平成292017)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

29−共研−5

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

7

研究課題名

高次元時系列の関連を検出するための統計的モデリング

フリガナ

代表者氏名

キタガワ ゲンシロウ

北川 源四郎

ローマ字

Kitagawa Genshiro

所属機関

東京大学

所属部局

数理・情報教育研究センター

職  名

特任教授

 

 

研究目的と成果の概要

多変数時系列の因果関係の検出法としては、赤池によって提案された多変量ARモデルを利用するパワー寄与率が知られており、申請者らはこのモデルの外乱直交性の仮定を緩和し、一般の分散共分散行列の場合でも適用できる方法を提案してきた。ただし、従来の多変量ARモデルを利用する方法では、パラメータ推定の観点からも、また因果関係の可視化の観点からも、10変数程度のシステムへの適用が限界であり、近年重要になっているビッグデータ解析のためには、より高次元の時系列に適用可能な実用的な方法の開発が必要である。本研究では、L1正則化や変数選択法等により超高次元時系列モデルの推定法や、超多変量間の因果関係の検出と可視化の方法を研究し、高次元時系列の関連を検出するための実用的な方法の開発を目的としたものである。
 平成29年度開始後、多変量の季節調整法の開発のための研究会を立ち上げたので、当面の対象を多変量季節調整データとして多変量季節調整法の開発とその結果得られる多変量定常成分に関する因果関係の検出・推定法の開発研究を同時並行的に推進することにした。
 本来の計画にはなかった季節調整法に関しては、まず1変量の場合について、従来のDECOMP等の方法とは異なって、観測ノイズが定常ARとなる場合を想定し、観測ノイズが白色雑音でない場合にも適用できるようにカルマンフィルタのアルゴリズムの改良を行った。更にそれを多変量時系列の場合に拡張して、様々な多変量季節調整モデルの共通開発基盤となる基本的な計算ソフトのプロトタイプを作成した。
 このように第一段階の多変量季節調整法がまだ開発途上であるが、本来の目的である多変量定常過程の因果性の検出に関しても二つの方向で研究を行った。一つはトレンドや季節成分とともに多変量ARモデルを同時推定して、拡張パワー寄与率分析を適用するものである。この方法は、大量のパラメータの同時推定が必要になるために計算上の困難が生じるが、開発した基盤ソフトを活用して、L1正則化法や変数選択法による多変量ARモデルの推定法を適用し、実用的な推定が可能な段階まで進めることができた。もう一つの方法は、パワー寄与率の定義自体の変更で、従来の方法と異なって、時系列の変動のパワースペクトルを有限個の正値成分だけに分解するのではなく、負の成分を含む形に分解するものである。この方法に関しては、その理論的な正当性については詰め切れていないが、数値的には興味ある結果が得られている。