平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2003

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

推論課題遂行時の異なる振動数帯域にまたがる脳波位相固定ダイナミクス

フリガナ

代表者氏名

ニシヤマ ノブアキ

西山 宣昭

ローマ字

Nishiyama Nobuaki

所属機関

金沢大学

所属部局

大学教育開発・支援センター、自然科学研究科

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

40千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

記憶、思考、推論、そして学習など高次脳機能の発現のためには、脳内に広く分散する神経活動が長距離にわたって時々刻々選択され、統合され、再編されなければならない。このような長距離にわたる動的リンキングを実現する機構の候補として、振動的神経活動間の振動数および位相の同期(synchronization)現象が実験知見に基づき提案されている。結合振動子系が持つ本来的な特質である同期ダイナミクスが、脳内で表現されている情報の統合、崩壊、再構成の遷移を実現しているとする仮説である。
 Varelaら[1]は、このような位相固定が脳における情報統合の実体であるとの仮定に基づき、脳波信号から位相と振幅とを分離し、位相固定を検出するとともに、このような脳の位相固定の特徴として過渡的な性質に注目した。一連の認知過程において、生成した位相同期ネットワークは、新たな別の同期ネットワークに向けて、一旦崩壊する。Varelaらは、いくつかの実験の知見に基づいて、この崩壊過程への能動的な位相脱同期(phase scattering)の関与を示唆した。
このような過渡的な位相固定が生成する機構として、ヒトでの視覚刺激提示時の頭皮EEGで観察されるシータ波とガンマ波との入れ子時間構造の出現、サルを用いた弁別を伴う視覚運動課題遂行時の位相固定が生じる振動数帯域のダイナミックな変動など、異なる振動数帯域にまたがる位相固定のダイナミクスの重要性を提案している。低振動数と高振動数の振動の入れ子時間構造が脳の情報統合の柔軟性の発現に寄与しているとする仮説である。
以上のような先行研究に基づき、本研究では、暗算課題を用いて、単一電極から導出される脳波を計測し、異なる振動数帯域にまたがる位相同期の有無を明らかにすることを目的とした。暗算課題遂行時に発生するシータリズム[2]によって大域的な領野間のリンキングが起こっていることが示されている[3]が、異なる振動数帯域間での位相固定の有無については明らかにされていない。
 実験では、課題および測定について説明を行い、同意を得た被験者のみを対象とした。1チャネルの携帯型脳波計(Sleepwell社製)を用い、10分間の安静閉眼状態、それに続く10分間の閉眼での暗算中の脳波信号をSDカードに記録した。電極は、額の正中線上に装着した。サンプリング速度は128Hzである。暗算課題として、1000から7を引き、その解からさらに7を引き、この操作を繰り返すよう脳波計測前に口頭で説明を行った。
暗算課題遂行中の被験者5名から得られた脳波では、デルタ波(2Hz)とアルファ波(10Hz)の成分が間欠的に現れていた。ウェーブレット変換によって、振動数ごとに脳波信号から瞬時振幅および瞬時位相を分離し、2Hzの成分の瞬時位相を5倍した値から10Hzの成分の瞬時位相の差をとり、その位相差が一定となる1:5位相固定状態の検出を行った。このようにして間欠的に発生しているデルタ波とアルファ波との位相固定状態が1秒以上持続する時間帯について、位相差の分布の異方性の有無をRayleigh testによって調べた結果、安静閉眼状態で検出された位相固定状態の位相差の分布は等方的であるのに対して、暗算遂行時に検出される位相固定状態では、位相差の分布が有意な異方性を有していることが明らかとなった。
本研究により、暗算課題遂行時にデルタ波とアルファ波との間で位相固定が間欠的に生じていること、またその位相固定における位相差の分布は有意な異方性を有していることが明らかとなった。今後は、任意の2つの電極から導出される脳波の位相固定を検出することにより、脳の領野間の動的リンキングにおける異なる振動数帯域にまたがる位相固定の機能的役割を考察するための知見を得る予定である。

参考文献
[1]F.Valera, J.Lachaux, E.Rodriguez and J.Martinerie Naure Reviews 2(2001)229.
[2]F.Miwakeichi,E.MartinezMontes, P.A.Valdes-Sosa, N.Nishiyama, H.Mizuhara
and Y.Yamaguchi, NeuroImage 22(2004)1035.
[3]H.Mizuhara, L.Wang, K.Kobayashi, Y.Yamaguchi, NeuroReport 15(2004)1233.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

日本教育工学会第28回全国大会 口頭発表
「暗算遂行中における異なる振動数帯域にまたがる脳波位相固定」
西山宣昭和、三分一史和、山田政寛
2012年9月15日(会場:長崎大学)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

三分一 史和

統計数理研究所