平成282016)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

28−共研−4101

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

2

研究課題名

時系列グラフマイニングによるファイナンスデータの解析

重点テーマ

ビッグデータの統計数理II

フリガナ

代表者氏名

ハムロ ユキノブ

羽室 行信

ローマ字

Hamuro Yukinobu

所属機関

関西学院大学

所属部局

経営戦略研究科

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

202千円

研究参加者数

9 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究の目的は、株式市場における大規模な騰落(相転移)が起こる前の臨界状態をモデル化することである。株式市場には多くの銘柄が上場しているが、その一部の銘柄の単純平均や時価総額加重平均の値が株価指数である。株価指数の上昇や下落の背景には何千 (米国では何万) という数の銘柄変動が存在しているが、一般的な投資家が目にする指標は株価指数への寄与度一覧や騰落レシオ程度である。現状では圧倒的多数である隠れた銘柄群の動向について網羅的に知る術はない。しかし、そこには重要な情報が含まれている可能性がある。例えば、ある一時点で引値と安値の差が大きい時、一定価格以下では買いの需要が強いことを意味する。ただ、株価指数でこのような価格パターンが出たとしても、主要銘柄や大型株の銘柄動向を示しているだけかもしれない。同時点において、圧倒的多数を占める非主要銘柄群でも同様の傾向を示している のであれば、投資家全体の感情を表していると考えられ、株式市場は真に底堅いと判断できよう。
そこで本研究では、株式市場を網羅的且つ多面的に捉えるために、個別銘柄株の株価推移データについて、10 個の変数と5個の局面ベクトルから構成される50の類似度グラフを、日・米・英の上場銘柄から生成した。類似度グラフの生成には、銘柄ペアの変動傾向の相関係数がある閾値以上のものに枝を張ることで実施した。対象期間、対象銘柄、変数数を勘案すると、実に数十兆の相関係数を計算したことになる。そして、類似度グラフの枝密度の時系列変化から株価指数先物の短期の予測可能性を検証した。具体的には、枝密度のピーク点をシグナルとして定義し、10変数x5局面について、シングルシグナル50種とダブルシグナル2450種の計2500シグナルを導出した。それらのシグナルの中には、株式市場の大崩落(高騰)の予兆を示すものもあるとの期待から、シグナル発生後のインデックス収益率によって検証した。収益率は、シグナルによって異なるであろうタイムラグを考慮して、1-5日後の結果について検証した。
各シグナルの平均収益率リターンがゼロであるという帰無仮説をどの程度強く棄却する かという基準 (p 値) でモデル選択したところ、longモデルで336個、ショートモデルで98個の有意なシグナルを抽出できた。そして、それらを組み合わせて運用シミュレーションを行った結果、金融危機時にもダイナミックに対応できるモデルが生成可能なことが明らかになった。この結果は、価格形成に投資家の期待の偏りが反映されており、その偏りが近未来の株価水準の方向性を示すという仮説と整合的である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[1] 岡田克彦,羽室行信,ステファニー・チュング,株式に旬はあるか?,証券アナリストジャーナル,vol.55,no.3,pp.69-80,2017.
[2] 羽室行信,個別株の短期トレンド類似度グラフに基づいたシグナル解析,統計数理研共同研究重点テーマ集会,統数研,2017/2/27.
[3] 羽室行信,岡田克彦「ハーディング現象のモデル化への挑戦」行動経済学会第10回記念大会,一橋大学国立キャンパス,2016/12/4.
[4] 林大祐,羽室行信,岡田克彦,湊真一,株価データベースに対する週次パタンマイニングとその評価,第15回情報科学技術フォーラム,富山大学五福キャンパス,2016年9月9日.
[5] 羽室行信,岡田克彦,Cheung Stephane,銘柄類似度グラフの時系列構造変化に基づく株価予測,2016年度人工知能学会(第30回),北九州国際会議場,2016年6月8日.
[6] 岡田克彦,羽室行信,Cheung Stephane,"Detecting Market Seasonality, A Period Mining Approach",2016年度人工知能学会(第30回),北九州国際会議場,2016年6月8日.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

共同研究内容の紹介と今後の展開・2016/5/13・統計数理研究所・7人.
共同研究内容の成果発表 ・2017/2/27・統計数理研究所・7人.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岡田 克彦

関西学院大学

Cheung Stephane Ling Wai

関西学院大学

中野 純司

統計数理研究所

中原 孝信

専修大学

中元 政一

関西学院大学

藤澤 克樹

九州大学

本多 啓介

統計数理研究所