平成172005)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

17−共研−5

専門分類

8

研究課題名

リスクマネジメント時代の人口・経済・社会保障の超長期推計

フリガナ

代表者氏名

マツクラ リキヤ

松倉 力也

ローマ字

Matsukura Rikiya

所属機関

日本大学

所属部局

人口研究所

職  名

准研究員

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

 

 

 

研究目的と成果の概要

2004年のわが国における合計特殊出生率は1.29人となり、このような最近における低出生率の動向は、2002年10月に日本大学人口研究所が報告した「人口・経済・社会保障モデルによる長期展望?人的資本に基づくアプローチ?」と題する報告書の後半で展開されている推計作業の結果(2003年の予測値1.30、2004年の予測値1.29)とほぼ一致している。これに対して、国立社会保障・人口問題研究所が行った2002年人口推計では、2004年の合計特殊出生率は1.32人と想定していた。このような政府推計の現実からの乖離は、わが国の社会保障の長期展望に大きな狂いを生じさせることになる。また異なる推計結果は、日本大学人口研究所と国立社会保障・人口問題研究所の人口推計方法における方法論の違いに大きく起因している。前者は出生率・死亡率を内生化しているのに対して、後者は単に出生率・死亡率の動向を外生的に仮定しているのみであり、出生率・死亡率の将来動向に関する仮定が政策的に操作される可能性は極めて高いと言えよう。
しかしながら、このような人口推計の方法論に関する深刻な問題はわが国だけのものではなく、欧米諸国の先進国でも推計値にわが国ほどではないにしろ、相当なずれを生じてきている。特に、2000年10月に学術雑誌『Nature』に発表された論文では、わが国の平均寿命に関する政府による推計値がG7諸国の中では極端に低く見込まれていることが示されている。すなわち、長期的に生じる寿命推計誤差の大きさがG7の中では一番大きくなる可能性が高く、そのような推計誤差の社会保障制度に与える影響も先進諸国の中で最も深刻となることがNature論文で示唆されている。このような人口推計における問題点を克服する解決策として、近年、欧米を中心として新しい推計手法が続々と開発されてきている。日本大学人口研究所の人口推計も、90年代末よりこれらの新手法の中で時系列データをベースにした確率モデルを死亡率について確立しているが、今後は出生率についてもこのアプローチを導入することにし、さらに、同様な推計手法を経済成長率の将来動向予測に適用することを試みることにした。出生率・死亡率・経済成長率を同時に確率モデルで推計したケースはこれまでも世界で例がないのである。
確率モデルの推計にあたっては人口・経済・社会保障の各サブモデルをリンクさせ、各部門が独立するのではなく、各部門がそれぞれ関係するモデルを構築することを目的にしているため、作業には相当な時間を要することになった。
社会保障に関しては医療・年金の制度の変更をできるだけ加味したモデルを作成した。ただ、介護保険等のモデル化については完成しておらず、今後の課題となっている。さらに、高齢者の医療費の推計にも重点をおいているが、通常、公表されているデータでは70歳以上の高齢者を一つのグループにまとめている。通常、年齢と共に疾病パターンやコストが上昇するためこの高齢者グループに関しては、より詳細な年齢別の値が必要となる。これらの値に関する特別な集計は政府に交渉中であり、これらのデータを収集し、さらに精度の高いモデルを作成する。
経済モデルの構築においては、データの制約上の問題がある。モデル構築のためには長期的なデータが必要となるが、経済指標の基となるSNAの変更もあり、63SNAを使用するのか、93SNAを使用するのかによって、どちらがいいのかが問題となった。これは時系列データのサンプル数という問題と社会保障で使用しているデータとの互換性という問題もあり、同時に全く異なるモデルを作成しなければならなく、現時点においても、まだ完成に至らなかった。
人口モデルの場合には従来から死亡率の確率推計モデルを経済にリンクさせるモデルを完成させているが、出生率についても経済変数とのリンクを完成させる確率モデルを開発した。モデルのパフォーマンスに関しては妥当な結果となっている。
これらの各サブモデルに関して一部を除いては完成しており、最終段階ではないがシミュレーションが可能な状態にあるが、確率的に推計するまでには至っていない。当プロジェクトで予定していた確率モデルでは、各年にランダムで1000回を回し、その値から統計的有意水準の値を計算するモデルであり、各期に1000回もの回数を回すためには、大型コンピュータを使用して収束しなければならなかった。しかし、最終的な推計モデルまでは完成していないが、推計した結果の一部はジャーナルや国際会議で発表した。