昭和621987)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

62−共研−55

専門分類

6

研究課題名

地球物理学的データのインバージョンII

フリガナ

代表者氏名

フカオ ヨシオ

深尾 良夫

ローマ字

所属機関

名古屋大学

所属部局

理学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

地球表面での観測から得られる大量の地球物理学的データから地球内部構造を推定する逆問題の解法を開発する。それを実際のデータに適用し,従来よりもはるかに鮮明な地球内部の画像を得る。既に我々は前年度の共同研究「地球物理学的データのインバージョン」において基本的なアルゴリズムや必要な前処理プログラムを完成させた。そこで本年度はこれを完全なプログラムに仕上げ実際のデータに適用し,画期的な成果を得る。


我々はISC(International Seismological Center)により報告されている全世界の地震のP波到着時刻データを用いて,全地球マントルの3次元トモグラフィーを進めている。61年度に解法プログラムの骨格,約1万ステップを完成した。62年度には残った一部分のプログラムモジュールの作成と部分的な改良を行なった後,実際のデータへの適用を行なった。新たに作成したプログラムは,(1)CG法による解の計算,(2)解の共分散及びレゾリューションの計算,(3)各種のグラフィック表示,等である。改良点としては,いくつかのバグフィックスの他,一部モジュールのアレイプロセッサ向きの再コーディングを行なった。
こうして作成したプログラムを実際のデータに適用した。データには’71−’81年に起こったマグニチュード5以上の地震中から,地理的になるべく均一になるように選んだ。データ数とモデルのブロック数を,小規模の実験から始めて,解の振舞いを観察しながら徐々に大きくした。最終的には地震の数が約2千,地震と観測点の組合せが合計約20万,ブロック数が3万という問題を,名古屋大学大型計算機センターのアレイプロセッサ,VP200を用いて解いた。逆投影に必要な行列要素の総容量は約80メガバイトであり,すべてVP200の主記憶上で演算を行なうことができた。
震源決定と3次元逆投影を数回反復して得られた最終解からは以下に述べるようなことがわかった。(1)最上部マントルの深さ約80−150kmでは,環太平洋地域をはじめとするテクトニックな地域で地震波速度が平均より数%小さい。(2)北大西洋では,深さ約350kmの層まで続くアイスランドでの低速度が特徴的である。(3)ヒマラヤ,アンデスの下では,厚い地殻に対応した低速度が見える。(4)深さ350kmを越えると環太平洋は高速度となる。(5)下部マントルは上部マントルに比べて,振幅が小さくランダムなパタンになる。(6)990−1200KMの層では太平洋中部の低速度が特徴的である。また,南米,北米,ニュージーランドでは高速度となる。(7)マントル最下層(2570−2900km)では南太平洋,アフリカ,アラスカで低速度,東アジア,北米,南米,で高速度となる。
以上のように,62年度は当初の予定通りプログラムが完成し,大量のデータを用いた大規模な問題を解くことができた。しかし,データに含まれる誤差の大きさを考慮すると,用いたデータ量は未だ十分とは言えないことが判明した。また,より詳細な構造を見るためにはさらにブロック数を増やして分解能を上げる必要がある。従って現在までに得られた3次元構造モデルを更に改良する作業を,63年度の共同研究で行なう予定である。
尚,本研究は東京大学理学部地球物理学科研究生,井上公君の協力を得て行なわれた。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

研究発表(発表済み)
井上公,深尾良夫,田辺國士,尾形良彦
「全マントルP波トモグラフィーその1:解法」
1987年秋季地震学会
井上公,深尾良夫,田辺國士,尾形良彦
「全マントルP波トモグラフィーその2:速度構造」
1988年春期地震学会


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究内容は以下の二つである。(1)全世界の観測所から報告される地震波到達時刻を用いて地球内部の地震波速度構造を得る。(2)主に名古屋大学グループが得た中部地方の重力データ(約1万点)を用いて同地方の地下の密度構造を得る。(1)については地球科学に特有な困難(震波・観測点分布の偏り,膨大なデータと未知数)があり,(2)についてはポテンシャル問題に特有な困難(解の非一義性)がある。こうした困難は逆問題の専門家(統数研)とそのデータに関する専門家(名大理)との共同研究によって初めて切抜けることが可能となる。既に前年度我々はこれらの困難を切り抜けるアルゴリズムを開発し,解析に必要な個々のプログラムをほぼ完成させた。今年度は上記アルゴリズムに沿って個々のプログラムをつなぎ,解析を行う。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

尾形 良彦

統計数理研究所

田辺 國士

統計数理研究所