平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2039

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

被災地域の子どもにおける身体活動量,健康関連QoL,免疫機能の変化に関する追跡研究

フリガナ

代表者氏名

スズキ コウヤ

鈴木 宏哉

ローマ字

Koya Suzuki

所属機関

東北学院大学

所属部局

教養学部人間科学科

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

22千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

(背景及び目的)
沿岸部被災地域に住む子どもの身体活動環境は劇的に悪化した.習慣的身体活動が心身の健康(健康関連QoL,免疫機能)に対してポジティブな影響を及ぼしていることはあらゆる年齢を対象とした研究において明らかである.我々は宮城県牡鹿郡女川町教育委員会の協力により震災発生から半年後に宮城県女川町の全小中学校の子どもの身体活動,健康関連QoL,生理的ストレス,免疫機能,身体活動に関する周辺環境について調査を実施し,その実態を明らかにした.更に,2012年3月に同じ調査項目を用いて第2回目の調査を実施した.
これまでの震災関連の報告,阪神大震災や中越沖地震後などの研究成果において子どもの身体活動量に関する研究は見あたらない.更に海外の論文データベース(PubMed)を検索しても災害における子どもの身体活動量に関する研究はない.以上のことから本研究では,沿岸部被災地域の子どもにおける身体活動量と健康関連QoLの経時変化(東日本大震災発生から半年後と一年後)の実態を明らかにすることを目的とした.
(方法)
宮城県女川町の小学4年生から中学3年生の全児童生徒420名を対象とした.対象者のうち被災により住居移転を余儀なくされた子どもは53.7%であった.調査は,2011年9月と2012年3月に行われた.調査項目は,1)身体活動量:腰部装着式子供版活動量計(OMRON, HJA-350IT:平日・祝日,放課後とそれ以外に分けて量と強度を測定)と質問紙法によりWHO/Health Behaviour in School-aged Children (HBSC)の身体活動項目(活動・不活動分類),1週間の総運動時間,1日の平均座位時間を調査.2)健康関連QOL:子供用健康関連QOL尺度(日本語版PedsQL:身体的機能,感情の機能,社会的機能,学校,計23項目)を用いて調査.3)免疫機能:唾液採取により免疫指標の代表である免疫グロブリンA(SIgA)及び唾液重量の測定.4)生理的ストレス:免疫機能と他の変数との関連を検討するためには,生理的なストレスを交絡要因として測定しておく必要がある.そのためストレス指標の代表であるコルチゾールを唾液採取によって測定,5)基本的属性:性,学年,身長,体重,住環境,であった.ただし,今回の分析に用いたデータは1週間の総運動時間と健康関連QoLであった.
(結果)
1週間の総運動時間は正規分布しないことが知られているため,60分未満とそれ以外の2カテゴリーに変換して分析を行った.その結果,60分未満の子どもは半年後(一年後)で小学男子12.2%(16.2%),小学女子45.4%(51.6%),中学男子16.7%(14.7%),中学女子42.6%(48.8%)であった.60分未満の子どもの割合は半年後と一年後でほとんど変化していないことが分かった. 60分未満者の割合は一年後の割合がやや高値を示しているが,有意差は認められず,調査時点が冬季であったことによる季節変動の範囲内と解釈できる.ただし,同年代の1週間の総運動時間と比較すると,半年後と一年後のいずれの時点でも60分未満者の割合は全国値よりも高い値を示した.震災発生半年後と一年後の環境の変化を考えると,学校施設の変化は殆どなく,教育活動も震災後早期に復旧したため,体育的活動については半年間での変化が殆どない.学外の環境についてもがれき撤去が進んだだけで生活場所も変わらず,身体活動に関わるような周辺環境に大きな変化はなかった.そのことが習慣的な身体活動量の変化のなかった要因と考えられる.個人内の変化に着目しても同様であり,ほとんどの者が半年後に60分未満だった者,60分以上だった者は一年後も同様であり,運動時間が増加した者と減少した者は2割程度にとどまった.
健康関連QoLについて,総合得点は半年後(一年後)で小学生81.9+/-13.4点(84.4+/-11.3点),中学生79.8+/-13.2点(78.9+/-14.8点)であり有意差は認められなかった.男女別に検討した場合も同様で,性(男・女)と時間(半年後・一年後)を要因とする分散分析を行った結果では,交互作用と時間要因は有意にならず,中学生における性要因のみに有意差が認められた.すなわち,男女とも変化の仕方は同様で,変化は認められず,中学生ではいずれの時点でも女子の値が有意に低いという結果が得られた.
(結論)
沿岸部被災地域の子どもの身体活動量と健康関連QoLにおける半年ごと一年後の変化は認められず,先行研究の標準値と比べ低い傾向にある.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1)鈴木宏哉,岡崎勘造,佐々木桂二,坂本譲:東日本大震災による宮城県沿岸部被災地域の中学生における身体活動量と健康関連QoL.発育発達研究 58:43-51.
2)鈴木宏哉,岡崎勘造,坂本譲,植木章三:沿岸部被災地域の子どもにおける身体活動量と健康関連QoLの経時変化:Onagawa Growth and Health Longitudinal Study.体力科学 61(6):706.
3)鈴木宏哉:被災地域の子どもにおける身体活動量と健康関連QoL.子どもと発育発達 11(1):印刷中.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催せず.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

尾崎 幸謙

統計数理研究所

前田 忠彦

統計数理研究所