平成262014)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

26−共研−1012

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

文化の測定方法の多様なあり方の検討:定量的手法と定性的な手法の活用

フリガナ

代表者氏名

マツモト ワタル

松本 渉

ローマ字

Matsumoto Wataru

所属機関

関西大学

所属部局

総合情報学部

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 文化研究に携わる方法論と手法は多様に存在する。しかし,その適用理由と理論的根拠は,米英と日本を見ても混沌としている。そこで,本研究では文化という広義な曖昧な概念を社会学・英語教育・美術・心理学・数学のスキーマを使用して,学術的・原理的な定義をすることを試みる。次に,文化・国際比較等で多く見られる統計学を、上記の定義に従って分類化・順序化する。なお,ここでは,文化研究における多数派である定量的手法だけではなく,少数派である質的アプローチ,つまり記述的・ナラティブでコンテキストを重視する定性的手法群にもハイライトを当てる。すなわち,本研究は,量と質の二つのアプローチを討論することにより,新しいパラダイムを生み出すことを目標としている。
 ここで具体的な技法として焦点を当てるのは,ガットマンのファセット理論(マッピング・センテンスとデータ構造の一致),MDS(イメージマッピング法),主成分分析(クラシカルな定量分析)とエスノグラフィー(記述と豊潤なニュアンスの翻訳・解釈)に限定する。これら四つの文化の分析ツールを構築モデルに適応して、「なぜ」「いつ」「どのように」有効または不合理であるのかを科学的に批判・評価する。同時に,これらの手法が文化研究に与える潜在的重要性も討議することも目標の一つとする。
 最後に,定量性と定性性の双方の有意点を生かす「第三の道」を模索し,その理論的ガイドラインについての示唆を得る。ここでは,半質半量的性格をもつPOSA(部分尺度構成法)を主として展開する。
 上記のような目的を掲げて研究を進めた結果,大きく分けて3つの成果が得られた。
 1.エスノグライーは、TESOL・言語教育系で文化研究のスターターに成りうることが論争できた(木村美由紀2014)。なぜなら、エスノグラフィーは「文化を視点とする」質的研究で最適性(汎用性と深度)を有すると主張するからである。エスノフラフィーは科学系分野でも、パイロット・スタディーとして使用することができる。その理由は「言葉をデータとして扱う」ことで、作業仮説を発掘できるからである。その事例はMiyuki Kimura(2004)を通じて、エスノグラフィー(テーマであるネイティブ教師の 間の発見)からt検定(ネイティブ教師の間の長短)へ、次にPOSA(日本人学生が長い間を必要とする理由解明)と発展する過程から議論できた。
 2.自由記述による「いじめ比較」(植木、石橋、吉野ほか、2014)では、日米中の分類化を計った。いじめの共通点を引き出す上で、単純記述の明解さとアピール度を再確認できたと共に、翻訳の難解さが問題となって具現化した。このトラブルを解決するためには、言語間(いじめ系)の類似性を多変量解析化することを提案した。
 3.POSAは文化における質的研究と量的リサーチを融合させるのに最も有効な技法の一つであると議論した(木村通治、2014)。なぜならPOSAは質的エレメント(マッピング・センテンスによる仮説の文章化)と量的エレメント(バイナリーによる部分尺度構成)の両面を持ち合わせているからである。文化の量(ジョイント・スコア)と文化の質(水平カテゴリー)の組合せにより、文化の発展パスを有意義に描写できることが、理論的にも現象的にも、証明できた。ファセット理論を使用することで、POSAは仮説検証型リサーチにも、実地探索型の質的リサーチにも対応できる有能な技法であると推奨できると結論づける。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

第42回日本行動計量学会(2014年,東北大学)にて,オーガナイザー:木村通治、司会者:繁桝算男、討論者:岡太彬訓のもと,特別セッション「文化の測定方法の多様なあり方:定量的手法と定性的手法の活用」(2014年9月3日(水)15:15〜17:15,第5会場)を設けた。本共同利用研究のメンバーが関わった研究発表は以下の3つである。
(1)木村通治「POSAによる文化の質と量は融合できるか?」pp.204-205
(2)木村美由紀「TESOLにおけるエスノグラフィーの有効性と必要性」pp.206-207
(3)植木武・石橋義永・吉野諒三・J.Torquati・R.Tamashiro・R.edmondson・張正軍「日・米・中におけるいじめ比較ー自由書き集計ー」pp.212-215
 なお,当該セッションでは,その他に「地域での価値観の定性的測定と数量化」(竹村和久・竹内潤子・今関仁智・玉利祐樹・井出野尚),「美術研究における「形」の定量的分析の問題点ーどのようなモノサシで,何を測るかー」(村上征勝)の2件の発表も行われた。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

木村 通治

埼玉短期大学

木村 美由紀

東京慈恵会医科大学

吉野 諒三

統計数理研究所