平成262014)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

26−共研−2078

分野分類

統計数理研究所内分野分類

i

主要研究分野分類

8

研究課題名

外来種防除のための土地利用最適化モデルの構築

フリガナ

代表者氏名

ヨシモト アツシ

吉本 敦

ローマ字

Yoshimoto Atsushi

所属機関

統計数理研究所

所属部局

数理・推論研究系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

191千円

研究参加者数

6 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 侵略的外来種は,在来生物と競合し,様々な経済的・生態的損失を引き起こしている.例えば,Courchamp (2006)によると,米国では外来植物による損失は年間1370億ドル以上と見積もられており,生態学的被害については,島嶼地域を中心に様々な固有種の絶滅をもたらしてきた.
 このようなことから,これまで,欧米を中心に,外来生物の被害を軽減するための管理について様々な研究が行われており(Archer et al., 1996; Finnoff et al., 2005; Mehta et al., 2007),管理行為と外来生物リスクの相互作用を捉えた動的最適化モデルの構築と分析による費用効率的な管理に関する政策提言が行われている.しかし,外来生物の空間的な拡散メカニズムを明示的に考慮した最適土地利用時空間配置に関する研究は少なく,Epanchin-Niell and Wilen(2012) が期間ごとに近隣セルに拡散する仮想の外来種の拡散に対して,管理の最適空間配置について分析したものがあるが,彼らが検討した外来種拡散メカニズムは非常に単純なものであり,外来生物の拡散能力を十分に捉えられているとは言えない.
 一方,生態学や生物学の分野では,外来生物の拡散に関して古くからモデルによる研究が展開されてきており,外来生物の分布拡大を予測する手法はほぼ確立されている(小池, 2007).例えば,外来種の拡散スピードは植生状態により異なることが知られており(Williamson and Harrison 2002),異質な植生状態の空間分布は外来種の拡散パターンに影響する(Hastings et al. 2005).つまり,適切に管理された植生の空間構造により理論的には外来種の拡散をコントロールすることが可能になる.外来種の拡散は定着に適したハビタットの「量」が,ある「閾値」を越えたときに最も急速に広範囲に起こることから, With (2002)は生息地(ハビタット)の「量」について「閾値」を適切に制御することの重要性を指摘する.このような外来種の拡散がどの「閾値」で起こるかは,ハビタットがどれだけ連続して広がるかという空間パターンと,外来種の分散様式に依存する.つまり,ハビタットの連続性を分断しその広がりを減らすことが,外来種の分布拡大を抑制する有効な対策になりうるといえる.しかしながら,それらの知見を費用効率的な管理の探索に活かすような研究や,管理の費用効率性を評価できるようなフレームワークは確立されていない.
 そこで,本研究では生態学・生物学の分野で開発されてきたセルオートマトン法による外来生物の空間的拡散モデルと時空間的土地利用最適化モデルを結合させ,効率的な土地利用時空間配置の意思決定をサポートしうるシステムを構築することを目的とした.このようなシステム開発は,費用効率的な外来生物管理の実現に必要な定量的な情報提供に繋がると考えられる.
 これまでの研究では,外来生物の基本的な分布拡散メカニズムをセルオートマトンモデルにより再現し,動的な時空間的シミュレーションモデルを用いて,様々な管理戦略が時空間的な外来種拡散程度と管理費用にどのような影響を及ぼすかを調べてきた.管理戦略は侵略フロントに隣接する地域に一定のバッファを設置し,外来生物の侵略速度を遅くするという戦略で,バッファの幅を変化させ,管理程度が管理費用と外来種の拡散に及ぼす影響を定量的に調べてきた.シミュレーション結果からは,効果的かつ効率的に外来生物拡散をコントロールするためには,管理の規模・強度に関して的確な判断が必要になることが示された.例えば,規模・強度が十分でない場合は,管理費用が掛かるだけで,拡散抑制・防止の効果については,管理費用の伴わない場合,つまり,何も管理を施さずに放置する場合と比べて,ほとんど変わらない可能性が示唆された.
 上記のようなシミュレーションによる分析結果は,想定する事例設定が恣意的なものとなりがちで,"得られる",あるいは"想定される"範囲内での比較は可能であるものの,最適化のフレームワークで得られる実行可能解内での比較分析ではないため,必ずしも示唆される比較分析結果が望ましいとは限らない.
 本研究では,外来生物の空間的拡散モデルをセルオートマトン法により構築し,0-1整数計画法の最適化の枠組みでのモデル構築を行った.拡散モデルは外来種により被害を受けている場所と被害を受けていない場所の距離と他の固有係数の指数関数として表され,その被害確率を推定するものである.従って対数変換により拡散モデルの線形化を行った.最適化の制御変数としては,被害軽減のための施業を想定し,被害を受けた場所に対する施業の影響と被害を受けていない場所に対する施業の影響は別々に捉え,前者に対しては外来種の飛散距離の減少,また後者に対しては飛散してくる外来種数の減少を考慮した.その結果,施業を施すことにより,被害確率が変化する.最適化の目的は被害費用と施業費用の最小化とした.
 まず,31x31の架空の格子を設定し,外来種の拡散の動向を最適モデルとシミュレーションの結果を比較し,両者が一致することを確認した.すなわち最適化モデルにおいてここで用いた拡散モデルを捉えることができることが分かった.続に,施業により拡散距離の半減,拡散してくる量の半減を仮定し,最適解を探求した結果,被害を受けている格子では被害のフロントライン上にて常に施業が施される結果となった.また,被害を受けていない格子については,被害フロントラインからある程度の距離を保ちながら施業が施された.すなわち,フロントラインに隣接する部分においては,施業の効果が期待できないため,経費削減の観点から施業が施されてないことが分かった.次に施業の効果を操作することにより,拡散の阻止が可能か否か分析を行った.その結果,被害を受けた格子での効果を強化することにより,拡散を阻止することが可能であることが分かった.仮にそのような効果を発揮できる施業技術を開発できれば,被害の拡散を効果的・効率的に防ぐことができるものと期待できる.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

外来種拡散アプリ
http://peter.surovy.net/Ashi.aspx

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加茂 憲一

札幌医科大学

木島 真志

琉球大学

田中 勝也

滋賀大学

内藤 登世一

京都学園大学

光田 靖

宮崎大学