平成282016)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

28−共研−1032

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

クローナル植物におけるクローン成長のデモグラフィ解析

フリガナ

代表者氏名

アラキ キワコ

荒木 希和子

ローマ字

Araki S. Kiwako

所属機関

立命館大学

所属部局

生命科学部生物工学科

職  名

助教

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

クローナル植物は種子繁殖とともにクローン成長 (栄養繁殖) によっても新たな株 (ラメット) の生産を行う。ゆえにクローナル植物集団は、クローン(ジェネット)がクローン成長によって繰り返し新たなラメットを集団中に加入することで維持されている。本研究では、クローナル植物のラメットの連結からジェネットのクローン成長についての推移行列モデル構築し、クローナル植物におけるクローン成長のデモグラフィを解析する手法を確立することにより、ジェネットと集団の動態を定量的に評価することを目的としている。
北海道に自生し、地下茎でクローナル成長を行う草本植物のスズラン (Convallaria keiskei) を対象に、野外集団にてトランセクトを設置し、調査を行ってきた。全てのラメットの遺伝子型を特定した上で、2003年から2007年にかけて、地上部の動態を経年追跡調査した。2005年から2009年にかけて、これらのラメットの地下茎を掘り起こし、地下茎によるラメット間の連結を調査した。そして、地上部と地下部のデータを統合的に解析し、ラメット・ジェネットでの二つの繁殖 (種子繁殖・クローン成長) デモグラフィを明らかにした(Araki and Ohara 2008, Fukui and Araki 2014)。また2008年度には、地上部の追跡調査と地下茎連結データの一部を用いて、ジェネットの空間的拡大の方向性についての解析と、連続推移行列モデルの構築を試みた。
本年度 (2016年度) は、掘り起こしたクローン断片の情報を用いて、ラメット間ペアを選択し、子ラメットと連結している親ラメットのクローン成長した年(子ラメットを生産した年)、ジェネット、サイズ、成長ステージを集約した。これをもとに、ジェネット、サイズ、成長ステージごとにクローン成長率を推定した。そして、クローン成長率がこれらのカテゴリごとに異なるかを検証したところ、全てにおいて違いがあったため、ジェネットごとに、サイズとステージにもとづいたクラス分けを行い、推移行列を構築した (荒木ら 2016, 生態学会発表)。その結果、繁殖価はクローン断片の先端に位置するラメットで高いことがわかった。またクローン成長率は、集団に優占する二ジェネットの先端に位置するラメットで、かつ当年に出現した二枚葉のもので最も高いことが明らかとなった。このことから、スズランでは新規のラメットほどクローン成長を行いやすく、地上に出現してからの年数や断片内の位置が変わるにつれて、クローン成長よりも種子繁殖へ投資する割合が高くなることが示唆される(荒木ら 2016, 種生物学会発表)。
今後は推移行列モデルをもとに固有値と繁殖価を算出するとともに感度分析などの詳細な解析を行う必要がある。さらに、ペアワイズの比較分析など推移行列を含めた解析に基づく統計量を計算してみたいと考えている。そして、これらの解析結果をもとに、ジェネット間でデモグラフィを比較する。これにより集団内に存在するジェネット間の個性を検出するとともに、集団全体におけるジェネットの挙動の詳細を把握し、集団内のクローン成長の特性を明らかにする。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Araki K & Ohara M (2008) Reproductive demography of ramets and gents in a rhizomatous clonal plant Convallaria keiskei. Journal of Plant Research 121:147-154.
Shin Fukui, Kiwako S. Araki. (2014) Spatial Niche Facilitates Clonal Reproduction in Seed Plants under Temporal Disturbance. PLoS ONE 9 (12), e116111.
福井眞・荒木希和子 (2017)クローン植物の繁殖戦略と遺伝構造-固着性生活をおくる上での空間不均一性への適応-.日本生態学会誌.(採択済)
荒木希和子・島谷健一郎・大原雅 (2016) クローン成長の推移行列モデル-地下茎伸長のダイナミクス-.第63回日本生態学会,仙台
荒木希和子・島谷健一郎・大原雅 (2016) 地下茎伸長のダイナミクス-クローン成長の推移行列モデルの構築-.第48回種生物学シンポジウム,小樽

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は行っていない

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

島谷 健一郎

統計数理研究所