平成242012)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

24−共研−25

分野分類

統計数理研究所内分野分類

i

主要研究分野分類

5

研究課題名

矩形縦溝を有した鉛直平板を流れる液膜流の熱流動特性

フリガナ

代表者氏名

サトウ ショウタ

佐藤 翔太

ローマ字

Satou Syouta

所属機関

秋田大学

所属部局

工学資源学部機械工学科

職  名

学部生

 

 

研究目的と成果の概要

 生活環境が豊かになった現在,夏の暑い時期に冷房のきいた快適な部屋で過ごすという生活が当たり前になっている.このため,夏には電力の消費が大きくなり,電力不足などの問題が起きている.こうした問題の打開策として電力を消費しない空調システムである吸収式冷凍機が注目されている.この吸収式冷凍機は,ビルなどの空調システムとして幅広く普及している.しかし,大容量機には適しているが,電気で駆動する普通のエアコンと同程度の性能を小型機で実現するのは難しく,一般家庭などへの普及に対する障害となっている.吸収式冷凍機は吸収剤を用いた化学的な方法による冷凍サイクルを形成している.そのため消費電力が少ないという利点を持っているが,装置が大型化するという短所がある.小型化,高効率化を図るのには冷凍サイクルを形成している要素のうちの一つである吸収器の性能を向上させることが効果的である.吸収器には管群式とプレート式の2種類があるが,その中でもプレート型吸収器は単位容積あたりの伝熱面を増加させることが容易である.そこで本研究ではプレート式吸収器を用いる.この吸収器の高性能化を図る方法として,伝熱面を流下する液膜を可能な限り薄くすること,あるいは液膜内の乱れを増大させることが重要となることが過去の研究から明らかにされている.これを満たす方法としてプレート式凝縮器の表面に加工を施すことが挙げられる.この研究では,鉛直に置かれた平板に溝を施すなどの加工を行うことで,表面張力によって溝に液膜が引き込まれ,公称面積における伝熱面積の増加,溝角部で液膜が薄くなることなどから凝縮熱伝達が促進され,熱伝達性能が向上することを明らかにしている.しかし,数値解析による液膜流の研究の多くが二次元での研究であり,三次元での研究は少ない.そこで本研究では報告例の少ない三次元液膜流の数値解析を行い,矩形縦溝を有した鉛直平板を流下する液膜流の相変化を伴わない熱伝達が流下方向にどのように変化するのかを溝のピッチや表面張力の影響を考慮して調べる.
 本研究では周期的に矩形縦溝が複数施されているプレート式吸収器を考える.複数施されている矩形縦溝のうちの一つを切り取る.ここで,溝の形状が中心線を軸にして左右対称であることから液膜の挙動も左右対称であると仮定する.そこで本研究では矩形溝を半分にしたものを解析モデルとして計算を行う.本研究では計算を行う際,鉛直平板上を流下する液膜流を3次元非圧縮流とする.また流れが流下する方向に十分に発達した状態を考える.このとき流れは定常と仮定する.以上の仮定の下,連続の式,ナビエ・ストークス方程式,エネルギー方程式を無次元化したものを基礎式とし,液膜とその周囲の気体との気液二相流の計算を行う.
 本研究では,流れは定常と仮定しているが液膜の定常状態における膜厚分布をあらかじめ知ることはできないので連続の式,ナビエ・ストークス方程式を非定常問題として取り扱いHSMAC(Highly Simplified Marker and Cell) 法とGF(Ghost Fluid)法を用いて解く.その際,質量を保存したままで精度良く界面形状を表すことのできるCLSVOF(Coupled Level Set and Volume Of Fluid) 法を用いる.液膜の時間発展も同時に求めることにより,最終的には定常な速度場と液膜分布を得る.離散化に際しては,計算セルにそれぞれの面に垂直な方向の流速が定義され,流体充填率,レベルセット関数,圧力,流下方向速度,および温度 は計算セル中心定義されるスタッガード格子を採用する.また界面付近での離散化にはGF法を用いて行う.エネルギー方程式は差分法と先に求めた連続の式,ナビエ・ストークス方程式から得られた各速度を用いて解く.
 まずは縦溝を施していない平板で計算精度の確認を行う.平板を流下する気液二相流の流下速度を過去の研究結果と比較する.過去の研究と比較すると誤差は最大でも0.000001%以下と極めて小さい.したがって本研究の計算結果は十分な精度を持っているとみなすことができる.
本研究では鉛直平板に沿って流れてきた液膜流が矩形縦溝に流れ込み発達した定常状態での流下方向熱伝達について考える.液膜分布の初期条件は矩形溝内の壁面に液膜が付着している状態からとする.これを液膜流が定常になるまで計算を行う.計算を行った結果,流れが十分定常になったときに矩形溝頂上角部で液膜が薄くなっているのがわかった.また矩形内部に液膜が流れ込み溝のない部分での膜厚さが減少した.したがって矩形縦溝をつけることにより溝角部で液膜が薄くなること,溝に液膜流が引き込まれることによって溝がない部分でも平板に比べ液膜が薄くなること,また液膜流が縦溝に落ちることで伝熱面積が増加していることから熱伝達の促進が期待できる.
 矩形縦溝を施した平板での定常となった液膜界面形状を得ることができたので,この定常な速度場を用いて気液二相流での温度助走区間問題を取り扱う.これは,グレツ・ヌセルト問題の気液二相流版と位置づけできる.矩形溝をつけたことによって流下方向に熱伝達が平板と比較して発達するまでの距離,発達した際の熱伝達がどのように変化するのかを局所熱伝達,平均熱伝達の計算を行い,明らかにしたいと考えている.その際,溝のピッチや表面張力がどのように影響するのかについても研究を進めている.