrRPS中の右Broca野の活動に注目することがうつ症状の変化を見ることに有用ではないかという可能性が示唆された。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

現在は外部には発表は行っていない。医局内の集談会で発表した。平成25年度に学会で発表する予定後国際氏に論文投稿する予定である。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

平成25年2月12日自治医科大学附属病院精神科集談会で、自治医科大学精神医学教室における 先進医療「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」の取り組みという題名で発表した。参加者は40名ほどであった。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

石黒 真木夫

統計数理研究所

松本 健二

自治医科大学

三分一 史和

統計数理研究所

山内 芳樹

自治医科大学