平成272015)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

27−共研−2071

分野分類

統計数理研究所内分野分類

g

主要研究分野分類

3

研究課題名

古代ゲノム解析による日本列島の人類史推定

フリガナ

代表者氏名

オオタ ヒロキ

太田 博樹

ローマ字

Oota Hiroki

所属機関

北里大学

所属部局

医学部 解剖学

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

7千円

研究参加者数

6 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

目的
 日本列島における先史時代には、形態学的にそれぞれの時代に大別できる2つの系統、縄文人と弥生人、が知られており、両者と現代日本人の関係を説明する学説が数多く提唱されてきた。それらは (a) 変形 (transformation)、(b) 置換 (replacement)、(c) 混血 (hybridization)の3つのモデルに分類できる。変形モデルでは生業の変化に伴い縄文人の形態に変化が起こり今日の日本列島人が成立したとする。一方、置換モデルでは縄文人がアジア大陸から渡来した弥生人と入れ替わったと考える。そして混血モデルは縄文人と弥生人の混血によって現代日本人が形成されたとする。混血モデルに分類される最も有名な仮説が『二重構造説』である。これまでのmtDNAやY染色体など個別の遺伝子座およびゲノムワイドSNPデータにもとづく研究は混血モデルを支持している。

成果(経過)
 ゲノムワイドSNPデータをもちいて,間野修平が提案したコンピュータを援用したベイズ統計に基づくデータ解析をおこなった。アイヌを縄文人、現代中国人を弥生人と仮定し、上記3つのモデル(a)(b)(c)の間のベイズ因子を計算したところ、混血モデルが強く支持されることが明らかになった。人類学や考古学の知見を考慮したさらに複雑なモデルを推定したところ、縄文人には既に分集団構造があり、約1万8千年前に縄文人と弥生人の祖先が分岐し、5〜6千年前に混血が始まったことが示唆された。
 考古学的データから弥生時代の始まりは約2千5百年前とされている。私たちの縄文人と弥生人の混血の時期の推定値は古い方に偏っており、それはアイヌを縄文人、現代中国人を弥生人とした単純過ぎる仮定に起因すると考えられる。一つの有力な仮説は、縄文人は分集団化していて、弥生人と混血した縄文人の系統とアイヌの祖先の縄文人の系統が遺伝的に異なっていたというシナリオである。つまり私たちはアイヌの祖先の縄文人と弥生人の混血を見ていたため、弥生人と混血した縄文人の系統とアイヌの祖先の縄文人の系統の共通祖先まで遡っていた可能性がある。これは現代人のデータをもちいている限り避けられない問題であり、縄文人のゲノムを高精度で解読することにより検証可能となる。
 太田博樹らはこれまでに113個体の先史時代人骨のDNA分析を行ってきた。このうち縄文人骨は15個体で、12個のライブラリーを作成し、イルミナ社のMiSeqのショットガン・シークエンシングによるプレスクリーニングを行い、そのうちの1つで2.6%のマップ率(内在DNAの割合)を得た。国際的な古代ゲノム研究の共通認識としてマップ率1.0%以上ならゲノム解読に値する基準となっている。そこでこの「チャンピオン試料」に焦点を当てた高精度ゲノム解読を進めている。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

S. Nakagome, T. Sato, H. Ishida, T. Hanihara, T. Yamaguchi, R. Kimura, S. Mano*, H. Oota* and The Asian DNA Repository Consortium

Model-based verification of hypotheses on the origin of modern Japanese revisited
by Bayesian inference based on genome-wide SNP data
Molecular Biology and Evolution (2015)
(査読有)

T. Sato, S. Nakagome, C. Watanabe, K. Yamaguchi, A. Kawaguchi, K. Koganebuchi, K. Haneji, T. Yamaguchi, T. Hanihara, K. Yamamoto, H. Ishida, S. Mano, R. Kimura*, H. Oota*

Genome-Wide SNP Analysis Reveals Population Structure and Demographic History
of the Ryukyu Islanders in the Southern Part of the Japanese Archipelago
Molecular Biology and Evolution (2014) 31(11): 2929-40. doi: 10.1093 Pii: msu230. [Epub ahead of print] (査読有)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催しなかった

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小金渕 佳江

北里大学大学院

Savage, Patrick, Evan

東京芸術大学

中込 滋樹

統計数理研究所

松前 ひろみ

統計数理研究所

間野 修平

統計数理研究所