平成232011)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

23−共研−2069

分野分類

統計数理研究所内分野分類

j

主要研究分野分類

7

研究課題名

外来種拡散リスクを考慮に入れた森林管理評価モデルの構築

フリガナ

代表者氏名

コノシマ マサシ

木島 真志

ローマ字

Konoshima Masashi

所属機関

琉球大学

所属部局

農学部

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

69千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 本研究では,費用効率的な外来生物管理の実現に必要な定量的な情報提供を念頭に,空間的な外来種拡散メカニズムをセルオートマトン法によりモデルし,様々な空間管理戦略のシミュレーションを通して,外来生物管理の経済評価に繋げる.外来生物は在来生物と競合し,その結果,農産物被害など様々な経済・生態的損失をもたらす.それゆえ,その効果的かつ効率的な管理が求められている.
 外来生物リスク軽減に関しては,侵入に対する「予防:prevention」,すでに侵入している個体群を取り除く「根絶:eradation」,そして「個体群の分布拡大を抑制する:control」という3つの対策が考えられる.しかし,無数の潜在的な侵入経路が存在することから,「予防」のみに頼ることはできない状態である(Mehta et al., 2007).一方,根絶事業には膨大な費用が掛かることに加え,根絶可能であるのは侵入のごく初期であるのに対して,初期における侵入の検知が困難である(小池, 2007)ことなどが指摘されており,根絶事業もまた限られた場合に適応されるものであると考えられる.
 本研究では,より現実的で,頻繁に実施されうる,control,つまり,定着した外来生物の分布拡大を「いかに効率的に管理・コントロールするか」をセルオートマンによるシミュレーション分析を通して検討する.
 外来生物が一旦定着すると,分布拡大抑制のための管理エフォートは限られた予算内で長期にわたり,繰り返し行われる必要がある.また,適切な管理が施されなければ,一般的に外来生物は定着場所から時間に応じて近隣地域に拡散し新たに定着し,被害を拡大させる.一方,適切な管理を施すことで拡散速度を遅くする,あるいは一時的に拡散を停止することが可能である(Williams et al., 2007; Alofs and Fowler,2010).それゆえ,費用効率的に分布拡大を抑制するためには動的かつ空間的な管理配置問題のフレームワークを用いて外来生物の空間的な拡散メカニズムを的確に捉える必要がある.
 欧米などでは,90年代後半より外来生物管理に関する経済分析(Archer et al., 1996; Finnoff et al., 2005; Mehta et al., 2007)が活発に行われており,管理行為と外来生物リスクの相互作用を捉えた動的最適化モデルの構築と分析による費用効率的な管理に関する政策提言などが行われている.しかし,外来生物の空間的な拡散メカニズムを考慮した効率的な管理空間配置パターンの分析は,まだほとんどなされていない.一方,生態学の分野においては,外来生物の分布拡大を予測する手法はほぼ確立されている(小池, 2007)が,それらの知見を費用効率的な管理の探索に活かすような研究や,管理の費用効率性を評価できるようなフレームワークは確立されていない.
 本研究では,このギャップを埋めるため,管理の空間配置決定モデルと生態系モデルを統合したモデルを構築する.具体的には,管理空間配置パターン評価モデルと生態系・生物科学における最新の動的・空間的な外来生物の拡散メカニズムに関する知見を統合したモデルを構築し,数値シミュレーションを通して,効果的かつ効率的な管理空間配置パターンについて検討する.
 ここで提案する統合モデルが従来の経済学の分野で扱われたモデル(Archer et al., 1996; Finnoff et al., 2005; Mehta et al., 2007)と異なる点は,管理行為の空間配置パターンと外来生物拡散の相互作用を明示的に取り扱う点である.この相互作用を捉えることにより,ある「場所」における外来生物の拡散が,その「場所」の管理行為だけでなく隣接する「場所」の管理行為にも依存することをモデルに反映できる.また,外来生物が引き起こす被害のリスクは,動的・空間的拡散メカニズムを基に,動的に変化する.それゆえ,上記の相互作用を的確に捉え,空間上のトレードオフを検討することが費用効率的な管理を探索する際に重要である.
 これまで,外来生物の基本的な分布拡散メカニズムをCannas et al. (2003) の外来生物分布拡散モデルを参考に,セルオートマトンモデルにより再現し,動的な意思決定ツールと組み合わせることで,様々な管理戦略が時空間的な外来種拡散程度と管理費用にどのような影響を及ぼすかを調べるために,シミュレーション分析を行ってきた.
ここで検討した管理戦略は侵略フロント(invasive fronts)に隣接する地域に一定のバッファを設置し,外来生物の侵略速度を遅くするという戦略である.バッファの幅を変化させることで,管理程度が管理費用と外来種の拡散に及ぼす影響を定量的に評価した.
 これまでの我々のシミュレーション結果は,効果的かつ効率的に外来生物拡散をコントロールするためには,管理の規模・強度に関して的確な判断が必要になることを示した.例えば,規模・強度が十分でない場合は,管理費用が掛かるだけで,拡散抑制・防止の効果については,管理費用の伴わない場合,つまり,何も管理を施さずに放置する場合と比べて,ほとんど変わらない可能性が示唆された.
 また,管理費用の分析結果によると,土地利用者は,バッファ(管理帯)の幅と外来生物侵略セル数のトレードオフに直面することが示唆された.バッファ(管理帯)の幅を大きくする,つまり,侵略されたセルからより遠くに位置するセルについてまで管理を展開すると,当然管理費用は高くなるが,このような強度な管理を施すことで,外来生物侵略セル数は少なくなり,侵略フロントの範囲も制限される.そのため,次期,t+1, における管理の範囲が限られたものになり,その結果,管理するセルの数は減り,管理費用も減る.しかし,「管理帯」の幅を狭くした場合,より多くのセルに外来生物が拡散し,侵略フロントが広範囲に広がってしまう.そのため,次期, t+1,において「管理帯」をより広範囲に展開する必要が生じる.その結果,管理するセルの数が増え,それに伴い管理費用も上昇する可能性がある.

引用文献
Alofs, K.M. and N.L. Fowler (2010) Habitat fragmentation caused by woody plant encroachment inhibits the spread of an invasive grass, Journal of Applied Ecology 47 (2): 338-347

Archer, D.W., and J.F. Shogren (1996) Endogenous Risk in Weed Control Management. Agricultural Economics 14, 103-122.

Cannas, S.A., D.E. Marco and S.A. Paez (2003) Modelling biological invasions: species traits, species interactions and habitat heterogeneity. Math. Biosci. 183, 93-110.

Finnoff, D., Shogren JF, Leung B, Lodge D (2005) The importance of bioeconomic feed-back in invasive species management. Ecol. Econ.52, 367-381.

小池文人(2007) 外来生物リスクの評価と管理 『生態環境リスクマネジメントの基礎 生態系をなぜ,どうやって守るのか』(浦野紘平・松田裕之編), pp.109-127, オーム社, 東京.

Mehta, S.V., Haight, R.G., Homans, F.R., and Polasky, S. (2007) Optimal Detection and Control Strategies for Invasive Species Management, Ecol. Econ. 61, 237-245.

Williams, D.A., E Muchugu, W.A. Overholt and J.P. Cuda (2007) Colonization patterns of the invasive Brazilian peppertree, Schinus terebinthifolius, in Florida, Heredity 98: 284-293

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

研究論文をEurasian Journal of Forest Science に投稿した.
現在査読中である.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

吉本 敦

統計数理研究所