平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2036

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

1

研究課題名

一般化エントロピーの幾何学と統計学

フリガナ

代表者氏名

ヘンミ マサユキ

逸見 昌之

ローマ字

Henmi Masayuki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

38千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究目的:
近年の複雑系科学の発展からベキ型分布に従う現象が数多く発見され、これを最大化エントロピー原理で説明するために、統計物理学を中心とする分野で導入されたTsallisエントロピーという概念が注目を集めている。これに関して最近、本研究の分担者らによって、情報幾何学の観点から新たな知見が得られている。例えば、この分野ではエスコート確率と呼ばれる新しい概念が重要な役割を果たすが、これがもとの確率分布の射影変換によって得られることが示され、さらにそれに基づいて、この世界で幾何学的に自然な基準(双対平坦性)から決まる統計多様体の構造が、これまでに考えられていた統計学的に自然な基準(確率測度変換に関する幾何構造の不変性)から決まる統計多様体の構造(Fisher計量とアルファ接続)と異なることが示された。このように幾何学的観点からは一定の成果が得られているが、Tsallis エントロピーに関する研究は統計物理学を動機としたものが多く、統計学的な研究は不十分である。そこで本研究では、幾何学的および物理学的な議論との関連を踏まえながら、この分野に現れるさまざまな概念の統計的意味や役割を解明することを主な目的とする。また、Tsallis エントロピーは(通常の)エントロピーの一般化の1つの可能性に過ぎず、他にも様々な一般化エントロピーが提案されている。本研究ではそれらにも注目し、その意味や役割、お互いの関係などについても考察する。そして本研究を通じて、数学(幾何学)、物理学(統計物理学)、統計学の観点からの問題意識を照らし合わせながら、互いに刺激を与え合うことで、有益な異分野交流となることも目指す。

研究経過:
本年度は、主に以下のような研究結果が得られた。
まず、エスコート分布は統計モデル(変形指数型分布族)からある種の系列として得られることが分かった。アルファ-ダイバージェンスやベータ-ダイバージェンスなどの確率分布の隔たりを測る尺度も、このエスコート確率の系列で明快に解釈される。さらに統計学では様々な期待値が定義されるが、エスコート確率の系列から定義される期待値は統計モデルのみならず、対象とする統計量ごとに期待値と取り方を変えることが自然であることを示唆している。幾何学的には統計モデルのなす多様体の射影変換群から得られる構造であり、極めて自然な数学的構造である。さらに、この系列はデータの観測数とも関連があり、中心極限定理や大偏差原理との関連も予想される。

また、統計物理学との関連については、熱平衡状態に対する熱力学・統計力学で非常に基本的かつ重要であるMaxwell関係式と、熱力学的な物理量の揺らぎと応答とを結び付ける重要な関係式である揺動応答(fluctuation-response)関係が、双対平坦である指数型分布族に対するFisher計量の性質から導出できるという重要な事実に基づき、それらの関係を利用して双対平坦構造を持つ一般化指数型分布族のひとつであるカッパ-指数型分布族に対する揺動応答関係のカッパ-拡張版を導出することに成功した。

幾何学や(統計)物理学との交流は進んでいるが、統計学との関連についてはまだはっきりとしたことは分かっていない。その点については、一般研究2「一般化エントロピーの数理・物理と統計学」として引き続き研究を行っていく予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表

[1] Matsuzoe, H. (2017).
A Sequence of Escort Distributions and Generalizations of Expectations on q-Exponential Family, Entropy 19(1), 7.

[2] Scarfone, A.M., Matsuzoe, H. and Wada, T. (2016).
Consistency of the structure of Legendre transform in thermodynamics with the Kolmogorov-Nagumo average, Phys. Lett. A 380, 3022-3028.

学会発表

[1] Matsuzoe, H.
Construction of model selection criterion for q-exponential family,
International Colloquium on Differential Geometry and its Related Fields,
St. Cyril and St. Methodius University of Veliko Tarnovo, Veliko Tarnovo, Bulgaria, 2016.9.6-10 (招待講演).

[2] Matsuzoe, H.
Information geometry of anomalous statistics,
The 4th Institute of Mathematical Statistics Asia Pacic Rim Meeting,
The Chinese University of Hong Kong, China, 2016.6.27-30.

[3] Matsuzoe, H.
Geometry of deformed exponential families and unbiasedness of estimating
functions,
1st-International Conference on Differential Geometry (ICDG-FEZ 2016),
Sidi Mohamed Benabdellah University, Fez, Morocco, 2016.4.11-15.

[4] 和田達明
「熱統計学のカッパ拡張とその情報幾何構造」
QCPG2016 量子と古典の物理と幾何学, 福井, 2016.4.29-30.

[5] 松添 博, 和田達明
離散と連続の確率分布の幾何学
ミニワークショップ統計多様体の幾何学とその周辺(8), 北海道大学, 2016.9.12-13

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特になし

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

松添 博

名古屋工業大学

和田 達明

茨城大学