平成272015)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

27−共研−2079

分野分類

統計数理研究所内分野分類

i

主要研究分野分類

8

研究課題名

外来種防除のための土地利用最適化モデルの構築

フリガナ

代表者氏名

ヨシモト アツシ

吉本 敦

ローマ字

Yoshimoto Atsushi

所属機関

統計数理研究所

所属部局

数理・推論研究系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

301千円

研究参加者数

7 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 侵略的外来種は,在来生物と競合し,様々な経済的・生態的損失を引き起こしている.例えば,米国では外来植物による損失は年間1370億ドル以上と見積もられており,生態学的被害については,島嶼地域を中心に様々な固有種の絶滅をもたらしてきた.このようなことから,これまで,欧米を中心に,外来生物の被害を軽減するための管理について様々な研究が行われており,管理行為と外来生物リスクの相互作用を捉えた動的最適化モデルの構築と分析による費用効率的な管理に関する政策提言が行われている.しかし,外来生物の空間的な拡散メカニズムを明示的に考慮した最適土地利用時空間配置に関する研究は少なく,期間ごとに近隣セルに拡散する仮想の外来種の拡散に対して,管理の最適空間配置について分析したものがあるが,彼らが検討した外来種拡散メカニズムは非常に単純なものであり,外来生物の拡散能力を十分に捉えられているとは言えない.
 一方,生態学や生物学の分野では,外来生物の拡散に関して古くからモデルによる研究が展開されてきており,外来生物の分布拡大を予測する手法はほぼ確立されている.例えば,外来種の拡散スピードは植生状態により異なることが知られており,異質な植生状態の空間分布は外来種の拡散パターンに影響する.つまり,適切に管理された植生の空間構造により理論的には外来種の拡散をコントロールすることが可能になる.外来種の拡散は定着に適したハビタットの「量」が,ある「閾値」を越えたときに最も急速に広範囲に起こることから,生息地(ハビタット)の「量」について「閾値」を適切に制御することの重要性が指摘されている.このような外来種の拡散がどの「閾値」で起こるかは,ハビタットがどれだけ連続して広がるかという空間パターンと,外来種の分散様式に依存する.つまり,ハビタットの連続性を分断しその広がりを減らすことが,外来種の分布拡大を抑制する有効な対策になりうるといえる.しかしながら,それらの知見を費用効率的な管理の探索に活かすような研究や,管理の費用効率性を評価できる最適化のフレームワークはまだまだ不十分である.
 本研究は平成26年度から開始したもので,26年度では,セルオートマトン法による外来生物の空間的拡散モデルと時空間的土地利用最適化モデルを結合させ,効率的な土地利用時空間配置の意思決定をサポートしうるプロトタイプシステムを構築した.27年度では,その実装に向けたWebアプリの開発に取り組むと同時に,拡散モデルに使用されるパラメータの最適解への影響,および被害防止対策に向けた仮想状態での分析を試みた.
 本研究では,まず外来種の分布拡散モデルについて,均一な格子からなるランドスケープを想定し,飛来する個体数が距離の増加に伴い減少する指数関数を用いた.また格子が外来種の被害を受ける確率をその格子に到達する外来種の個体数のシグモイド型べき乗関数で表した.このモデルはMarco et al. (2002)が導入したセルオートマトンモデルである.外来種の被害については,被害を受けている格子からの距離により,飛来・移動してくる外来種の累積数が決まり,その数によって被害を受けるか否かの確率が決定さえる.シミュレーションモデルによると,乱数などの発生により格子の被害を確率的に特定しているが,ここで構築したモデルでは確率の閾値を使用し,格子の被害確率が閾値以上であれば被害,以下であれば無被害とした.従って部分的な被害を考慮せず,被害状況を{0,1}の変数で対応できるようにした.外来種に依存するパラメータとしては被害を受けている格子から飛来する平均個体数,平均飛来距離,それとべき乗関数の底である.
 上記の設定に従うセルオートマトンモデルにより外来種の分布拡散を描写し,外来種制御最適化モデルを構築した.この種の最適化では拡散モデルが非線形であるため,基本的に0-1非線形計画法により定式化されるが,非線形性が対数変換により線形化できること,また解法のための汎用性を考慮し,ここでは0-1整数計画法の枠組みでモデル構築を行った.対数変換によりべき乗関数を線形化し,被害を受けるか否かを表すものとして0-1変数を導入する.飛来の数はこの0-1変数により描写することができ,外来種拡散制御の最適化問題を0-1整数計画法で定式化することが可能になった.最適化の制御変数としては,被害軽減のための施業を想定し,被害を受けた場所に対する施業の影響と被害を受けていない場所に対する施業の影響は別々に捉え,前者に対しては外来種の飛散距離の減少,また後者に対しては飛散してくる外来種数の減少を考慮した.その結果,施業を施すことにより,被害確率が変化する.最適化の目的は被害費用と施業費用の和の最小化とした.
 はじめに,外来種依存パラメータの最適解に対する影響について分析した.まず平均飛来距離の増加に伴い外来種の到達距離も伸びるため,被害領域が拡大した.また,飛来する平均個体数の増加に伴い,格子に到達する個体数が増加し,その結果として格子が被害に遭遇する確率が増加する結果となることが分かった.また,べき乗関数の底の影響はほぼ平均個体数のものと同様であった.次に,ここで想定した外来種制御問題は時空間的な要素を考慮しており,時間軸に対しては多期間の最適化の問題を解く必要がある.しかしながら,多期間問題を解く場合"次元の呪い"の影響を受け,解法に時間がかかってしまう.そこで,直接多期間問題を解くアプローチと1期間の問題の繰返し解法の比較をした.その結果,最適解はともに一致することが分かり,繰返し解法で十分であることが分かった.被害費用の影響について分析した結果,被害費用の増加に伴い,被害の拡散を抑えるための非被害格子への施行が増加することが分かった.また,管理費用の制約がある場合,まずは被害格子からの被害拡大を抑えるように被害格子への施行が優先されることが分かった.今回は一様な格子で構築されるランドスケープを対象としたが,今後は非均一性を有したランドスケープなどへの対応を考慮して行く予定である.また,Webアプリの開発については,最適化との連結を進めているが,プロトタイプモデルのレベルに留まっているため,さらなる改良が必要である.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Yoshimoto, A. "Effect of heterogeneous spread of disastrous events on an optimal landscape management", FORMATH SHIGA 2016 International Symposiu, March 16-17, 2016.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

Asante, Patrick

University of Alberta

加茂 憲一

札幌医科大学

木島 真志

琉球大学

Surovy, Peter

Czech University of Life Science Prague

内藤 登世一

京都学園大学

Nuno de Almeida Ribeiro

University of Evora