平成51993)年度 共同研究B実施報告書

 

課題番号

5−共研−2

専門分類

5

研究課題名

拡張された非平衡熱力学とOnsager-Machlup関数

フリガナ

代表者氏名

キタハラ カズオ

北原 和夫

ローマ字

所属機関

東京工業大学

所属部局

理学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

10 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

非平衡熱力学は緩和のシステム理論として一般性を有し、Onsager−Machlupによって揺らぎに対する経路積分表示が求められた。
最近、流量・力間の線形定常関係が成り立つまでの過渡過程を表現できるように熱力学が拡張されつつある。このような過渡過程に対する現象論的揺らぎの統計理論を構築し、Onsager−Machlup関数を一般化することを目的とする。


熱力学は物理学の理論体系の中でシステム論的性格が強く、保存則と不可逆性を前提とする現象論である。それゆえに一般性をもつ理論体系である。通常の伝統的な熱力学においては、エネルギー、運動量、質量などの保存量を独立変数としてエントロピーを定義し、その増加傾向を不可逆過程と結びつける。「拡張された熱力学」においては、熱流、拡散流などの散逸量も独立変数として取り入れ、振動・波動などの過渡現象も不可逆過程の熱力学の枠組みで捉えようとするものである。この考えた方は、単に熱力学の問題に止まらず、線形システムの統計理論としての一般性を有するものである。
熱力学変数の揺らぎを扱うために導入された経路積分の概念は、オンサーガー・マックラップによって物理的内容を与えられ、揺らぎと不可逆過程との関連が明確となった。拡張された熱力学において、揺らぎと不可逆過程を結びつけるために運動論的研究が必要である。ボルツマン方程式の展開(グラドの方法)によって熱力学の拡張の基礎づけを研究している第一人者であるバルセロナ大学のジョウ教授の来日を機に、昨年9月23日から25日まで、統計数理研究所と日大会館において、国際共同研究のためのシンポジウムを開催した。申請時のときの本研究参加者以外に、青野修、橋爪夏樹、服部真澄、島田一平、清水以知子、杉山勝、寺内隆太郎が加わった[所属機関、職は下記参照]。
シンポジウムの概要は以下のようである。片山と青野は核反応、化学反応における熱力学的力と反応速度の間の線形関係における非局所性を議論した。ジョウは熱流がある場合にエントロピーを拡張すると温度の定義に多様性が出てきて実験との対応が複雑になることを示した。一柳は散逸系も力学の正準形式で表せ、変分原理を適応できることを示した。北原は物質流の存在する場合に熱力学を拡張し、保存量密度の場に対する確率方程式を求め、揺らぎの一般論を展開した。中野と服部は輸送係数が運動論方程式における変分原理から得られることを示し、変分原理が記述の粗視化と関連していることを示唆した。島田は多重安定性をもつ非平衡状態において相の相対的安定性を決めるリャプノフ関数が構成できることをベナール問題について示した。杉山は非調和ポテンシャルで相互作用する原子からなる格子の模型によって、熱伝導、衝撃波などの非平衡現象の微視的理論を展開した。
巨視的非平衡現象を、非平衡熱力学、分子運動論の観点から議論する国際シンポジウムはあまり例がなく、さらに、今回は統計力学、数学、統計学、物性、地質学などの分野からの参加があり、学際的な雰囲気での共同研究であった。これからはさらに非物理系(社会システム、生態系など)にも、熱力学的現象論の展開が期待される。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

北原編、統計数理研究所共同研究リポート60「拡張された非平衡熱力学とOnsager-Machlup関数」
統計数理研究所、1994年3月
K.Kitahara,"Non-equilibrium Thermodynamics of Convective and Reaction-Diffusion Systems and Stochastic
Theory of Fluctuations",熱力学の最近の進展に関するゴールドン会議、1994年10月イルゼー
(ドイツ)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

拡張された熱力学とOnsager−Machlup関数の関連について先駆的研究を進めているバルセロナ大学のJou教授が本年9月日本大学の招聘により来日するのを機会に、過渡現象も含む熱力学・システム理論・確率過程の経路積分・変分原理等の諸問題について国際共同研究を行う。
これは、単に熱力学の問題に留まらず、線形システムの統計理論として一般性をもち、特に、拡散的・散逸的現象しか記述できない従来の熱力学を超えて、波動、振動現象などの過渡現象をも不可逆過程の理論の枠組みで捉えようとするものである。その統計的性格を明らかにするために、3日間統計数理研究所に集まって議論をする。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

一柳 正和

岐阜経済大学

伊藤 栄明

統計数理研究所

岡部 靖憲

東京大学

小嶋 泉

京都大学

片山 善重

日本大学

杉山 勝

名古屋工業大学

David Jou

University Automata de Barcelona

中野 藤生

名古屋大学

服部 真澄

名古屋工業大学