平成252013)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

25−共研−2024

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

3

研究課題名

身長分布の経年変化に関する詳細な推定

フリガナ

代表者氏名

イワタ タカキ

岩田 貴樹

ローマ字

Iwata Takaki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

リスク解析戦略研究センター

職  名

特任准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

31千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 本研究課題の目的は、身長が従う分布の、詳細な経年変化を求めることである。身長は、正規分布に従うデータの典型として、教科書などでよく取り上げられるが、実際にそうであるかどうかは、未だに議論が分かれる(例えば、Limpert [2001, BioSci])。
 Kuninaka et al. [2009, J. Phys. Soc. Jpn.](以下、K2009)では、文部科学省による学校保健統計調査をデータとし、人間の身長分布が正規分布・対数正規分布のどちらに近いかを、年齢および性別ごとに調べた。その結果は、男女共、幼年期の身長は対数正規分布に近く、成長期にかけて正規分布に移行するというものであった。
 本研究課題では、K2009の結果の再検討を試みた。まず、K2009が解析したものと同じ学校保健統計調査から、歪度の経年変化を求めたところ、幼年期や成長期の前半では歪度が正であるのに対し、成長期の後半では、歪度が負になっていることが分かった。K2009が見出した「対数正規分布から正規分布への移行」は、この歪度が正から負へと変化することと対応しているに過ぎないと考えられる。歪度が0である正規分布と、歪度が正である対数正規分布とを、歪度が負であるデータに当てはめて比較すれば、正規分布が選ばれることになるのは当然だが、これはあくまで限定された2つの分布の比較の結果でしかない。歪度が負であることを注視すれば「対数正規分布、正規分布とも真の分布たり得ない」と考える方がむしろ正しく、K2009の結果には問題があると解釈すべきである。
 歪度が正から負へと移行する理由を考察すべく、身長の分散も調べたところ、幼年期から成長期前半にかけては、年を経ると共に大きくなり、成長期後半では小さくなることが分かった。また、幼年期から成長期を通して、身長の平均は増え続けることと、そしてK2009が解析した学校保健統計調査では、年齢階級幅が1年と幅があることと合わせると、成長期前半では平均が増えると同時に分散も大きくなるような分布を混合したものを得ることになる。このような分布を混合すると、仮に元の分布が正規分布のような左右対称な分布(歪度がほぼ0)の分布であったとしても、歪度が正となる分布を得る。また、それと全く逆のことが成長期後半には起き得る。即ち平均が増えると共に分散が小さくなるような分布を混合したものは、歪度が負となる。このような分布の混合効果を考慮しなかった点が、K2009における問題の主要因と言える。
 そして、この点を確かめるため、次のような数値シミュレーションを行った。いくらか単純ではあるが、ある年齢tにおける身長が、A+Btanh[(t-t0)/s]と表され、パラメータA, B, t0, sは正規分布に従うとするモデルを考える。各パラメータの平均および標準偏差を実際のデータに合うように求め、こうして得られたパラメータの分布からリサンプリングした10000例のパラメータセットを上のモデルに代入することで、擬似的な身長分布を生成した。こうして得た身長分布について、歪度の連続的な経年変化を計算した。同時に、1年ごとの階級に分けた上で計算した場合の歪度も求め、両者を比較することで、歪度の変化が生じうることを示した。
 以上の内容は、論文としてまとめ、J. Phys. Soc. of Japanより、2013年夏に出版することが出来た。
 さらに、区分線形関数を用いたベイズ平滑化による解析も行った。身長が従う確率分布に正規分布を仮定し、その正規分布の平均および標準偏差が滑らかに経年変化するような拘束条件下で、人体生活工学研究センターによる「日本人の人体計測データベース1992-1994」にある、6歳から18歳の児童・生徒の身長データへの当てはめを行った。まだpreliminaryな推定結果ではあるが、標準偏差の経年変化が、幼年期から成長期初期にかけて増大し、成長期後期にかけて減少する様子を捉えている。そして、この推定結果に基づく平均と標準偏差の経年変化に従う正規分布を多数重ね合わせたものは、実データを1年ごとのbinに入れた結果得られる身長分布を十分説明し、その歪度の変化を再現出来ることも分かった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表
- Iwata, T., Y. Yamazaki, and H. Kuninaka, Apparent transition in the human height distribution caused by age-dependent variation during puberty period, J. Phys. Soc. Jpn., vol. 82, 084803, 2013.
- Kuninaka, K. and M. Matsushita, Multiplicative Modeling of Children's Growth and Its Statistical Properties, J. Phys. Soc. Jpn., vol. 83, 034801, 2014.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

(開催なし)

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

國仲 寛人

三重大学

山崎 義弘

早稲田大学

吉本 敦

統計数理研究所