平成101998)年度 共同研究A実施報告書

 

課題番号

10−共研−74

専門分類

7

研究課題名

真核生物の起源と初期進化

フリガナ

代表者氏名

ハシモト テツオ

橋本 哲男

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析研究系

職  名

助教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

9 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

さまざまな分子の配列情報デ−タに基づく分子系統解析を総括的に行なうことにより、真核生物の起源と初期進化の過程に関する新たな生物学的知見を得ることを目的とする。


配列情報データがほとんど報告されていない下等真核生物のいくつかについて、遺伝子解析により、リボソームRNA、ペプチド鎖伸長因子、アミノアシルtRNA合成酵素、熱ショック蛋白質、ATPアーゼなどのオリジナルデータを得た。
これらの分子種を含め、データベース上に存在する多くの分子種のデータについて、古細菌、真正細菌、および真核生物の既存の相同配列をアライメントし、塩基やアミノ酸置換に関するさまざまな確率モデルに基づいて、真核生物の系統的位置、真核生物内部の系統関係を最尤法により詳細に検討した。また、さまざまな分子種による推定結果を統計的に総合評価した。
その結果、以下のことが明らかとなった。
(1)真核生物のゲノムを構成する遺伝子群のなかで、遺伝情報の伝達に関与するもののほとんどは古細菌由来、代謝に関与するもののほとんどは真正細菌(グラム陰性菌)由来である。すなわち、真核生物の祖先型が古細菌と真正細菌のキメラとして成立したとの可能性が示唆される。
(2)ミトコンドリアをもたない真核生物の主要な4つの分類群のいづれもが、進化の過程でミトコンドリアを2次的に失ったものと考えられる。
(3)ミトコンドリアをもたない分類群の1つである微胞子虫類は、以前示唆されていたように真核生物の最も古い分岐を示す分類群ではなく、むしろ菌類に近縁だとの可能性が高い。
さらに、非常に古い時代の生物の分岐を推定する際のデータ解析上のさまざまな問題点を整理した。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Hashimoto, T., Sanchez, L.B., Shirakura, T., Muller, M. and Hasegawa, M.,Secondary absence of mitochondria in Giardia lamblia and Trichomonas vaginalis revealed by valyl-tRNA synthetase phylogeny. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 95, 6860-6865 (1998)

有末伸子, 橋本哲男, 白倉哲郎, 長谷川政美, 微胞子虫類におけるミトコンドリアの2次的喪失, 日本遺伝学会第70回大会, 1998年9月23日
岩部直之, 隈啓一, 宮田隆, 真核生物の初期進化におけるキネシン重鎖遺伝子族の多様化,日本遺伝学会第70回大会, 1998年9月24日
橋本哲男, 白倉哲郎, 有末伸子, ミトコンドリアをもたない原虫類の起源と進化, 日本寄生虫学会東日本支部大会, 1998年10月24日

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

真正細菌、古細菌、真核生物の3つの超生物界に共通に存在する全ての分子種について、相同性探査解析に基づき相同種を同定し、それら全てのアライメントを構築する。さらに最尤法による分子系統樹解析を行ない、個々の解析結果を総合評価することにより、真核生物の起源に関する考察を行なう。一方、真核生物の進化の早い時期に分岐したと考えられるいくつかの原生生物種のうちミトコンドリアをもたないものに関して、ペプチド鎖伸長因子、アミノアシルtRNA合成酵素、熱ショック蛋白質、ATPア−ゼ等の遺伝子解析・分子系統樹解析を行ない、真核生物の初期進化におけるミトコンドリア様オルガネラの共生の意義について考察する。複数配列アライメントおよび最尤法による分子系統樹推定の大規模計算を効率よく行なうために統計数理研究所における共同研究がぜひとも必要である。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岩部 直之

京都大学

岡林 環樹

酪農学園大学大学院

隈 啓一

京都大学

白倉 哲郎

祇園歯科クリニック

中村 文規

昭和大学

長谷川 政美

統計数理研究所

宮田 隆

京都大学

矢野 隆昭

昭和大学