平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2013

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

7

研究課題名

金融商品高頻度データによる日内季節変動の分析

フリガナ

代表者氏名

ヨシダ ヤスシ

吉田 靖

ローマ字

Yoshida Yasushi

所属機関

千葉商科大学

所属部局

大学院

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

1千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

1.研究の目的
 金融商品の取引所は、単に流動性を提供するだけではなく、価格の発見機能を通じて、効率的な資源配分に寄与するとともに、金融センターの中心となる社会的インフラでもあり、国全体の競争力向上にとっても重要な存在である。そのなかで、市場の利用者である投資家からの要求は、取引システムの安定性、高速性、取引時間の延長から、決済制度の改善まで多岐に亘っている。このような背景で、東京商品取引所(当時は東京工業品取引所)は、2009年5月から新取引システムを稼働させ、立会時間の延長や、処理速度の向上を実施し、大阪証券取引所では、デリバティブ市場において2011年7月から早朝3時までのナイトセッションを開設するなど、積極的な利便性の向上が実施されている。
 従来、国内の取引所は株式市場・商品市場共に、海外の取引所にはない昼休みが存在することが、特徴であった。この制度により、国内の高頻度データを使用した日内季節変動の分析では、特に昼休み前後の変動パターンが海外の実証結果と大きく異なる原因となっていた。東京証券取引所の株式現物市場においては、昼休みの廃止も議論されているが、短縮が実施されたのみで、現時点で昼休みは存在している。しかし、東京工業品取引所(当時)においては、以前は11時から12時30までの昼休みが存在したが、2009年5月7日から廃止されている。また、夜間の立会については大阪証券取引所のデリバティブ市場は、午前3時までで、東京商品取引所では、午前4時までとなっている。夜間の立会の対応は東京商品取引所の方が大阪証券取引所よりも早く、データの蓄積も十分であるため、日内季節性の変動分析にとって、意義のある研究が可能である。
一方で学術的には、高頻度データによる分析が進展しており、特にRealized Volatilityの推計に代表される理論と実証は多くの研究が発表され、リスク管理などの分野でも大きな貢献が期待されている。さらに、昼休みによる取引の中断の影響を考慮したRealized Volatilityの調整方法も提案されている。しかしながら、前述の取引システム改善効果の学術的な検証は必ずしも十分ではない。また、国内のこれまでの研究の分析対象は株式の現物、株価指数先物、為替レートなどに限定されているが、現実の投資対象は、オルタナティブ投資として、商品(コモディティー)の重要性が見直されており、伝統的な株式などの資産との比較検証、あるいは、ポートフォリオに組み込んだときの効果の分析が課題となっている。
 このような背景の下、本研究は、東京商品取引所のティックデータを用いて、立会時間の延長が日中の価格変動性や取引数量に与えた影響を検証し、新制度の導入が市場の流動性に与えた影響を、評価することを目的とする。
分析対象は、商品先物の中で、最も流動性が高く、またグローバルな銘柄で、各地の取引所を利用することにより、24時間の取引が可能でもあり、さらにETF(上場投資信託)の形での取引も多いことで証券市場との関連も高い金先物とする。さらに東京商品取引所では、金先物が6限月あるが、そのなかで最も取引量の多い先限を対象とする。
季節的変動パターンモデルの構築にあたっては、既存研究ではスプライン関数を使用したモデルが多いが、周期性が残存している可能性があり、TIMSAC84のEPTRENを用いて条件付き強度関数によるモデリングを行ない比較する。

2.研究の成果
分析の対象期間は、2006年10月2日から2011年4月28日までとし、これを立会時間の違いにより4分割し、期間A:2006年10月2日から2008年1月4日まで(立会時間は9:00-11:00と12:30-15:30)、期間B: 2008年1月7日から2009年5月1日まで(立会時間は9:00-11:00と12:30-17:30)、期間C:2009年5月7日から2010年9月17日まで(立会時間は9:00-15:30と17:00-23:00)、期間D: 2010年9月21日から2011年4月28日まで(立会時間は9:00-15:30と17:00-翌日4:00)とする。
期間Aと期間Bの違いをEPTRENによる推計結果を用いて比較すると、前場の寄り付きが最も強度の高い時間帯となり、次いで後場の引けとなっている。そして多くの先行研究で指摘されているように、昼休みの前後でも強度が高くなり、強度のグラフはW字型になっている。後場の推移をより詳細に見ると、期間Aでは15時前後が日中で最も強度の弱い時間帯となってから急速に強度が引けまで上昇するが、期間Bでは強度の最も低くなる時間帯はやや早まり、引けにかけて緩やかに上昇するパターンとなっている。
期間Cでは、それ以前と比べて昼休みがなくなるという大きな制度変更がなされているが、その結果、正午前後と夜間の20時前後に強度が低い時間帯が現れ、それまでと比べて、横長のW字型となっている。そして、日中立会の寄り付きが最も強度が高い時間帯となることは変わらず、その次に強度が高くなる時間帯が日中の引けである点も同様であり、夜間立会は、全般的に日中立会よりも強度が低いので、W字型よりも、Vv型という表現がより正確である。
最後に期間Dの推定結果を見ると、強度が最大となる点が15:30の日中立会の引けの時刻となる点が、それ以前のAからCの全期間と大きく異なる点である。夜間立会に関しては、20時前後の強度が最も低くなる点は期間Cと同様で、その後23時頃まで強度が上昇する点も同様であるが、それ以降は4時にかけて徐々に強度が低くなる点も、それまで引けにかけては強度が上昇していたことと比べて大きな違いがある。
以上のように、日内季節変動のパターンは、特に期間Dにおいて大きく変動したことがわかった。
さらに、本研究ではRealized Volatilityの日内季節変動のパターンに関して、1分間隔のデータを用いてプリミティブな算出を行ったが、海外市場の影響を大きく受ける夜間にRealized Volatilityが大きくなっている可能性を示唆する結果となった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

日時:2013年3月19 日 (火曜) 18:30 - 21:00
場所:早稲田大学日本橋キャンパス、早稲田大学ファイナンス研究科  教室11
主催 早稲田大学大学院 ファイナンス総合センター「リアルオプション研究プロジェクト」
共催 千葉商大経済研究所プロジェクト「金融危機以降のわが国資産運用の在り方について」、日本リアルオプション学会
テーマ 資産クラスとしての金、金デリバティブ市場の分析
において、「金先物の高頻度データによる統計解析」と題して発表を行った。

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研究参加者一覧

氏名

所属機関

川崎 能典

統計数理研究所