平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2009

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

4

研究課題名

磁力線固有振動数とGPS-TECの統合インバージョンによるプラズマ圏密度全球分布推定

フリガナ

代表者氏名

カワノ ヒデアキ

河野 英昭

ローマ字

Kawano Hideaki

所属機関

九州大学大学院

所属部局

理学研究院・地球惑星科学部門

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

40千円

研究参加者数

5 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

地球のまわり、電離層の外側には、プラズマ圏と呼ばれる領域が広がっている。この領域は、地球磁力線に沿って電離層から流れ出したプラズマによって満たされている。このプラズマ圏の磁気嵐等による変動を調べる事は磁気圏物理の重要なトピックであり、その為に、プラズマ圏プラズマの密度の全球3次元分布 (以下 n(r) ) を知る事は重要である。

その密度分布情報を含むデータの一つに、GPS-TEC のデータがある。GPS 衛星は現在全30機同時運用されており、地球に向けて電波を送っている。それを地上の受信点や低高度衛星で受信すると、GPS 衛星と受信点を結ぶ直線 (LOS: Line of Sight) に沿ってのプラズマ電子密度の積分量:TEC(Total Electron Content)を求められる。

また、別のデータとして、地上磁力計や人工衛星搭載磁力計で観測される磁力線固有振動数のデータがある。すなわち、磁力線共鳴(Field-Line Resonance、以下 FLR)と呼ばれるメカニズムによって地球磁力線が固有振動すると、それを磁力計で観測する事ができ、その振動の周波数(磁力線固有振動数、以下 fFLR)が得られる。そして、その fFLR は、磁力線の「重さ」、すなわち「磁力線に沿ってプラズマ質量密度を積分した値」(この量を以下 M とする) と逆相関の関係にあるので、磁力計で観測した fFLR から M が推定できる。

以上の2種のデータが与えるのは、求めたい3次元プラズマ密度分布に対して、異なる方向に沿っての積分値である。すなわち、GPS-TEC データでは LOS 沿いの積分値、fFLR データでは地球磁力線沿いの積分値である。本研究の目的は、GPS-TEC データと fFLR データを組み合わせて、両データの特性を生かしたトモグラフィー的手法によってプラズマ圏プラズマ密度全球3次元分布を推定する事である。

上記推定の為に我々が考案した方法論があり、その妥当性の確認の為、昨年度までに、双子実験的手法による以下のテストを行った。まず磁力線沿いに密度未知の点を3点設定した:第1点は地球から最も遠い位置、第2点は磁力線が地球を離れてすぐの位置、第3点は第1点と第2点の中間に設定した。そして各点での密度を変化させ、そのデータに上記方法論を適用し、GPS-TEC 項(GPS信号受信機は地上にあると設定)と fFLR 項それぞれの寄与度を調べた。その結果、「fFLR 項は地球から遠くで効く(第1点)」「GPS-TEC 項は地球近くで効く(第2点)」「左記2つの項が同程度に効く領域も存在する(第3点)」事が判った。本研究が有用なのは fFLR 項と GPS-TEC 項が同程度に効く領域なので、そのような領域(第3点近傍)で生じる自然現象に本研究の方法を適用するのが最も有用であると結論した。

ただ、fFLR 項と GPS-TEC 項それぞれについて n(r) の変化に対応した変化率を調べると、全般に GPS-TEC 項の方が変化率がずっと小さい(その為、本研究の方法の有用性が高い領域も狭くなってしまう)事も判り、本年度はその原因の推定とそれに応じた方法論等の改良について研究した。

その原因として考えられるのは2点ある。そのうち影響のより大きい原因として、GPS-TEC は GPS 衛星から地上までの LOS 沿いの電子密度の総和を測るので、途中の電離層の密度も足す事になり、電離層の密度はプラズマ圏の密度より非常に大きいので、プラズマ圏密度が変化してもそれに対応した GPS-TEC の変化率は小さくなる、という原因が考えられる。

次の原因として、上記では判りやすさのために「磁力線」と書いていたが、実際には「磁束管 (magnetic flux tube)」である。これまでその太さ(半径)は恣意的に決めていた(上記第1点で地球半径の 0.1 倍)が、それが小さすぎた可能性が考えられる。これは、FLR が生じる磁束管の半径が小さいほどその磁束管内の密度(の LOS に沿っての総和)が GPS-TEC に占める比率も小さくなるので、GPS-TEC の変化率も小さくなる、という考えである。

上記の第1の原因への対応としては、まず方法論の改良が考えられる。プラズマ圏に仮想的に 3D grid を張ったとして、上記方法論では隣接する grid points での密度の変化量が小さい、という平滑化条件を採用していたが、方法論改良として、変化量でなく【変化量を平均値で割った値】が小さい、という平滑化条件を採用する。これにより、background density の影響が均一化されるので電離層の影響をより小さくできる、と考えられる。

第1の原因への対応として次に考えられるのは、GPS信号を受信する低高度人工衛星(電離層より高高度)も存在し、その衛星が観測するTECには電離層密度が含まれないので、そのデータも上記方法論を適用する対象に加える事である。

上記の第2の原因への対応としては、磁束管は自然界の構造なのでその半径も自然現象のタイプによって異なり、その中で半径が大きい自然現象ほど本研究の方法を適用する事が有用であると考えられる。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

河野英昭、上野玄太、才田聡子、中野慎也、樋口知之、磁力線共鳴周波数とTECの統合インバージョンによる磁気圏密度分布推定、統計数理研究所共同研究集会「宇宙環境の理解に向けての統計数理的アプローチ」、統計数理研究所、2016年10月21日。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

(開催しなかった。)

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

上野 玄太

統計数理研究所

才田 聡子

北九州工業高等専門学校

中野 慎也

統計数理研究所

樋口 知之

統計数理研究所