平成272015)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

27−共研−2026

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

大学生を対象にした英語学習に対するニーズ分析

フリガナ

代表者氏名

カレイラマツザキ ジュンコ

カレイラ松崎 順子

ローマ字

Junko Matsuzakzi Carreira

所属機関

東京経済大学

所属部局

現代法学部

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

2008年12月24日に文部科学省の中央教育審議会(2008, p.18)が「学士課程教育の構築にむけて」という答申を出し,この中で「英語等の外国語教育において,バランスのとれたコミュニケーション能力の育成を重視するとともに,専門教育との関連付けに留意する」と発表した。山内(2010,p.155)はこれを「大学英語教育におけるESPの必要性が初めて公的に表明されたことを意味する」と述べている。English for Specific Purposes(ESP)とは「それぞれの学問領域や職域においては固有のニーズが存在し,そのニーズによって同質性が認知され,異質性も生じてくる。そして,異質性が認知された各専門領域内では『ディスコース・コミュニティー』集団が形成され,その目的を達成しようとする。その場合,各集団の内外において明確かつ具体的目標を持って英語が使用されるその際の言語研究および言語教育」(深山,2000, p.197)と定義されている。
ところで,ニーズ分析とはシラバスやカリキュラムを開発する際に言語のニーズについての情報を体系的に集めることであるが(Brown, 1994; Richards, 2001),新田(2000)はESPのコース・デザインをする際には,ニーズ分析・目標設定・シラバス・教材の作成・指導法・成績評価・コース評価の過程をとるべきであり,ESPを実践するうえで,最初に行わなければならないのがニーズ分析であると述べている。さらに,清水(2010, p.18)は「ニーズを正確に把握することによって,明確な目的をもったESP教育が展開し,適切な教材,タスク,評価方法などを考慮したプログラムが可能になると共に,それぞれの要素間のフィードバックや見直しを行いながら軌道修正が可能となる」と述べているように,ESP教育においてニーズ分析は重要なものである。よって,様々な分野に属する学部のニーズにあった英語の授業を展開し,また,彼らの英語学習に対する意欲を高め,就職,ないし社会で必要とされる英語力を大学在学中につけさせることは大学の英語教育に携わるものの責任であるといえるであろう。よって,本研究では社会科学系の学部の学生の英語学習に対するニーズ分析を行い,彼らが英語の授業に対してどのような態度や願望を持って英語を学習しているのかを調べることにした。その結果以下のようなことが明らかになった。

1. 本研究に参加した学生は一人で学習すると学習がはかどると思っており,さらに,他の学習者とのペアやグループで勉強することを好む傾向がある一方で,他の学生と英語で話すことを好まない学生が多いことが明らかになった。Young(1990)および北条(1992) は授業中皆の前で学習中の言語を話すという活動において学生が強い不安を感じることを明らかにしているが,一方で,北条はグループ活動やグループに分かれてのゲームや全員で英文を音読するなどの活動においては不安をあまり感じていないことを報告している。他の学生と英語を話すという活動を行う際に,皆の前で発表するなど個人が目立つ活動においては緊張するが,ペアやグループでの個人があまり目立たない活動においては不安をあまり感じることなく英語を話すことができるため,ペアやグループで勉強することを好むと回答した学生が多かったのではないかと推測できる。
2. 本研究に参加した学生は教員が教科書にそって授業を行い,誤りなどがあれば正しく直してくれ,翻訳の練習はためになると考えており,言葉をただ耳で聞くだけでなく目で見ると勉強になると考えていることがわかった。これらは多少の相違点は見られるが,カレイラ(2009)および加茂・藤原(2013)とほぼ同様の結果であり,高校までに受けてきた英語の授業がコミュニカティブなものではなく,いわゆる伝統的な英語の授業を受けてきたためにこのような授業形態を好む傾向があるのであろう(加茂・藤原,2013)。
3. ビデオやDVDなどを使った学習方法を好む学生が多かったと報告しているカレイラ(2009)と同様に,本研究に参加した学生はDVDなどの映像を使って勉強する方法を好む傾向があり,特に,「積極的群」でそれが顕著であった。一方で,コンピュータやインターネットを使って英語を学習することに興味がある学生が少なかったカレイラとは異なり,本研究に参加した学生の多くはコンピュータやインターネットを使って英語を勉強することに興味があり,特に「積極的群」において顕著であった。カレイラが対象とした保育士養成課程の学生と比較すると,経済・経営学部の学生はコンピュータやインターネットに対する関心が高いと推測できる。すなわち,経済・経営学部と保育士養成課程という学部の特性の違いから,このような異なる結果になったのだろうと考えられる。また,カレイラが調査を実施したのは2007年であり,本研究を実施した2012年の5年前である。この5年間の間に,学生を取り巻くInformation and Communication Technology(ICT)の環境は随分変化したため,学生のICTに対する苦手意識や嫌悪感などが減ってきたことも一因ではないかと推測できる。
4. 本研究に参加した学生の多くは,英字新聞やニュースなどの時事英語を学んだり,英語でインターネット上の情報を読んだり,検索する授業を望んでおり,特に,「TOEIC上位群」でそのような授業を好む傾向がみられた。また,リサーチ・クエスチョン1でも明らかになったように本研究に参加した学生の多くはコンピュータを使って英語を勉強することに興味があった。
5. 本研究に参加した学生の多くがTOEICの点数をあげたいと思っており,特に,「積極的群」と「TOEIC上位群」において顕著であった。一方,自由記述式の回答をみてみると,TOEICの点数にかかわらず「積極的群」においてTOEICに関する記述が見られた。これらのことから,英語力が高い学生はもちろんであるが,英語力が低い学生もTOEIC対策の学習ができるような機会を与えるべきではないかと思われる。
6. 本研究に参加した学生の多くが,電子メール,プレゼンテーション,および電話の応対などのビジネスに関する英語の授業を受けたいと思っており,特に,「積極的群」と「TOEIC上位群」で顕著であった。一方,自由記述式の回答をみてみると,TOEICの点数にかかわらず「積極的群」においてビジネス英語に関することを学びたいという記述が見られたことから,英語力が低い学生の中にもビジネス英語を学びたいと思っている学生がいると思われる。ゆえに,英語力が高い学生はもちろんであるが,英語力が低い学生でも学べるビジネス英語のクラスなども提供すべきであろう。
7. 学生が専門科目における英語学習の必要性を認識していることを明らかにしている吉重(2005),中野(2005),および藤原(2011)と同様に,本研究に参加した学生の多くが経済や経営に関する英語に関して学びたいと思っていることが明らかになった。特に,「TOEIC上位群」においてはそれが顕著であることから,英語力が高い学生のために,経済や経営など彼らの専門の分野を英語で学べる学部の専門教員が教える授業などを開講すべきであると示唆できる。
8. 本研究に参加した学生の多くは英語でコミュニケーションを行う授業や英語のネイティブスピーカといつでも会話できるような場所があったほうがいいと望んでおり,特に,「TOEIC上位群」においてそのような傾向が顕著であった。また,自由記述式の回答にも「英語を話す授業」「実用的な英語」などという記述が最も多く見られた。これらのことから,本研究に参加した学生は実際に使える英語を学び,英語を話せるようになりたいと思っていることがわかる。これらは吉重(2005)や中野(2005)と早坂(1995)と同様の結果であり,学部にかかわらず大学生が最も受講したい授業は英語でコミュニケーションを行う授業であり,最も伸ばしたいと思っている英語力は「話す力」であると推測できる。また,外国人との交流を望む回答がどのグループにも見られ,特に,「TOEIC上位群」や「積極的群」では「とにかく英語に慣れるため,英語だらけの環境にいたい」など英語漬けの環境にいたいという回答や「留学したい」「学生全員が必ず留学できるシステムにして海外との交流を深めたいです」など留学を希望する回答がいくつかみられた。
9. 本研究に参加した学生の多くは英文法を学びなおす授業を受けたいと思っていることが明らかになった。これらのことから,学生のレベルにあわせた英文法を学び直す授業というものを提供すべきであると示唆できる。しかし,「TOEIC下位群」の学生の自由記述式の回答には「文法を学び直したい」「基礎から」という記述が少数であるが見られたが,一方で,「楽しい」という記述が多く見られたことから,彼らは文法などの英語の基礎が足りないということは理解しており,基礎から学びたいとは思っているが,中学校や高等学校で行われたような教え方ではなく,楽しく学びたいと思っていることが推測できる。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

「法学系の学生を対象にした英語学習に対するニーズ調査」東京経済大学人文自然科学論集139号
「経済・経営学部の英語の習熟度の低い大学生を対象にした英語学習に対するニーズ」Language Education & Technology, 51号


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特になし

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

前田 忠彦

統計数理研究所