平成242012)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

24−共研−4206

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

階層帰属意識の社会的構成

重点テーマ

社会調査関連資源の利活用

フリガナ

代表者氏名

スド ナオキ

数土 直紀

ローマ字

Sudo Naoki

所属機関

学習院大学

所属部局

法学部

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

150千円

研究参加者数

9 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

 本プロジェクトの研究目的は、いわゆる階層帰属意識が形成されるプロセスを明らかにし、そしてそのプロセスがさまざまな社会変動によってどのように変化してきたのかを検討することであった。階層帰属意識に関する先行研究が明らかにしてきたように、日本社会が一億総中流社会から格差社会へと社会イメージを大きく変えたにもかかわらず、階層帰属意識分布については大きく目立った変化が起きていない。そして、階層帰属意識分布が大きく変化していないにもかかわらず、社会経済的地位が階層帰属意識に及ぼす影響は強まっており、社会階層構造と階層帰属意識の対応は二重の意味でねじれている。本プロジェクトでは、2010年SSPデータなどの分析を通じて、こうしたねじれの背景に何があり、そしてこのようなねじれがひとびとの意識・態度・行動にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにしようとした。
 神林博史は、回答者が自身の階層帰属判断に対して感じる確信度に注目し、分析をおこなった。その結果、自身の階層帰属判断に対する確信度が低いものほど、「中」と回答しやすいことが明らかになった。このことは、自身の判断に対する主観的正確性が低いときには、「中」意識が増大するともに、階層帰属意識と社会経済的地位との関連が弱まることを意味する。
 また、小林大祐は、調査モードの違いに注目し、分析をおこなった。その結果、調査モードによってひとびとの階層帰属意識判断に系統的な偏りが生じていることが明らかになった。このことは、従来の社会調査においてとられていた調査員による面接法が「中」回答を多くしていたことを示唆している。
 さらに、内藤準は、現代社会において顕著にみられるようになった「個人化」に注目して、分析をおこなった。その結果、男性においても、そして女性においても、かつてと比較して世帯や配偶者の属性が与える影響が弱まり、本人属性の影響が強まっていることが明らかになった。このことは、「個人化」という社会変動がひとびとの階層帰属意識にも変化をもたらしており、ひとびとの階層の捉え方が変化していることを明らかにしている。
 最後に、数土直紀は、婚姻上の地位に注目し、分析をおこなった。その結果、婚姻上の地位がひとびとの階層帰属判断にかつては存在しなかった影響をもつようになったことが明らかにされた。このことは、「未婚化」、あるいは「晩婚化」といった社会変動によって、ひとびとの階層帰属判断が影響をうけていることを明らかにしている。
 以上からわかるように、かつて問題とされた一億総中流の背景には、ひとびとに階層帰属をどう判断させるかという方法論的な問題があった。そしてこの問題は、階層帰属判断と社会経済的地位との対応関係が明確化になった現在においても、基本的には依然としてそのまま残されている。したがって、階層帰属意識を主題として扱う場合には、この問題は決して看過しえない注意すべき論点となっている。また、ひとびとの階層帰属意識は、さまざまな社会変動によって影響を受けている。そして、階層帰属判断に影響を与える社会変動は、経済成長や職業構造の変動といった階層帰属意識に直接的に影響を及ぼすと思われる変動に限定されるのではなく、個人化や未婚化・晩婚化といった個人のライフスタイルに関する社会変動も含まれていた。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・論文発表
数土直紀「未婚者の階層意識 結婚は地位達成なのか?」,『理論と方法』Vol.27 No.2, pp225-242,数理社会学会,2012 年9 月.

・学会発表
神林博史「階層帰属意識と社会経済的地位の関連はなぜ強まったのか」, 『第54 回数理社会学会大会』, 数理社会学会, 2012 年8 月30 日.
数土直紀「結婚が地位として意識されるとき 晩婚化が階層帰属意識に与えた影響」, 『第85 回日本社会学会大会』, 日本社会学会, 2012 年11 月3 日.
小林大祐「多様に実施される社会調査の比較(1)」, 『第85 回日本社会学会大会』, 日本社会学会, 2012 年11 月3 日.
内藤準「階層アイデンティティの個人的・家族的要因における推移」, 『第85 回日本社会学会大会』, 日本社会学会, 2012 年11 月4 日.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

重点テーマ2の7課題が合同で12月25日と26日に合同の成果発表会(シンポジウム)を下記の要領で行った。この催しは,SSPプロジェクトとの共催である。

◆公開研究報告会◆
 社会調査関連資源の利活用
 〜階層意識の調査などをめぐって〜
 日時 : 2012年12月25日(火)13:30〜26日(水)16:45
 場所 : 統計数理研究所
 http://www.ism.ac.jp/~maeda/SSP_Meeting2012.html

 この中では本研究班のメンバーである神林、小林、内藤、数土が発表を行った他、各メンバーが討論に参加した。
 この研究会の参加者数は約60名である。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

金澤 悠介

立教大学

神林 博史

東北学院大学

吉川 徹

大阪大学

小林 大祐

仁愛大学

谷岡 謙

大阪大学

内藤 準

首都大学東京 大学院

前田 忠彦

統計数理研究所