平成222010)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

22−共研−2013

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

4

研究課題名

地震波・微気圧データの同時解釈による固体地球−大気結合モデリングのためのデータ同化研究

フリガナ

代表者氏名

ウエノ ゲンタ

上野 玄太

ローマ字

Genta Ueno

所属機関

統計数理研究所

所属部局

モデリング研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

固体地球と大気との間で、何らかの物理的相互作用があることは当然昔から考えられていたが、それを観測的に捉えるためには非常に高精度の観測機器を必要とするため、固体地球−大気結合の議論は長年にわたって机上の空論に過ぎなかった。しかしながら、ここ最近10年間の観測機器の目覚ましい精度向上により、これを示す観測的証拠が次々に発見されるようになった。特に大地震発生に伴って励起された大気振動が、音波として高層大気中を伝播する様子が明瞭に観測される例は多く見つかっており、震央から数百ないし千数百km離れた地点で気圧変動として捉えられるほか、最近ではGPSデータから算出される電離層全電子数(GPS-TEC)の時空間変動から、地震音波が電離層にまで達することがあることが明らかになっている。観測で得られる固体地球−大気結合についてのこれらの特徴は、最近の数値計算によっても定量的に確かめられるようになってきた。
微気圧データ解析は、これまで地震データ解析一辺倒であった固体地球物理学分野に新しい情報および定量的な解析手法を与えることができるという点で、非常に意義がある。しかしながら、主に計算コストの問題から、固体地球−大気結合モデルを解くための数値計算コードや、シミュレーション結果と観測結果とを結び付けてモデリングを行なうためのデータ同化技術は、まだ十分に整備されているとは言い難い。本研究は、固体地球−大気結合モデリングのためのデータ同化技術を開発し、地震データと比べて微気圧データが固体地球の何をどこまで明らかにできるかを追究するために開始した。
本研究に着手後、まずは地震発生によって大気中に励起された音波の波動計算を行なうための土台として、Kobayashi[2007]によって開発された固体地球−大気1次元構造に対するノーマルモード計算コードを並列計算機上に移植した。この準備をした上で、理論波形と観測波形を比較し、モデルパラメータを分布として推定するための粒子フィルタコードの開発を実施した。実際の応用例として、2008年に発生した岩手・宮城内陸地震において、震央から417km離れた房総半島内にある夷隅微気圧観測点において捉えられた明瞭な微気圧変動に適用した。本地震の断層モデルとして、ハーバード大学から提案されている震源解と同じメカニズムのサブイベントを、実際の断層破壊開始点から終端点まで直線上を等間隔に9つ並べたものを仮定し、それぞれのサブイベントによって励起される気圧波形の線形和により、観測点において観測されるべき理論波形を導けるようにした。この際、推定すべき主なパラメータとしては、地震のモーメントマグニチュードM0、断層の破壊伝搬速度V、および高層大気中を吹く風の影響をと考えられる時間シフトt0がある。各大学や研究機関から提案されている断層モデルを基に、これらのパラメータの事前分布を作成し、30秒以上の長周期帯について理論波形と観測波形を比較することにより、開発した粒子フィルタのアルゴリズムを用いて事後分布を求めた。それを最大にするようなパラメータのMAP解としてM = 2.4×1019Nm、V = 3.0km/sec、t0 = 2.0secという値が得られた。求まったMの値はこれまでに提案されている値よりもやや大きめであり、またVの値はおおよそ平均的である。また特筆すべきはt0の値が非常に小さいことで、断層と観測点がほぼ南北方向であることから、地震が起こった時間帯においては南北方向の風がほとんど皆無であったことを意味していると考えられる。
上記のパラメータ値を基に理論波形を再現して観測波形と比較したところ、観測ノイズレベルを考慮すると、ほぼ一致することが分かった。また同様に、広帯域地震波観測網K-netの筑波観測点および都留菅野観測点の地震波波形とも比較したところ、こちらも両者がよく一致することが確認できた。本研究で開発した手法により、観測条件にもよるが、微気圧観測は地震に関して地震波観測に劣らない情報を含有している可能性があることが分かった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

? 論文発表
? H. Nagao and T. Higuchi, Web application for time-series analysis based on particle filter available on cloud computing system, The Proceedings of the 13th International Conference on Information Fusion, Edinburgh UK, We 1.1.3, 2010.(参考URL: http://www.fusion2010.org/)
? H. Nagao, N. Kobayashi, S. Nakano, and T. Higuchi, Fault parameter estimation with data assimilation on infrasound variations due to big earthquakes, The Proceedings of the 14th International Conference on Information Fusion, Chicago USA, accepted.(参考URL: http://www.fusion2011.org/)
? 学会発表
? 長尾大道, 中野慎也, 樋口知之, 微気圧・地震データ同化によって推定されたモデルパラメータの事後分布, 日本地球惑星科学連合2010年大会, MGI017-10, 2010.(参考URL: http://www.jpgu.org/meeting/index.htm)
? H. Nagao and T. Higuchi, “CloCK-TiME”: Cloud Computing Kernel for Time-series Modeling Engine, 3rd International Conference of the European Research Consortium for Informatics and Mathematics Working Group on Computing & Statistics, London UK, E341, 2010.(参考URL: http://www.cfe-csda.org/ercim10/)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特になし。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小林 直樹

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所

長尾 大道

統計数理研究所