平成302018)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

30−共研−4204

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

7

研究課題名

複数大学のデータを基にした論文生産性指標の検証

重点テーマ

IRのための学術文献データ分析と統計的モデル研究の深化

フリガナ

代表者氏名

ヤマモト コウ

山本 鉱

ローマ字

Yamamoto Koh

所属機関

九州工業大学

所属部局

インスティテューショナル・リサーチ室

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

125千円

研究参加者数

5 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

現在,主要な学術文献データベースとして,ScopusやWeb of Scienceが存在する.これらは研究力を分析するうえで広く活用されており,単なる文献検索や集計値の提供にとどまらず,様々な指標が提供されている.学術論文は,研究分野によって被引用数が大きく異なることから,分野を超えた注目度を公平に把握することを目的とした,正規化された指標(FWCIやCNCI)が提供されている.しかし,論文数については,分野によって発表頻度や共著者数といった特性が異なるものの,これらを考慮した指標は存在していない.そこで,分野による特性の違いを考慮した論文数の正規化手法(論文生産性指標)を考案した.本指標の特徴は,効率の概念を導入した点にある.一人の研究者が任意の期間において論文を発表するために要した労力を1マンパワーと定義し,効率を計算する.研究者が複数分野に論文を発表している場合,その1マンパワーを論文数に応じて各分野へ比例配分する.研究分野毎の論文数の合計をマンパワーの合計で割り込むことによって,分野毎の平均論文生産性(Pj)が数値化できる.各研究者の論文生産性指標は,その研究者の論文数を分野に応じたPjで正規化し,全分野で合計することによって得られる.
本研究は論文生産性指標の高精度化を目的としている.現在,本指標のアルゴリズムには2つの問題が存在している.1つめは,研究者のマンパワーを複数分野へ分配する際の問題である.上述のような論文数に応じた比例配分には,分野毎のPjが等しいとの仮定が存在している.しかし計算後のPjは分野毎で異なっており,ここに矛盾が生じている.そこで,一つ前の計算で求まったPjを用いてマンパワーを再配分するといった,反復計算によって収束値を得る方法を確立した.2つめは,論文数がゼロの研究者のマンパワーを考慮していない問題である.論文数がゼロの研究者は研究分野が未知のため考慮されていないが,研究分野によってはその割合が大きく,誤差が無視できない可能性がある(例えば人文社会学分野).論文数がゼロの研究者は,学術文献データベース収録雑誌への論文投稿が可能であるにも関わらず投稿に至らなかった者と,そもそも研究成果が書籍や作品といった学術文献データベースに収録されない分野に所属する者に大別することができる.本研究では前者のマンパワー(ポテンシャルマンパワー)を推定することを目指し,適切な確率モデルの検討を行った.
これまでの研究で,論文生産性指標の精度を担保するためには各研究分野において300以上の標本が必要であることが分かっているが,九州工業大学のデータだけでは全ての分野でその標本数を満たせなかった.そこで,他大学に研究の意義や指標の有用性を説明し,データを増やすことを目指した.その結果,6つの国立大学から協力を得ることができ,27のうち21の研究分野において必要な標本数を満たすことができた.マンパワー配分のための反復計算では,そのうち19分野のPjが収束した.収束しなかった分野については初期値に問題がある可能性があり,今後は初期値の変更を検討していきたい.またここで得られたデータセットを活用した結果,分野毎のポテンシャルマンパワーを推定する際には,確率モデルとしてZero-truncated Poisson-Lognormalが適していることが明らかとなった.
今年度の研究成果により,論文生産性指標の精度を向上させるための方向性を見出すことができた.今後さらに標本数を増やしつつ,論文生産性指標の高精度化に資する研究を継続させていきたい.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

今年度の研究成果は,何れの形態においても発表していない.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

山形大学の白石先生と共に,以下の研究会を開催し,複数のIR担当者と意見交換を行った.

テーマ:「IR実務担当者による合同研究会 〜教学IRと研究IRの必要性〜」
日時:2018/12/21 13:30〜17:00
場所:統計数理研究所 5階(A504)セミナー室7
参加者数:5人

テーマ:「IR実務担当者による合同研究会 〜ベンチマークと研究IRの実践状況〜」
日時:2019/1/16 13:30〜17:00
場所:山形大学東京サテライトキャンパス609号室(東京都港区芝浦3-3-6)
参加者数:5人

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

田中 秀典

宮崎大学

藤野 友和

福岡女子大学

本多 啓介

統計数理研究所