平成242012)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

24−共研−4103

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

がん検診の過剰診断の推計

重点テーマ

癌統計データ解析

フリガナ

代表者氏名

サイカ クミコ

雑賀 公美子

ローマ字

Saika Kumiko

所属機関

国立がん研究センター 予防・検診研究センター

所属部局

検診研究部

職  名

研究員

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

 わが国では1983年以降老人保健法に基づく老人保健事業としてがん検診を実施しており、1998年以降は一般財源化されている。国が「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」で示した標準的ながん検診は、がん検診を実施することで、対象となるがんの死亡率の減少が科学的に証明されたがん検診の方法である。上記指針では、40歳以上を対象とした年1回の胃X線検査(胃がん検診)、便潜血検査(大腸がん検診)、胸部X線検査および喫煙者に対しての喀痰細胞診(肺がん検診)、2年に1回の診察とマンモグラフィの併用(乳がん検診)、20歳以上を対象とした2年に1回の細胞診(子宮頸がん検診)である。これら5がんについては、死亡率減少効果について相応の証拠があると判断されているが、実際には国の指針にもとづかない、有効性の評価がされていないがん検診、がん検診方法も提供されている。
 近年がん検診については、早期発見・早期治療による死亡率減少という利益と、偽陰性による見逃し、偽陽性による心理的負担、X線検査による放射線被ばくや過剰診断による過剰な検査や治療といった不利益とのバランスを考慮することが注目されている。不利益の1つである過剰診断とは、検診によって発見や治療を行わなくても、がんによる症状が発生せずにがん以外の死因で死亡したであろう症例の診断であり、検診で発見することによる、過剰な検査や治療が発生する可能性が高い。2009年に報告されたシステマティックレビューを行った研究によると、マンモグラフィ実施前の罹患率より、実施後の罹患率は52%増加しており、乳がん罹患者の3人に1人が検診を受けなければ、治療が必要な乳がんに罹患することはないという結果が報告された。
 わが国においても、有効性の示されていないがん検診が一部の自治体で行われていることや、精度管理がしっかりとされていないこと、職域でのがん検診内容が系統的に把握されていないなどの問題がある今、検診等で発見されたがんと、それ以外で発見されたがんの特性を把握することは重要である。地域がん登録に登録された症例を用いて、罹患時の進行度に検診等で発見されたということが、どの程度の影響を及ぼすのかを年齢や期間を考慮して検討することを本研究の目的とした。
 対象は、1993年から2007年の間に地域がん登録に登録された胃、大腸、肺、乳房(女性)、子宮頸部、前立腺、甲状腺がん症例である。検診等の効果が小さいと考えられる20歳未満と80歳以上は対象から除外した。DCN(死亡票による把握)症例は進行度を含む多くの情報が報告されていない症例が多いため、除外した。また、進行度において「再発・DCO(死亡票のみによる登録)」、「不明」のものも対象から除外した。さらに、個別の症例だけでなく、地域がん登録の精度にも問題があるため、罹患年・部位別のDCN割合が30%未満または、DCO割合が25%未満の地域がん登録の症例は対象外とした。
 発見経緯(「がん検診・健診・人間ドック」と「その他・不明」に分類)が進行度に与える影響を検討するため、順序ロジスティック回帰モデルを用いた。進行度は、「上皮内」「限局」「領域」「遠隔転移」に分類されており、これらの割合に対する罹患年、性、年齢(20-29、30-39、40-49、50-59、60-69、70-79)、発見経緯の効果を検討した。発見経緯と年齢については、交互作用も検討した。
 地域がん登録は1993年から2007年の間に参加登録地域が16地域から33地域に増加した。今回対象とした地域は、部位別に異なり、DCNが低い乳房、子宮頸および甲状腺は対象地域が多く、DCNの高い肺の対象地域は少なかった。2007年においては胃が22地域、大腸が26地域、肺が16地域、乳房と子宮頸が33地域、前立腺が29地域、甲状腺が31地域であった。登録対象数も年々増加しており、1993-2007年で対象となった症例は胃で194,816例、大腸で192,656例、肺で69,507例、乳房で130,890例、子宮頸で56,981例、甲状腺で22,283例であった。対象地域の年・部位別DCN割合は胃と大腸は20%前後、乳房、子宮頸、甲状腺は5%から10%程度、肺は25%程度で変化が大きくないが、前立腺がんでは1993年の20%から2007年の13%に減少していた。年齢階級別のDCN割合では、乳房、子宮頸、甲状腺は年齢階級が高いほどDCN割合が高いが、胃、大腸、肺では40歳代のDCN割合は20歳代、30歳代より低かった。発見経緯が「がん検診・健診・人間ドック」(以降、検診由来)であるものの割合は、すべての部位で年々増加しているが、乳房と前立腺の増加が著しい(乳房は9%から25%、前立腺は4%から37%)。年齢階級別では胃、大腸、乳房、甲状腺においては40歳代または50歳代での検診由来割合が最も高く、肺は30歳代から50歳代までが同程度、子宮頸では30歳代が最も高く、前立腺は30歳代と50歳代が高かった。
 進行度に対する発見経緯を含めた要因の効果モデルにおいては、子宮頸部と甲状腺における罹患年以外の効果は、検診由来と年齢の交互作用を含め、すべて効果が認められる結果となった。効果の大きさは、罹患年はあまり大きくなく、性別は胃と大腸ではあまり大きくなかったが、肺と甲状腺では男性の方が早期診断されている(オッズ比:肺1.5、甲状腺1.7)結果となった。検診由来の症例における年齢の効果は、肺、乳房、前立腺では効果がなく、胃、大腸、甲状腺では30歳代から79歳では同程度であるが、20歳代で、より早期診断されていた。子宮頸だけがその他の部位とは異なり、20歳代に対して高齢ほど1.5倍から5.8倍、早期診断されている結果となった。発見経緯が検診以外の症例においても同様の傾向がみられた。検診由来の早期診断に対する効果は、20歳代で有意な効果が見られるのは肺(オッズ比3.4)、乳房(2.3)、子宮頸(1.7)のみである。前立腺では40代以上、甲状腺では50歳以上でしか検診由来による早期診断の効果は認められなかった。早期診断の効果の大きさは胃、大腸で約3倍、肺で3〜4倍、乳房で約2倍、前立腺で2〜3倍、甲状腺で1〜2倍であった。子宮頸部においては年齢において検診由来の効果が異なり、20歳代で1.7倍であるのに対し、高齢ほど効果は大きく70歳代では6.1倍となった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1. 雑賀公美子、松田智大、柴田亜希子、斎藤 博. 地域がん登録におけるがん検診等発見由来割合と検診受診率との関係. JACR MONOGRAPH 2012; 18: 44-45.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会の開催は行っておりません。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

大野ゆう子

大阪大学