平成31991)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

3−共研−41

専門分類

5

研究課題名

大自由度複雑系のダイナミクスと統計

フリガナ

代表者氏名

カネコ クニヒコ

金子 邦彦

ローマ字

所属機関

東京大学

所属部局

教養学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

7 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

自由度の大きな非線型系の示す振舞をカオス結合ネットワーク,Coupled Map Lattice等を用いて研究する。特にそのような系のダイナミクスの性質と統計的性質の関連を追求する。大自由度系のダイナミクスとしてカオス偏歴現象や強い不安定性を消した恒常カオス,また発達カオス中での大数の法則の破れなどを既に見出してきたが,これらにおける統計性,ダイナミカルな機構を探るとともに,情報処理の問題などへの応用を考える。


大自由度系の複雑なダイナミスを以下の1、2のトピックについて行なった。
1.時空カオス:空間に広がった系でのカオスは、流体、固体物理、化学反応系等多くの分野で見られるが、カオスを結合したcoupled map lattice(CML)によって調べている。これらにつきその現象学や定量的記述、リヤプノフ解析等のまとめを行なうとともに、新たに、以下の2つの研究を進めた。
(A)速度選択を持った伝搬波:強結合のCML(具体的には、Xn+1(i)=(1-ε)f(Xn(i))+ε/2(f(Xn(i+1)+f(Xn(i-1))):f(x)=1-ax2 :iは空間格子点,nは時間)で波の伝搬を発見した。この際,アトラクターとして許される速度は選択された基本速度をv として、v,2v,3v,... に中心をもつ狭いバンドにのみ存在している。この機構とカオス抑圧、パタンの非対称性との関連を調べた。伝搬をもたらすのは、位相が2進む局所的構造であるが、系全体を動かすために大域的相互作用を形成する。そのため速度は、その様な構造の個数に比例して増加する。一般にカオスはほとんど消されているが、系のサイズ、パラメタによっては弱いカオスが残存している場合もあり、この時にはカオスにより、速度の自発的スイッチを生じる。これはアトラクターの残骸の間のカオス的遍歴とみなせる。
(B)対流現象のモデル化:対流現象への簡単な CMLモデルを導入し、NavierStokes方程式なしでも、対流の様々なパタン、転移などを再現できることを示した。実際このモデルはロールの形成、カオスのオンセット、時空間欠性、そしてソフト乱流からハード乱流の転移まですべての実験結果を定性的には再現する。
2.大域結合カオス系:非線形要素が大域的に結合した系は、固体物理(ジョセフソン結合系や、電荷密度波),多モードレーザー,流体の渦や,重力相互作用する星の集団等にあらわれるのみならず,進化系,免疫系,神経ネットワーク等の生物情報処理にも重要である。この問題を大域結合マップにより調べた。これは要素系のカオスと結合の大域性を残したミニマルモデルであり、具体的にはロジスティックマップを平均場で結合したモデルXn+1(i)=(1-ε)f(Xn(i))+ε/NΣf(Xn(j)) や振動子としてのサークルマップを結合したモデル中心に調べた。以前の研究で(a)完全にひきこんで振動するコヒーレント状態(b)数個のクラスターにわかれてそれぞれでそろって振動する状態(c)多くのクラスターに分かれた部分的引き込み状態(d)各要素が完全にバラバラに振動する乱流相の間の転移を明らかにしたが、以下の点を進めた。
(A)乱流相での大数の法則の破れの起源とその機構としての隠れた秩序の実態:もし乱流相の運動がバラバラで各要素に何ら相関がなければ平均場hn=1/N Σf(Xn(j))はN個ランダム場の平均とみなせる。デタラメな変数N個の平均は大数の法則によって、そのび分布P(h)の分散は Nとともに1/Nで減少することが予想される。ところがわれわれの系では平均場の分散はあるサイズまでは減少するが、それ以上ではある有限の値に保たれる。つまりカオス結合系はそれがバラバラに振動していても、要素間に有限の相関が無限サイズでも残っていることを意味する。この結果は、局所マップのカオスが伸ばす部分と縮む部分からなりたっていれば普遍的にみられた。これは、単なる雑音とカオスの違いを明確に示している。
(B)部分秩序相の分割の複雑さ:この相においては、大小さまざまなクラスターが混在したアトラクターが多く実現する。典型的アトラクターは多くのクラスターを持つが各クラスターへの要素の個数は大小様々であり、またクラスター間の距離も大小にわかれ、それによってクラスターは階層構造をなしている。この階層は非一様な樹枝状構造をなしている。つまり、まず状態はおよそメガクラスターにわかれそれがまた細かくわかれるという構造を自発的に形成している。クラスターへの分割の仕方の揺らぎがこの相で増大しており、サイズが大きくなっても残存していることを見いだした。この揺らぎの増大はスピングラスでもみられるが、我々の系では定量的普遍性は存在しない。更に大域結合カオス系ではクラスターは動的に変化する。分割の樹枝状構造の時間的変化を調べ、動的複雑さの定量化をおこなった。部分引き込み相では秩序状態と乱れた状態を行ったり来たりするカオス的遍歴がしばしば見られるが、その時にはクラスターの動的離合集散がおこり、上の動的分割の揺らぎが増大する。
(C)ハミルトン系でのクラスター運動とカオス:ハミルトン系でのクラスター化を調べるために長距離相互作用する粒子系を調べた。その結果、粒子数が少ない時には、クラスター運動が存在することが分かった。この場合、散逸による引き込みはないから、クラスターといっても完全に同期して動くのではなく、内部的揺らぎ

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

T.Konishi and K.Kaneko "Clustered Motion in Symplectic Coupled Map Systems", J.Phys,A, submited
T.Ikegami and K.Kaneko "Evolution of Host-parasitord Network through Homeochaotic Dynamis",Chaos 2 (1992) No.3
K.Kaneko,"Mean Field Fluturn of Network of Chastic Elemets",Phyoria D 55 (1992) 368-384
Theory and Applicutions of Conpled Map Lattices (Wiley, 1992出版予定)(K.Kaneko編集及び第1章)
柳田達雄&金子邦彦,Coupled Map Lattice for Convection (日本物理学会(1992.3月) 及び ICHMT International Symposium on Spatiotemporal Chaos) 1992.5月
金子邦彦 Simulation Physics with Coupled Map Lattice ;計算物理国際シンポジウム,1991.10月
金子邦彦 Spatiotemporal Chaos with Conpled Map Lattic ;乱流とカオス国際ワークショップ,1992.1月
金子邦彦 Network of Chaotic Elemets;Nonlirear Dynamis in Opticel Systems ワークショップ, 1992.6月

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

カオス結合系においては,準安定状態をゆっくりと偏歴する現象が知られている。このダイナミクスをうむ機構を調べ,また準安定状態滞在の時間分布や緩和過程を調べる。最近,散逸のないハミルトン系でもこのような現象を見出したので,このような場合の秩序化の機構や,拡散の統計分布などを調べる。次に大自由度カオスでは,ある程度近付いたのちに代数の法則を破ることを昨年見出したので,その破り方の機構やその際の平均場の統計分布を調べる。上述のような現象は多種の相互作用した進化のモデルでも起りうるのでシミュレーションを通しその意味を探りたい。情報処理への応用も含めて,統計数理と関連する学際的課題なので研究所のスタッフとの交流により新しい分野,視点を開きたい。研究上,グラフィックスを含むシミュレーションが重要なので研究所の計算機も使用したい。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

池上 高志

東京大学

伊庭 幸人

統計数理研究所

小西 哲郎

名古屋大学

時田 恵一郎

大阪大学

柳田 達雄

北海道大学

吉村 勉

東京大学大学院