平成232011)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

23−共研−4403

分野分類

統計数理研究所内分野分類

j

主要研究分野分類

2

研究課題名

サービス科学を用いた地域情報基盤の検討

重点テーマ

サービス科学の深化を支える統計数理科学

フリガナ

代表者氏名

ハヤシ タカフミ

林 隆史

ローマ字

HAYASHI TAKAFUMI

所属機関

会津大学

所属部局

コンピュータ理工学部

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

40千円

研究参加者数

4 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究の目的
地域情報基盤は電子自治体や知識社会構築にとって重要な意味を持っている。このような情報基盤が実現するシステムが、人間への広い意味での「サービス」にまで広く関わることを考えると、これらの研究・開発においては、サービス科学によるアプローチが必要不可欠である。しかしながら、現時点では、情報基盤について、サービス科学による研究はまだ少ない。本研究では、情報基盤の設計、構築、運用、利用やそのセキュリティマネジメントについて、サービス科学を用いて検討することを目的としている。情報基盤やシステムへの関わり方の統計やサービス科学の新しい手法の検討も含めて研究を行う。
我々は、種々の情報やサービスを疎結合連携させるための情報基盤の研究を、技術、と制度の両面から検討を行ってきた。本研究では、サービス科学で扱う種々の情報の連携システムを、本研究の実験システムとして試作する予定である。
本研究によって、サービス科学を用いた情報基盤や情報システム、ネットワークの研究と、サービス科学の発展に役立つ情報基盤やシステムの研究に寄与することを目指している。

本研究の平成23年度の成果
当初の予定では、平成23年度前半に、情報基盤の検討に役に立つ統計データやサービス科学手法についての調査検討や情報システムの試作を行い、後半から実地調査などを行う予定であった。しかしながら、平成23年3月11日の震災によって、4月いっぱい、大学が事実上休校(学生は自宅待機)だったこと、研究室のサーバの一部に障害が発生したこと、震災対応や原発事故対応(放射線計測器の貸与の依頼等)などの作業が発生したことなどによって、研究が実際に開始できたのは、7月であった。また、震災だけではなく、原発事故の影響もあり、地域での実証的検討を実施することができなかった。そのため、全般として、当初の予定を達成することができなかった。
一方、震災や原発事故は、情報基盤のあり方、インターネットにおける統計情報の提供のあり方や、サービスの継続性に関して、従来あまり認識されていなかったような問題があることがわかった。そこで、平成23年度は、震災や原発事故で明らかになった問題点や、復興、被災者対応などで情報基盤、データの統計処理、サービスサイエンスの観点から必要と思われる内容についての検討を進めた。
本研究課題の主な成果を以下に示す。

1)持続的サービスの実現: 災害時や被災者が避難しているときでも、適切なサービスや情報を提供することは、従来考えているよりも困難であることが、今回の震災で示された。そこで、災害時でも機能を維持し、災害時に要求される柔軟性を発揮する情報基盤をNetwork-centric/Cloud-centricな手法で実現する方式を提案した[4]。様々な状況下で高可用性、高完全性、継続性に優れたサービスを構築するために、ネットワークにつながったコンピュータ(エッジ)だけではなく、ネットワークそのものに機能を持たせることで、利用者やシステムがどのような状況にあるかに応じた柔軟な対応を実現しようとするものである。また、低消費電力化も含めた実証実験も行った。ここで検討した情報基盤は、災害時でも機能する地域情報基盤として、平常時も含めて、自治体の協同アウトソーシング、知識社会形成、オープン・イノベーション推進などに寄与することを目的としている。本内容について、社会情報学会での発表を行った[4]。平成24年度以降は、状況把握への数理統計の応用、状況に応じたサービス提供に関するサービスサイエンスの観点からの検討などを行っていく予定である。

2)サービスの広域連携と消費電力の全体最適化: 災害などによって電力供給が限定されていても、必要機能の継続や情報の的確伝達機能の継続が情報基盤には求められる。被災地でのサービス継続について自治体等のサービスの広域連携の重要性が明らかになった。災害がおきると送電網の故障、発電所の被災などで電力供給が不足する。平常時においても、環境悪化の抑止や資源保護の点から省電力が求められる。省電力は部分最適化では意味がなく全体最適を考えないと本当の省電力に結びつかない。消費電力の全体最適的には、稼働率の低い不要なサーバの動的移動・停止制御ではなく、マルチテナンシーやデータセンターやそこのサーバの必要電力や処理能力に応じて、処理を配分してサーバの稼働率を向上させることにより、コンピューティング処理あたりの電力量を低下させることが効果的である。省電力の全体最適化を図りながら、サービスの広域連携するためにはサービスの疎結合が必要である。そこで、疎結合・広域連携と電力最適化について、我々が従来すすめてきた、構造化オーバーレイ・ネットワークに関する研究を応用したわくぐみを提案した[2]。広域連携や電力最適化については、ポリシーの異なるネットワークの連携も考慮に入れる必要があるが、それについても、同様の手法による提案を行った。関連して、認証・認可・課金サービスの疎結合やマイナンバーの連携基盤への提言、震災後の健康調査データベースにおける疫学的利用、健康管理と個人情報マネジメントについても提言を行った[2]。

3)100年データストアの実現に関する研究: データのセキュアな格納場所として、データストアは、種々のシステムで重要な意味をしめている。今回の震災と原発事故は、従来にも増して、長期にわたって利用可能なデータストアの必要性を示すこととなった。震災や原発事故に関連した健康調査のデータは、今後60年以上にわたり、保持、整備・運用することが必要であるからである。震災時のPTSD、アスベスト等の有害物質、放射線などについての影響については長期の追跡調査が必要である。これまでも、ライフコースデータや種々のの応疫学調査のデータ歴史的資料のデジタルアーカイブなど、長期にわたりデータを残さねばならないものは存在していたが、それらのシステムにおいて、社会制度、基本となるコンピュータ・ネットワーク技術の変化に対応できるようにするための取り組みは十分ではなかった。制度や技術の変化に対応したデータストアと関連システムを維持するためには、変化に対して柔軟に対応が可能な総合的な対応策が必要となる。そこで、我々が今まですすめてきた、構造化オーバーレイ・ネットワークに関する研究の知見を活用したデータストアの構築・運用方法を提案した[5]。提案手法では、2つの独立したシステムについて、一方のシステムが変化しても継続してサービス提供ができるように、2つのシステムは疎結合する。各種のデータには入力ミスなどが避けられないと考えるべきだが、元データについては、各種測定の生データ同様、書き換えは好ましくない。そこで、本研究では、修正前と修正後のデータを残す方法についても検討を行った。平成24年度以降は、平成23年度の成果をもとにして、各種データへの適切な数理統計処理を提供するための情報基盤や統計処理結果の提示を支援する情報基盤の研究を100年データストアの実現のために行う予定である。

4)大規模データのための情報基盤: 大量のセンサーデータを適切に処理するための情報基盤や、センサーを一種のサービスプロバイダとしてとらえて、関連するサービスとともに、ダイナミックに組み合わせを変えることのできるサービス連携などの検討を行った[3,6]。また、重要なサービスを提供する情報基盤では、事故やシステムへの攻撃に対して、適切な記録を残すことが必要である。そこで、サービスを主体としたシステム、ネットワークを対象に、適切なログを残す枠組みや仕組みを提案した[1]。これらのシステムについて、平成24年度以降は、データ処理への適切な数理統計処理の組み込みや、センサーデータなどと、関連サービス、関連情報をどのように疎結合連携させるべきかをサービスサイエンスの立場から検討を行う予定である。

[1] Takafumi Hayashi, Takafumi Hayashi, Atushi Kara, Toshiaki Miyazaki, Hideyuki Fukuhara, Tetsu Saburi, Masayuki Hisada, and Jiro Iwase, "Coping with the Complexity of SOA Systems with Message Forensics," IEEE AINA 2012, pp.34-39, 2012, SMPE-14, Fukuoka, Japan
[2] 福原 英之, 佐分利 徹, 藤田 龍太郎, 宮崎 敏明, 渡辺曜大, 岩瀬 次郎, 加羅淳, 林 隆史, "ネットワークセントリック手法による広域連携と電力利用最適化," 国際CIO学会2011年秋研究大会
[3] T. Hayashi, H. Fukuhara, K. Suzuki, T. Yamada, Y. Watanabe, J. Terazono, T. Suzuki, T. Miyazaki, S. Saito, I. Koseda, R. Fujita, J. Iwase, "A Network-Centric Approach to Sensor-data and Service Integration," SICE 2011
[4] 寺薗淳也, 福原 英之, 鈴木太郎, 渡辺曜大, 宮崎敏明, 岩瀬次郎, 久田雅之, 林隆史, "疎結合によるサステナブル情報基盤の実現", 2011年、JASI-JSIS 研究発表大会
[5] 福原英之.、佐分利徹、藤田龍太郎、宮崎敏明、渡辺曜大、岩瀬次郎、久田雅之、加羅淳 ,林隆史、"サステナブルな100年データストアの構築・運用", 国際CIO学会2012年春研究大会
[6] 和良品友大, 林隆史, "大規模な異種データ解析のためのスケーラブルな情報基盤", 第74回情報処理学会全国大会 (5W-4)

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[1] Takafumi Hayashi, Takafumi Hayashi, Atushi Kara, Toshiaki Miyazaki, Hideyuki Fukuhara, Tetsu Saburi, Masayuki Hisada, and Jiro Iwase, "Coping with the Complexity of SOA Systems with Message Forensics," IEEE AINA 2012, pp.34-39, 2012, SMPE-14, Fukuoka, Japan
http://133.220.110.102/conf/aina/2012/paper_list.php#SMPE

[2] 福原 英之, 佐分利 徹, 藤田 龍太郎, 宮崎 敏明, 渡辺曜大, 岩瀬 次郎, 加羅淳, 林 隆史, "ネットワークセントリック手法による広域連携と電力利用最適化", 国際CIO学会2011年秋研究大会
http://cio-academy.jp/pdf/notes/20111017_6_hayashi.pdf

[3] T. Hayashi, H. Fukuhara, K. Suzuki, T. Yamada, Y. Watanabe, J. Terazono, T. Suzuki, T. Miyazaki, S. Saito, I. Koseda, R. Fujita, J. Iwase, "A Network-Centric Approach to Sensor-data and Service Integration," SICE 2011
http://ieeexplore.ieee.org/xpl/articleDetails.jsp?tp=&arnumber=6060305

[4] 寺薗淳也, 福原 英之, 鈴木太郎, 渡辺曜大, 宮崎敏明, 岩瀬次郎, 久田雅之, 林隆史, "疎結合によるサステナブル情報基盤の実現", 2011年、JASI-JSIS 研究発表大会
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jasi/26/0/213/_pdf/-char/ja/

[5] 福原英之.、佐分利徹、藤田龍太郎、宮崎敏明、渡辺曜大、岩瀬次郎、久田雅之、加羅淳 ,林隆史、"サステナブルな100年データストアの構築・運用", 国際CIO学会2012年春研究大会
http://cio-academy.jp/pdf/notes/2012spring_5_hukuhara.pdf

[6] 和良品友大, 林隆史, "大規模な異種データ解析のためのスケーラブルな情報基盤", 第74回情報処理学会全国大会 (5W-4)
http://www.gakkai-web.net/gakkai/ipsj/74program/data/pdf/5W-4.html

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

本年度、研究会は開催いたしませんでした。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

大野ゆう子

大阪大学

甘泉 瑞応

会津大学