平成262014)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

26−共研−13

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

1

研究課題名

ショック時の日経平均先物の価格変動について

フリガナ

代表者氏名

アベ チアキ

阿部 千晶

ローマ字

Abe Chiaki

所属機関

同志社大学

所属部局

商学部

職  名

学部学生

 

 

研究目的と成果の概要

ボラティリティと市場に流入する情報量の関係に着目し、日経平均先物の高頻度データを用いて日本株式市場におけるサプライズを検証した。日経平均株価は日本の株式相場を表すために、東証一部上場企業の中から取引が活発で流動性の高い225銘柄を指数化した日本株式市場の代表的な株価指数である。日経平均株価は株式市場の動向を表すことで日本の実体経済の変動を表しているとする考えもあり、日々ニュースや新聞でその動向が報道される。この指標の構成要素となる各採用銘柄の株価は、最も基本的な理論によれば企業の将来にわたる期待配当の割引現在価値によって決まると考えられている。しかし、現実ではこれらの企業の株価は、景気や海外情勢といったマクロ要因にも影響を受けるため、投資家は個別企業の業績だけでなく、マクロ要因にも即時的に反応することがある。そのため、経済指標の発表や金融政策のアナウンスメントといったマクロ的なサプライズ対しても各株価が反応し、結果的にこれらの株価の指数である日経平均株価がマクロのサプライズに対して即時的に変動すると考えられる。
マクロ的なサプライズの発生源は、その時点における市場の関心や状況に応じて、ある月は雇用統計の僅かな予測との乖離に反応したが、翌月は市場予測と乖離が大きかったが反応していない、あるいは金融政策のアナウンスメントにもサプライズの大小が異なる、というように変動的である。このようなサプライズの定量的な測定は困難であるため、サプライズを多様な観点から分析する必要がある。したがって、本稿ではVAR分析やインパルス応答、ボラティリティ変動モデルといった多様な観点からサプライズや株式市場への情報流入を捉え、サプライズによる価格変動を分析する試みを行った。また、実体経済の変動を表しているとされるのは株価指数であるが、実際に市場で取引されている現物商品は各構成銘柄であり、日経平均株価は直接取引を行うことはできないため、本稿では直接取引が可能である日経平均先物を用いている。特にサプライズ発生時においては、日経平均株価の現物取引よりも、取引コストの観点や流動性の観点、取引時間や値幅制限の現物市場との違い、空売り規制といった売買制度の観点から、日経平均先物が分析対象として有効であると考えられる。
VARモデルとインパルス応答による分析では、ボラティリティに応答して取引量(情報流入)や収益率が変動し、情報流入に応答してボラティリティや収益率が変動していることや負のショックの影響が正のショックに比べて大きいこと、大規模ショックにおいて、その影響を受ける期間が長期化するといった変数間の因果関係やボラティリティの特徴を確認できた。これらをふまえ、GARCHモデルにより金融時系列データに観測されるボラティリティは含められるべき説明変数が欠落していると考え、情報流入仮説およびARFIMAモデルといったRVを用いたモデルを用いて検証した。このボラティリティ推定モデルによる分析では、RVを取り入れたARFIMAモデルやGARCH-RVモデル、取引量を取り入れたGARCH-VOLモデルが有用であることを示す結果を得られた。これらの結果は先行研究の結果と矛盾しておらず、RVや情報流入仮説の有効性を確認できた。すなわち、取引量を情報流入の代理変数としてボラティリティ推測モデルに組み込むことで、間接的にショックを捉えたモデルが一定の有用性をもつこと、RVを取り入れ、長期記憶性を考慮したモデルが一定の有用性をもつことが分かった。