平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2017

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

3

研究課題名

臨床データに基づく急性骨髄性白血病予後モデルの開発

フリガナ

代表者氏名

ニシヤマ ノブアキ

西山 宣昭

ローマ字

Nishiyama Nobuaki

所属機関

金沢大学

所属部局

国際基幹教育院

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

72千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 急性白血病予後の予測、化学療法、免疫細胞療法の効果の予測を目的として、白血病細胞[L]、effector T細胞[Teff] (NK細胞、細胞障害性T細胞)、regulatory T細胞[Treg]の細胞数を変数とし、これら細胞種間の相互作用を導入した3変数の常微分方程式モデルを作成した(投稿中)。[L]、[Teff]、[Treg]はそれぞれ前駆細胞と分化細胞からなるとし、それぞれの細胞数の時間変化は、幹細胞からの流入速度、自己増殖速度、アポトーシス速度から速度式を導出した。3種の自己増殖速度および細胞間の相互作用項はHill関数による定式化を行った。細胞間相互作用項は、(1)白血病細胞に発現しているPD-1、IDO、CD200がTregを活性化するとともにTeffを抑制する(Ustun C et al. Blood(2011))、(2)白血病細胞とNK細胞との接触によりNK細胞表面のNCRの発現を抑制する(Fauriat C et al. Blood(2007))、(3)TregがTeffの機能を抑制する(Zhou Q et al. Blood(2010))、以上の知見に基づき導入した。特に、急性骨髄性白血病発病時のTreg細胞数が低いほうが高い寛解達成率が得られること(Shenghui Z et al. Int. J. Cancer(2011))、再発時にTreg細胞数の増大が観察されること(Ersvaer E et al. BMC Immunol. (2010))に注目し、TregとLとの間のポジティブフィードバックを導入した。L、Teff、Tregの細胞数が時間の経過とともにどのように変化するか速度式の数値積分によって調べたところ、saddle-node分岐を伴う2重安定定常状態(Lの細胞数が優位な定常状態SShigh(発病、再発に対応)とLの細胞数がほぼ無視できる定常状態SSlow(治癒に対応))が広いパラメータ(速度定数、Hill関数に含まれるしきい定数)値の範囲で存在することを明らかにした。
 本モデルに基づいて、臨床で観察される長い維持時間を経て再発に至る寛解(CR)状態は、3つの細胞種の濃度空間における2つの安定定常状態の吸引域(basin)の境界(separatrix)近傍を通過して元のSShighに戻る過渡的ダイナミクスと解釈できることが示唆された。このことから、寛解維持時間とOS(Overall Survival)、EFS(Event Free Survival)との正の相関が予想されるが、これは臨床知見と合致している。また、separatrixの存在は、寛解にある患者を対象としたNK細胞移植の臨床試験において再発を抑制するために必要なNK細胞用量のしきい値の存在(Curti A et al. Clin. Cancer Res.(2016))によって支持される。本研究では、化学療法はL、Teff、Tregのアポトーシス速度定数の増大に対応させ、また造血幹細胞移植は細胞分化に基づくTeff、Tregの流入速度定数の増大、NK細胞、CTL細胞の移植はTeffの細胞濃度の増加に対応させた。特に、寛解維持療法としての化学療法の最適な繰り返し回数や時間間隔の推定、化学療法後の造血幹細胞、Teff細胞の移植の用量とタイミング、NK細胞(Teff)移植に先行して行われるTreg細胞数を減少させる処置(Bachanova V et al. Blood(2014))のタイミングについてシミュレーションを行った。現在、これらの結果の臨床的妥当性について検討を行っている。
 これまでモデルに含まれるパラメータの値を網羅的に変化させてモデルの性質を調べてきたが、このモデルパラメーターの値を臨床データに基づき推定するために、現在、小児ALL、AMLの寛解維持化学療法下の患者様から得られる白血球回復の時間変化のデータを取得することについて他大学と協議を行っている。パラメーター推定法として、カルマンフィルターとマルコフ連鎖モンテカルロ法の適用について予備的検討を行った。前者については平成29年度においても継続して検討を行う。後者については、SASのMCMCプロシジャーを用いて予備的検討を行い良好な結果を得ている。この方法を用いてパラメータの値の95%信頼区間を推定する。推定された各患者のパラメーターの平均値の大小で2群に分け、2群間で死亡あるいは再発をイベントとする生存曲線に有意差があるかどうかをlog-rank testで調べる予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

A simulation study of combining immunotherapy with chemotherapy for AML based on a model including promotion of regulatory T cell expansion by leukemic cell.
Yoshiaki Nishiyama and Nobuaki Nishiyama
BioSystems に投稿中

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

西山 義晃

金沢大学

三分一 史和

統計数理研究所