平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2025

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

イベント・スキーマと構文に関する研究

フリガナ

代表者氏名

チョウ カナコ

長 加奈子

ローマ字

Cho Kanako

所属機関

福岡大学

所属部局

人文学部

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

212千円

研究参加者数

8 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究目的】
本研究は、構文をはじめとする言語形式とその背後に存在するイベント・スキーマとの関係について、(大規模)コーパス、心理実験等を用いて統計的に分析することを目的とする。特に、研究対象言語として、英語、日本語に関する分析を行う。

【研究成果の概要】
研究成果は以下の通りである。
・「譲歩」のスキーマと構文化
譲歩構文のスキーマには、ある言明(X)を一旦受け入れた上で,対立する主張を行うという複合的過程が含 まれるが、Xは聞き手の発話や態度であることが多く,譲歩表現の構文化には文を越えた談話的要因が関与している。本調査ではコーパスからの用例を定性的・定量的また共時的・通時的に分析し,言語表現が譲歩の意味を慣用化する過程を解明することを目的とした。事例研究として引き続き英語の having said that構文と関連構文の分析を行った。先行研究での調査でコーパス用例の検索からもれているものが多くあることが判明したので改めて調査を行った。その結果、Xと、主節の間の対立関係にはさまざまな程度があり、対立の程度が小さいものや、主節が疑問文や提案を表し、譲歩というより、話題の転換ートピックシフトーとしての働きを持っている例が、当初の調査よりも多いことがわかった。

・句動詞構文
句動詞構文は英語に特徴的な言語要素の一つであり,学習者にとっても重要な学習項目であることから,(1)学習者のモデルとしての母語話者コーパス,(2)学習者のインプットとしての教科書類,(3)学習者のアウトプットとしての学習者コーパスを分析し,句動詞を学習者がどう学習し,使用しているかを明らかにすることを目的として,本研究を行った。
この目的を達成するために,句動詞辞典の収録項目に基づいて選定した句動詞の各コーパスにおける頻度を調査・分析した。具体的には学習者コーパスのレベル別データと母語話者データから成る各(サブ)コーパス間の関係と,各(サブ)コーパスと句動詞の関係を見るために,各(サブ)コーパスにおける句動詞の頻度データに対してコレスポンデンス分析を行った。この分析により,学習者がうまく使えていない句動詞の候補が示唆された。
今後は,各(サブ)コーパス間をより詳細に比較することで,特に初中級の日本人英語学習者が習得すべき句動詞を明らかにする予定である。また,句動詞に特有の比喩的意味に注目しながら,日本人英語学習者にとって習熟が難しい句動詞を意味の観点から明らかにすることも目指している。

・日本語の動詞句におけるヲ格とニ格の語順に関する研究
日本語は,英語などの比べて語順の制約が緩やかだと考えられている。これまでのヲ格とニ格の語順に関する研究として,基本的な語順は統語構造で決まるとする考えや,語順は自由で,談話構造により語順が決まるとする考えがある。本研究では,123名の被験者に対し,Acceptability Judgement TestとSentence Production Testを行い,ヲ格とニ格の語順の選好について調査を行った。その結果,動詞により好まれる語順に違いがあることがわかった。しかしながら,語順の好みは動詞のみに還元できるものではなく,むしろ文全体がどのような出来事を表すかに関係することも明らかになった。

・spray-load構文の構文交替の談話的な動機づけ
 英語の場所格交替が見られるspray/load構文とclear構文を考察対象として、両構文に見られる交替現象(I loaded the truck with the hay vs I loaded the hay onto the truck)には、意味論的な動機づけだけではなく、談話的な動機づけが見られる点を、大規模コーパスであるThe British National Corpusを用いて定量的に示した。特に、目的語句と補語句の定性と品詞に注目することで、目的語には旧情報や代名詞が現れ、補語には新情報や名詞句が現れる傾向がある点を明らかにして、新旧情報についても両構文が伝える点を明示した。

・二重目的語構文
"Letting causation"を表す二重目的語構文の特徴を定量的に解明する進行中のプロジェクトにおいて、2016年度は、それ以前に分析したrefuseとdenyが生じる二重目的語構文の事例に加えて、allowが生じる事例をBritish National Corpusから収集し、比較・分析した。第二目的語の名詞の頻度情報を用いた対応分析の結果、refuseはdeny/allowとは異なるふるまいをすることが判明した。ふるまいの差違が何に起因するのかを明らかにするために、今後、名詞の意味クラスの頻度を算出し、分析を進める予定である。

・状態変化を表す構文における動詞の意味分析
本調査ではX becomes Y(XはYになる)等の状態変化を表す構文の分析を行った。この構文で用いられる連結動詞(become, fall, get, grow, turn)と共起する形容詞を大規模コーパス(COCA)から抽出し、対応分析を用いて意味的な違いを明らかにした。分析の結果、fallおよびturnの特殊性が明らかとなり、特に前者は主語の意思によらない状態の変化、後者は色の変化を表すことなどが明らかとなった。これらの内容について2016年8月29日(月)に神戸大学にて「状態変化を表す構文における動詞の意味分析」というタイトルで中間発表を行った。
その後、共起語の意味内容を明らかにするため、FrameNetの情報を基に共起形容詞にフレームを付与した。例えば、angryという形容詞はEmotion_directedというフレームを喚起すると分析できる。また、excited, boredも同一のフレームを喚起する。これらの情報により、単語の意味内容をフレームという形で具体化することが可能となり、単語をグルーピングすることが可能となる。さらに、フレームはフレーム間関係によって他のフレームと接続されているため、より一般的なカテゴリーに単語を分類することが可能となる。フレームをベースに対応分析を行った結果、分析対象の連結動詞はいずれもAttributesフレームを共通要素として持つということが明らかとなり、特にgrowはDimensionフレームによって特徴づけられるなど、それぞれの動詞の特徴が共起形容詞の意味内容の観点から明らかになった。これらの分析結果について、2017年3月27日(月)に統計数理研究所にて「対応分析とFrameNetを用いた共起語の意味分析:状態変化を表す連結動詞を例に」というタイトルで発表を行った。

・構文スキーマ:関係詞節
日本語と英語の事態把握の違いが表れる関係詞節を取り上げ調査を行った。関係代名詞節については,Keenan and Comrie (1977)が,Accessibility Hierarchy において,関係代名詞の先行詞が,関係詞節においてどのような格役割を担うかによって,無標から有標までのグラデーションを明らかにしている。Keenan and Comrie では,無標なものほど,関係代名詞節になりやすいと論じている。このAccessiblity Hierarchyに基づき,まず英語多読教材399,705語に対して分析を行った。その結果,Keenan and Comrie (1977) のAccessibility Hierarchy に沿った出現分布が観察された。さらに学習者コーパスICNALEの英語母語話者サブコーパスと日本語母語話者サブコーパスを分析したところ,英語母語話者は Accessibility Hierarchyに沿った出現分布であったが,日本語母語話者はことなる出現分布を示した。これらの結果から,日本語母語話者については,母語である日本語の影響があることが分かった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

本研究の成果は,以下のリポートおよび論文等である。

統計数理研究所共同リポート381『イベント・スキーマと構文に関する研究』 2017年3月
石井康毅「日本人英語学習者が学習・使用する句動詞の分析?網羅的な頻度調査に基づく考察」, pp. 1-20.
植田正暢「二重目的語構文AllowとRefuse/Denyの第二目的語の頻度分析」, pp. 21-38.
内田諭「対応分析とFrameNetを用いた共起語の意味分析:状態変化を表す連結動詞を例に」, pp. 39-50.
川瀬義清「日本語の動詞句におけるヲ格と二格の語順」, pp. 51-63.
長加奈子「多読教材における関係代名詞節の出現頻度について」, pp. 65-75.

大谷直輝 (2016). 「実用的な文法について考える:語の反義性に注目して」『英語教育』11月号: 26-28.
大谷直輝 (2016).「前置詞か副詞辞かを動機づける認知的な要因について」日本認知言語学会(第17回)、明治大学、2016年9月10-11日
Otani, Naoki (2016) "A usage-based approach to the spray/load alternation," The 9th International Conference on Construction Grammar (ICCG9), the Federal University of Juiz de Fora, Brazil, 5-7 October 2016.
Otani, Naoki (2016) "Prepositional Phrases used as Complements of Prepositions: A Functional and Cognitive Account," the 4th conference of the International Society for the Linguistics of English, Adam Mickiewicz University, Poland, 18-21 September 2016.
Otani, Naoki (2016) "A cognitive analysis of the use of prepositions and adverbial particles in English," The 46th Poznan Linguistic Meeting, Adam Mickiewicz University, Poland, 15-17 September 2016.
大橋浩(2016)日本英文学会九州支部シンポジウム「構文研究とコーパス」発表タイトル「譲歩構文と拡張」(2016年10月22日中村学園大学)
Ohashi, Hiroshi (2017) 'Concessive constructions and the development of discourse management function: The case of having said that', New Directions in Pragmatic Research: Synchronic and Diachronic Perspectives(2017年3月20日明治大学)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

2016年度「言語研究と統計」共同利用研究班合同中間報告会
日時:2016年8月29日・30日
場所:神戸大学六甲台第1キャンパス プレゼンテーションホール
参加者数:約40名

言語研究と統計2017
日時:2017年3月27日・28日
会場:統計数理研究所 セミナー室I
オーガナイザー:藤枝美穂(大阪医科大学)
指導講話:前田忠彦(統計数理研究所)
参加者数:約80名


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

石井 康毅

成城大学

植田 正暢

北九州市立大学

内田 諭

九州大学大学院

大谷 直輝

東京外国語大学大学院

大橋 浩

九州大学

川瀬 義清

西南学院大学

前田 忠彦

統計数理研究所