平成242012)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

24−共研−14

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

5

研究課題名

極値理論の土木工学への応用 〜 “経験度”の導入

フリガナ

代表者氏名

キタノ トシカズ

北野 利一

ローマ字

Kitano Toshikazu

所属機関

名古屋工業大学

所属部局

社会工学専攻

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果の概要

極値統計解析とは,得られたデータの外挿を行う技術である.

これは,土木工学において,設計外力を決める際に必要となる.グンベル博士が活躍した時代には,すでに土木工学への応用を念頭にされて研究されているので,いまや十分解決した問題とみなされているが,まだまだ大きな問題が残っている.

極値分布に適合させる事で,非常に小さな超過確率となるクォンタイル点も,原理的には算出できる.しかしながら,そのような推定に対して,推定誤差は非常に大きくなるのが一般的であり,たとえ推定できても,その推定に意味があるとは言えなくなる事は明白である.しかしながら,このような問題に対して,その限界を具体的に与える公式は,これまで存在しなかった.

北野ら(2008)の提案は非常にシンプルである.対象となるクォンタイル点を超過する発生率の対数をとったものの誤差変動の逆数を経験度と定義すれば,得られる経験度の値が,そのクォンタイル点を推定するために用いられた実質的なデータ数に相当する(このような推定に用いられたデータ数という考え方は,いわゆる回帰分析における平均 ar{x} における反応の平均 ar{y} の推定に,全てのデータが用いられていることと同じ考え方に基づいている).この経験度を用いて,その値が2未満となると,推定結果を保留せよ,というルールである.すなわち,「2度あることは3度ある」ということわざに見られるように,2度あれば,3回めも生じる可能性があると判断して,その推定結果を有効とする一方で,経験度が2未満は,その推定を無効(ただし,その態度は,判断の保留であり,積極的に否定するものではない)とする.

以上を踏まえて,本研究では,以下のことを検討した.

このような経験度は,共変量を伴うような極値統計モデルに対しても,定義にしたがって数学的に展開することにより,適用可能である.特に,時間変数を共変量に選ぶことにより,極値の時系列に対して,データの観測された期間から外側にある未来に対する推測・予測について,時間の経過に伴う誤差の増大を考慮できる.推定値そのものが時間依存するのではなく,時間変量を共変量として含む経験度が時間依存するモデルを弱非定常モデルとよび(強定常,弱定常をもじって),観測期間から外側にある未来への時間の延伸に伴うモデルの耐久性について,上述の基準と同じように,経験度が2未満となると保留する.これにより,所与の再現期間に対する確率外力の推定に対して,非常に小さな超過確率に対する外挿の限界だけでなく,実際に,時間が経過する際の未来への外挿の限界も検討できることが重要な観点である.

これらの研究内容は,下記の研究会等で講演し,また,論文にまとめている.

極値統計解析における2種類の外挿とその限界,統計数理研究所オープンハウス,2012年6月15日(統計数理研究所).

Degree of Experience and Durability - Indices for Two Types of Extrapolating Sea Extremes, The 22nd Int. Offshore and Polar Engineering Conference, ISOPE, Rhodos, Greece, June, 17-22, 2012.

OUTLIER SENSITIVITY ON THE SEA EXTREMES BY THE TEMPORAL AND CLIMATE INDEX COVARIATIONS, The 33rd Int. Conference on Coastal Engineering, American Soc. of Civil Engineers, Santander, Spain, July, 1-6, 2012.

Two types of extrapolations for examining sea extremes, The Institute of Statistical Mathematics Cooperative Research Symposium: Extreme Value Theory and Applications(共同研究集会:極値理論の工学への応用),2012年7月26-28日(統計数理研究所).

想定力をつけるための過去の経験の活かし方,沿岸域の防災・減災に関するシンポジウム,名古屋工業大学・高度防災工学センター&(独)港湾空港技術研究所 共催,2013年2月6日開催.

高波の極値頻度解析における歴史資料の取扱い,土木学会論文集 B2 (海岸工学),Vol.68, No.2, pp.I_96-I_100.

降水量の極値の予測区間 〜 確率降水量の信頼区間を誤解していませんか?,土木学会論文集 B1 (水工学),Vol.69, No.4, pp.I_271-I_276.

Properties of the Log-transformed Occurrence Rate, The Institute of Statistical Mathematics Cooperative Research Report, 299, pp.61-66.