平成262014)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

26−共研−2063

分野分類

統計数理研究所内分野分類

f

主要研究分野分類

8

研究課題名

大規模な環境・生態データのホットスポット検出に関する研究

フリガナ

代表者氏名

イシオカ フミオ

石岡 文生

ローマ字

Ishioka Fumio

所属機関

岡山大学

所属部局

大学院法務研究科

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

113千円

研究参加者数

5 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

近年の地理情報システム,測定機器の進歩により,高い測定精度で大容量のデータを取得できる環境が整ってきた。このため,動植物に関わる各種の大規模な環境・生体系データの調査領域を,定量的に評価することの必要性が生じてきている。栗原・石岡らは,大規模データに対する有意なクラスター(ホットスポット)を検出するためのアプローチとして,位置情報を与えられたデータを位相的な階層構造に基づき探索するechelon空間スキャン統計量を提唱している。本研究の目的は,これら一連の解析手法を大規模な環境・生態データに適用することにより,従来法とは異なるアプローチによる新たな知見を会得することである。

空間データに対するホットスポット同定に関して,従来法ではスキャンされる形状に制約が設けられていたり,計算時間等の問題から,大容量データへの適用は困難とされている。本年度は,echelon法の利点について,他の先行研究手法とechelon法を大容量のシミュレーションデータに対して適用し結果を比較することで,その有効性を示した(石岡・栗原, 2014)。

具体的な生態学への適用に関しては,共同研究者である群集生態学を専門とする琉球大学の久保田康裕先生から,森林群集の空間分布データをご提供いただき,同じく共同研究者である生態系の空間統計学を中心に研究されている防衛医科大学校の小田牧子先生主導のもと,一連の解析を行った。
問題提起として,森林は似通った年齢の樹木が小さな集団(パッチ)を成し,様々な年齢階のパッチがモザイク構造をしている。このパッチ単位であれば,森林の動態をみることは現実的な期間で可能になる。そのためにまずはパッチを同定する必要があるが,一般的には種数や空間スケールに依存して主観的に評価する手法がとられている。パッチ同定を定量的に評価するための先行研究として,小田ら(2012)は,森林のデータに関してechelon解析を用いてパッチを同定する手法を提案した。これは,互いの位置情報を基にデータ自身が本来持っている階層構造に基づいて客観的にパッチを同定する手法をとっており,従来のパッチ同定法を刷新するものであった。本年度は,この先行研究の中で実例として挙げた茨城県の森林データの解析結果と比較するため,これとは異なる気候帯における森林データを用いて同様にパッチ同定を試みた(小田ら,2014)。具体的には,今回新たに提供いただいた北海道知床半島の亜寒帯性針広混交林内に設置された調査区データ(面積2.25 ha を10m * 10mのサブプロットに区分された中における樹高2m以上の樹木(約2000本))である。その結果,知床の森林でもechelon解析を用いたパッチ同定手法が利用可能であることが確認でき,また,同時にスキャン統計量に基づく新たなパッチの評価法の提案も行った。しかしながら,提案した評価法では同じ調査間で同定したパッチの比較であり,異なる調査地間での比較には至っていない。この点は今後の課題である。

同様のパッチ同定手法をフィンランドの河川にいるサーモンの生息場適性指数を用いて,サーモンにとって生息しやすい場所と調査法について検討した(小田ら, 2014; Oda et al, 2014)。この中で森林以外のデータについてもechelon解析を用いたパッチ同定が可能であることを示した。加えて,異なる2種の調査手法で同じ調査を行い,その調査手法について統計的な比較を行う解析法を提案した。この比較法については,時系列データの解析にも応用可能と考えており,この点についても今後の課題となっている。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

小田牧子, 久保田康裕, 楠本聞太郎, 石岡文生, 栗原考次 (2014). 空間的視点からの森林構造の表現と比較. 日本計算機統計学会 第28回シンポジウム講演論文集, 273-274.

小田牧子, Koljonen, S., Alho, P., 水藤寛., Huttula, T. and 栗原考次 (2014). 空間的階層構造を利用したサーモンの生息場評価法. 2014年度 統計関連学会連合大会講演報告集, 245.

Oda, M., Koljonen, S., Ishioka, F., Alho, P., Suito, H., Huttula, T. and Kurihara, K (2014). Juvenile salmon patch identification and comparison using Echelon analysis. Project report for bilateral cooperative program between Japan and Finland, "Assessment Tools for Solving Aquatic Problems", 110-120.

石岡文生, 栗原考次 (2014). 大規模空間データに対する集積検出手法の評価について. 第27回大規模データ科学に関する研究会 第1回研究集会「大規模医療データと統計技法に基づく高度臨床診断と予測」.

小田牧子 (2014). 階層構造を用いた比較法について. 第27回大規模データ科学に関する研究会 第1回研究集会「大規模医療データと統計技法に基づく高度臨床診断と予測」.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催せず。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小田 牧子

防衛医科大学校

久保田 康裕

琉球大学

栗原 考次

岡山大学

椿 広計

統計数理研究所