平成232011)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

23−共研−4302

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

ウイルス進化の予測と制御

重点テーマ

ゲノム多様性と進化の統計数理

フリガナ

代表者氏名

イワミ シンゴ

岩見 真吾

ローマ字

IWAMI SHINGO

所属機関

科学技術振興機構

所属部局

さきがけ

職  名

さきがけ研究者

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

4 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究では、ウイルス感染実験と数理モデルを用いて、ウイルス進化を予測する理論を構築することを目的とした。さらに、それらの理論をもとに、ウイルス進化を実験レベルで制御する手法を開発することを目指した。

今回、私たちは、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)が「Vpu」というウイルスタンパク質を獲得した進化的意義について考察した。HIVは、世界的大流行(パンデミック)を引き起こしているグループM(HIV-1 M)と、西・中央アフリカでの局地的流行にとどまっているグループO(HIV-1 O)に大別される。しかし、どちらのHIV-1も同一の起源から進化したにも関わらず、2グループの流行に差が生じた理由は未だ明らかになっていない。一方、細胞由来タンパク質tetherinが,HIV-1感染細胞から産出されたウイルス粒子を繋留し、ウイルス粒子の放出を抑制することが近年明らかになった。また、HIV-1のコードするタンパク質であるVpuは、tetherinのウイルス繋留能を抑制する機能を持つことも明らかになった。ここで、興味深いことに、初めに記したパンデミックを起こしているHIV-1 MのVpuには抗tetherin能がある一方で、局地的流行にとどまっているHIV-1 OのVpuにはその機能がない。従って、これらのことから、HIV-1の流行にVpuの抗tetherin活性が影響していることが予想される。

そこで本研究では、数理モデルとウイルス感染実験を組み合わせることで、Vpuによる抗tetherin活性の差異がHIV-1伝播の効率に与える影響を多階層的(個体内・個体間・個体群内)に調べた。解析の結果、野生型HIV-1は、変異型 HIV-1(Vpu欠損HIV-1)に比べて、ウイルス産生率が約1.65倍高くなっていることが明らかになった。これは、標準的なHIV-1感染者において、ウイルス学的セットポイント(無症候期間における定常的なウイルス量)が約2.68倍異なることに対応し、個体間におけるHIV-1の伝播効率が約2.35倍異なることを意味している。すなわち、HIV-1がVpuを獲得し、抗tetherin活性を持つことで、(Kermack-McKendrickモデルの観点で)個体群内における基本再生産数を約2.35倍増加させていたことが分かった。

本結果から、HIV-1 Oが局地的な流行に留まり、HIV-1 Mが世界的に流行した理由の1つとして「Vpuの抗tetherin活性の有無による基本再生産数の違い」が挙げられる事が示唆された。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・第8回生物数学の理論とその応用2011
・統数研共同利用重点型研究集会
で発表した。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

10/25,26、また、12/19,20に、統計数理研究所にて研究会が開かれた。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

佐藤 佳

京都大学

守田 智

静岡大学